社会保険の適用拡大により、パートタイマーやアルバイトなど短時間労働者の加入義務化が進んでいます。すでに過去の適用拡大は実施されましたが、2025年に成立した年金制度改正法により、制度の拡大はさらに続くことが決定しています。
2026年秋以降の「106万円の壁」撤廃や企業規模要件の見直しに向け、企業としてどう準備すべきか不安に感じている担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、制度拡大の背景や今後のロードマップ、対象となる企業・従業員の要件を詳しく解説します。また、総務担当者が行う実務や、従業員へそのまま配布できる説明資料のテンプレート、負担軽減のための補助金まで幅広く紹介しています。
参照:厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 社会保険が適用拡大された背景と今後の流れ
- 社会保険の対象となる企業とパート従業員の具体的な条件
- 総務がやるべき実務ステップと、コピペで使えるパート向け説明資料
1.社会保険の適用拡大とは

社会保険の適用拡大は、パートタイマーなど短時間労働者に対する社会保障を充実させるための法改正です。ここでは、適用拡大が始まった背景や国の意図、そして今後の流れについて詳しく解説します。
いつから始まった?制度の歴史と経緯
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大は、労働者のセーフティネットを広げる目的で、2016年10月からスタートしました。その後、以下のように段階的に対象企業が広げられてきた歴史があります。
| ~2016年9月 | 企業規模:制限なし 加入要件:正社員の「4分の3以上」働く場合のみ対象 |
| 2016年10月 | 企業規模:従業員501人以上 加入要件:週20時間以上勤務などの要件で義務化 |
| 2022年10月 | 企業規模:従業員101人以上 加入要件:週20時間以上勤務などの要件で義務化 |
| 2024年10月 | 企業規模:従業員51人以上 加入要件:週20時間以上勤務かつ月額賃金が8.8万円以上などの要件で義務化 |
さらに、2025年6月に年金制度改正法が成立したことで、適用範囲の拡大は今後も継続していくことが決定しました。これまで対象外であった小規模な企業や個人事業所においても、法令に基づいた計画的な対応と労務管理体制の整備が急務となっています。
参照:厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
なぜ拡大する?国の意図と背景
国が適用拡大を進める背景には、共働き世帯の増加など、働き方の多様化があります。自ら社会保険料を負担している人たちから、次のような不公平感を指摘する声が上がるようになりました。

扶養内で税金を払っていない人が、共働きで苦労している私と同じ社会保険を受けられるのはズルくない?

結婚してる人だけ「税金を優遇される枠」があるのって、羨ましいわ。
こういった不公平感を解消し、「働き方に中立な制度」を実現することが、適用拡大の目的です。また、少子高齢化による深刻な労働力不足が進む中、パート労働者などが「年収の壁」を意識して働く時間を調整している現状を改善することも、法改正の重要な狙いの一つとなっています。

【キャリアアドバイザーのワンポイント】
一方で、パート従業員からすれば「ただ手取りが減るだけ」、経営層にとっては「会社負担が増えるだけ」と受け止められるケースが多いのが現状です。
不安や疑問に丁寧に向き合い、十分なコミュニケーションを通じて理解と納得を得ていくことが求められます。
社会保険適用拡大の今後のロードマップ
2025年の法改正により決定した、今後の社会保険適用拡大スケジュールは以下の通りです。これらの変更時期を事前に把握し、社内体制を整えておきましょう。
| 適用年月 | 適用企業(規模要件) | 主な内容 |
| 2026年秋頃(予定) | 従業員数51人以上 | 賃金要件(月額8.8万円以上)の撤廃 |
| 2027年10月〜 | 従業員数36人以上 | 企業規模要件の引き下げ(51人→36人へ) |
| 2029年10月〜 | 従業員数21人以上 ※個人事業所含む | 企業規模要件の引き下げ(36人→21人へ) ※個人事業所の適用業種拡大 |
| 2032年10月〜 | 従業員数11人以上 | 企業規模要件の引き下げ(21人→11人へ) |
| 2035年10月〜 | 企業規模要件の完全撤廃 (1人以上の全適用事業所) | 企業規模要件の完全撤廃 |
※「週20時間以上働くパート」等が対象
参照:厚生労働省「社会保険適用拡大のこんなとき!どうする?」
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こちらの記事では、2024年10月改正の最新加入条件や罰則、などについて解説しています。従業員51人以下でも対象となる例外ケースについても詳しく説明しているので、現在の従業員の保険加入に迷った際の参考にしてください。
2.社会保険の加入対象となる企業と従業員

社会保険の適用拡大に向けて、自社が対象企業に該当するのか、そしてどの従業員が新たに加入対象となるのかを正確に把握することが実務の第一歩です。ここでは、具体的な要件と正しい人数の数え方を解説します。
対象となる企業と従業員数の数え方
現在は、「特定適用事業所」に対してのみ、短時間労働者の社会保険加入が義務付けられてます。
特定適用事業所とは
厚生年金保険の被保険者数が「51人以上(2027年10月〜は36人以上)」の企業
ここで注意すべき点は、従業員数の数え方です。企業全体の在籍人数ではなく、以下2つの合計数(現在の被保険者数)でカウントします。
- フルタイムの従業員
- 週20時間以上等の要件を満たして社会保険に加入している短時間労働者(パート・アルバイト)
1+2が51人以上だった場合は、社会保険加入が義務付けられる
ただし、週20時間以上で働いていたとしても、学生など加入対象外のパート従業員は、このカウントには含めません。
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社会保険の適用拡大に伴い、対象従業員が増加すると、社会保険料の計算や納付などの管理業務もより複雑になります。以下の記事では、社会保険料の基本的な計算方法から、実務で発生しやすいトラブルとその対応策までを網羅的に解説しています。総務・労務担当者の実務マニュアルとしてぜひお役立てください。
短時間労働者|社会保険の加入対象4要件
特定適用事業所で働くパートタイマーやアルバイトのうち、以下の4つの要件をすべて満たす方が社会保険の加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること(※2026年秋頃に撤廃予定)
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
- 学生ではないこと(休学中や夜間学生などは加入対象)
実務上は、雇用契約書に記載された週の所定労働時間が基準となります。残業などでたまたま週20時間を超えた場合は直ちに加入対象とはなりませんが、実態として週20時間以上の勤務が常態化している場合は、労働条件の変更手続きと併せて社会保険への加入が必要となります。

【キャリアアドバイザーのワンポイント】
「契約書だけ週20時間未満にして、残りは残業として処理し、扶養内にする」といった運用の企業も見受けられますが、実際の勤務が恒常的に週20時間以上なら、必ず社会保険へ加入しましょう。
事業所調査などで発覚すると、遡って加入手続きや保険料の追徴を求められる可能性があります。
社会保険適用拡大による人材不足・離職対策はお済みですか?
社会保険の適用拡大により、手取り額の減少を懸念したパートタイマーやアルバイトが労働時間を抑えたり、離職したりするケースが増加しています。特に労働力不足が深刻な運送業界では、この「働き控え」による影響が直撃し、ドライバーの確保が急務となっています。
欠員補充や新たな即戦力採用を急ぎたい場合は、転職エージェントの活用がおすすめです。ドライバー専門の転職エージェント「カラフルエージェント ドライバー」であれば、企業規模に関わらず、貴社に最適なドライバーをマッチング。まずはお気軽にご相談ください。
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3.企業がやるべき実務対応ステップ

社会保険の適用拡大にともない、自社が対象となった場合はどのように対応すればいいのでしょうか。ここでは、対象者の洗い出しから経営層への説明、従業員との面談、そして行政への届出やシステム設定まで、具体的なステップ順にやるべきことを解説します。
【時期別】実務対応の開始タイミングと実施内容
まずは、企業(事業主)がどの時期からどのような実務対応を進めるべきか、施行日に向けたスケジュールを一覧表で把握しておきましょう。
| 実施時期の目安 | 具体的な実務フローと対応内容 |
|---|---|
| 法改正施行の6ヶ月前〜 ⇒STEP1へ | ・現在の厚生年金保険の被保険者総数を算定し、自社が特定適用事業所に該当するか判定 ・週の所定労働時間が20時間以上となる対象者をリストアップし、企業負担分の法定福利費をシミュレーション |
| 法改正施行の4ヶ月前〜 ⇒STEP2へ | ・対象となるパート・アルバイト従業員向けの社内説明会を開催、または個別面談をセッティング ・手取り減少に対する心理的ブレーキに配慮し、将来の年金増や各種手当金といった加入のメリットを丁寧に解説 |
| 法改正施行の2ヶ月前〜 ⇒STEP3へ | ・「労働時間を維持・延長して社会保険に加入する」か「週20時間未満に抑える」か、従業員の意向を最終確定 ・意向に応じて労働条件通知書(雇用契約書)の再締結を行い、シフトや人員配置を再最適化 |
| 法改正施行当月〜翌月 ⇒STEP4へ | ・日本年金機構(管轄の年金事務所)へ「被保険者資格取得届」などの必要書類を期日までに提出 ・給与計算ソフトの社会保険加入ステータスや標準報酬月額のマスター設定を更新 |
STEP1:加入対象者の正確な洗い出しと経営層への説明
ステップ1
雇用契約書や就業規則に基づき、加入対象4要件(週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金8.8万円以上、2ヶ月を超える雇用の見込み、学生でないこと)をすべて満たす従業員をリストアップする。
対象者の人数が確定したら、経営層へ報告と説明を行います。社会保険料は労使折半であり、従業員だけでなく会社側にも同額のコスト負担が発生するため、以下をまとめて報告してください。
- 現在の加入対象者数
- いくら人件費が増える見込みなのか
- 自社で使える公的助成金などのリスト、など
利益を圧迫する経営リスクを早期に共有し、会社として対応方針の決裁を仰ぎます。
STEP2:面談と意向確認(コピペ用説明資料テンプレート)
ステップ2
対象となるパート従業員へ個別に説明し、今後の働き方の意向を確認する。
2026年の賃金要件撤廃を見据えた説明資料のテンプレートを記載しますので、実務に合わせて適宜調整してご活用ください。
皆様の今後の働き方について大切なご案内です。
国の方針により社会保険の加入条件が順次見直されており、将来的に「週20時間以上」働く方は、賃金額に関わらず社会保険に加入する見込みとなっています。
社会保険に加入すると、将来受け取る厚生年金が増額され、病気やケガでお休みした際の傷病手当金などが受け取れるようになります。一方で、保険料の控除により一時的に手取り額が減少する場合があります。
つきましては、今後のご希望(労働時間を増やして加入するか、時間を調整するか等)を伺うため、個別面談を実施いたします。まずはご不安な点などを遠慮なくお聞かせください。

【キャリアアドバイザーのワンポイント】
面談の結果「扶養内勤務」を希望するスタッフが増え、被保険者数が基準(現行51人以上、2027年10月以降は36人以上)を下回れば、特定適用事業所にはなりません。
ただし、判定は「直近12か月のうち6か月の勤務実態」で行われるため、人数が微妙な場合は早めに意向確認や契約・シフト調整を進めましょう。
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従業員の労働時間を変更して社会保険に加入させる場合や、逆に時間を減らす場合には、雇用契約の内容が変わるため「労働条件通知書」の再交付が必要になるケースがあります。以下の記事では、労働条件通知書の正しい書き方や、実務で注意すべきポイントを詳しく解説しています。
STEP3:年金事務所への届出
ステップ3
「被保険者資格取得届」を年金事務所に届け出る。
意向確認の結果、新たに社会保険へ加入することになった従業員については、管轄の年金事務所(または健康保険組合)へ速やかに手続きを行います。加入要件を満たす事実が発生した日から5日以内に「被保険者資格取得届」を作成し、提出してください。
なお、今回の法改正による適用拡大では、原則として国がシステム上のデータに基づいて自動的に判定・処理を行います。そのため、企業側から「特定適用事業所」に該当したことを届け出る必要はありません。
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社会保険の資格取得手続きを行う際は、年金事務所への届出だけでなく、社内での書類回収など付随する手続きも抜け漏れなく行う必要があります。以下の記事では、社会保険の加入基準から入社・契約変更時に必要な書類、期限管理のコツまでを徹底解説しています。
STEP4:給与計算システムの設定
ステップ4
社内の給与計算システムや勤怠管理システムの設定変更をする。
新たに対象となった従業員のマスターデータに社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の控除フラグを設定し、正しい標準報酬月額に基づく保険料が給与から天引きされるように変更します。
同時に、社会保険の未加入を希望して週20時間未満に労働時間を調整した従業員が、誤って基準時間を超過してしまわないよう、勤怠管理システムのアラート設定を見直し、厳格な労働時間管理体制を構築することが求められます。
負担を軽減する公的支援制度の活用
新たに社会保険を適用する際、企業と従業員の経済的な負担を和らげるための公的支援制度が存在します。
| 支援制度 | 制度の概要と実務上のメリット |
|---|---|
| キャリアアップ助成金 | パート・アルバイトの方を新たに社会保険に加入させ、週所定労働時間の延長や賃金上昇の取組を行った事業主に助成する制度。 |
| 保険料調整制度 | 事業主が従業員の社会保険料を一時的に負担することにより、対象となる従業員の保険料負担を通算3年間軽減できる制度。 |
参照:厚生労働省「支援制度について」
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まずは新たに発生する社会保険料の「会社負担分」がいくらになるのかを正確に算出できなければ、経営への影響を正しく見積もることはできません。以下の記事では、5つの社会保険ごとの会社負担割合や、具体的な計算手順についてわかりやすく解説しています。シミュレーションの際にご活用ください。
4.社会保険の適用拡大に関するよくある質問

社会保険の適用拡大に関する実務を進める中で、人事や総務担当者が直面しやすい疑問点をまとめました。労働時間の正しい計算方法や配偶者の扶養に関する取り扱いなど、現場で迷いやすいポイントを解説します。
-
週の所定労働時間はどのように計算すればよいですか?
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雇用契約書や就業規則で定められた所定労働時間で判断します。
労働契約上の所定労働時間が週20時間以上であるかが基準となります。繁忙期などの突発的な残業や休日出勤による労働時間は含めません。
ただし、契約上は20時間未満でも、実態として連続して2ヶ月を超えて週20時間以上働いている場合は、3ヶ月目から加入対象となる点に注意が必要です。
-
配偶者の扶養に入っている場合はどうなりますか?
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要件を満たした時点で、配偶者の扶養から外れることになります。
週20時間以上などの加入要件を満たすと、自身の勤め先で社会保険に加入する義務が生じます。その結果、配偶者の加入する健康保険の被扶養者や、国民年金の第3号被保険者の対象から外れ、ご自身で社会保険料を納めることになります。
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対象企業の「従業員数51人以上」はいつの時点で判断しますか?
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直近12ヶ月のうち、6ヶ月で基準を上回った場合に適用対象となります。
特定の月だけ一時的に51人を超えた場合は直ちに対象にはなりません。しかし、直近12ヶ月の間で被保険者数が51人以上となる月が6ヶ月以上あった場合、特定適用事業所に該当します。
一度該当すると、その後人数が減っても原則として適用が継続されます。
5.社会保険の適用拡大は早めの準備がカギ
社会保険の適用拡大は、誰もが安心できる社会保障制度の構築を目指すための流れです。2026年秋の賃金要件撤廃や、その先の個人事業所への適用拡大、企業規模要件の完全撤廃など、今後も大きな見直しが続きます。
実務においては、対象者を正確に把握し、経営層や従業員と早めのコミュニケーションを図ることが重要です。キャリアアップ助成金などの支援制度をうまく活用し、企業と従業員双方にとって納得のいく働き方の整備を進めていくことが求められます。
「制度が複雑でよく分からない」「対応が大変そう」と感じる担当者の方も多いかもしれません。しかし、必要な対応をSTEPごとに整理し、一つずつ着実に進めていけば十分対応できます。焦らず計画的に進めていくことが、スムーズな制度対応への近道です。
法改正で不足するドライバーを即日確保するには?
社会保険の適用拡大により、週20時間未満に勤務時間を調整する「働き控え」が生じ、従来どおりのシフトや人員体制を維持することが難しくなっている企業も少なくありません。
もともと2024年問題などによる人手不足が深刻な運送・物流業界やタクシー業界では、ドライバーの確保と定着がこれまで以上に重要になっています。
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