雇用契約書とは、企業と働く人がお互いの労働条件に合意したことを証明する書類です。法律で作成を義務ずけられているわけではありませんが、メリットが多くほとんどの企業で作成されています。
しかし「何を書けばいいのかわからない」「労働条件通知書と何が違うのか」など、いざ作成しようとすると迷うポイントは少なくありません。
この記事では、雇用契約書の基本的な位置付けから、労働条件通知書との違い、専門知識がなくても約15分で作れる「“労働条件通知書”兼“雇用契約書”」の作り方までをわかりやすく解説します。『兼用の1枚』を作成・運用することで、労務リスクの回避と作成コストの削減(業務効率化)を同時に実現しましょう。
- そもそも雇用契約書とは何か、労働基準法上の位置付けが理解できる
- 労働条件通知書との違いと、実務で役立つ「兼用の1枚」の運用方法
- 雇用契約書作成のポイントと、雇用形態別の注意点
1.雇用契約書とは?実務と法的位置付け

ここでは、雇用契約書の定義や労働基準法における位置付け、口頭契約との違いなど、実務で押さえておくべき基礎知識を整理します。
雇用契約書とは
雇用契約書とは
雇う側の企業と働く側の社員が、給料や勤務時間、休日などの労働条件にお互い合意したことを証明するための契約書類。
民法第623条に基づき、雇用契約は、労働者が労働に従事し、使用者がこれに対して報酬を与えることを約束することで成立します。雇用契約書は、書面にお互いが署名や押印を行うことで、合意した内容を明確な形として残す役割を持っています。
採用手続きや入社手続きの現場で広く用いられており、双方が労働条件を正しく認識し、安心して働くための重要なベースとなります。
口頭での約束でも法的には成立しますが、将来的な「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、労使間の信頼関係を強固にするために作成されます。

【編集部からのワンポイント】
「面接で家賃補助があると聞いたのに、実際はなかった」「営業職として採用と言われたのに、別部署へ配置された」など、口頭での説明と実際の労働条件が異なるトラブルは、珍しくありません。
参照:e-Gov 法令検索「民法」
雇用契約書は出さないと違反?労働基準法上の位置付け
実は、労働基準法などの法律において「雇用契約書」という名称の書面を作成・交付すること自体は直接義務付けられていません。そのため、作成しなかったとしても法律違反や罰則の対象とはなりません。
一方、法律上、会社に交付が義務付けられているのは「労働条件通知書」です。労働基準法第15条により、会社は労働者に対して、賃金や労働時間などの労働条件を明示することが義務付けられています。
参照:厚生労働省「労働契約等・労働条件の明示」
口頭契約の有効性と書面化が必要な理由
法律上、労働契約は口頭での約束であっても双方の合意があれば有効に成立します。しかし、口頭のみの契約でトラブルが起きた場合と、書面が残っている場合とでは、その後の展開が大きく異なります。
口頭のみで契約している場合
「言った」「言っていない」の水掛け論になりやすく、当事者間の話し合いだけでは解決できないケースも多い。その結果、労働審判、民事訴訟まで発展することも。
⇒結果として、本来であれば話し合いで収まったはずのトラブルが長期化し、双方にとって時間的・精神的な負担が大きくなる。
雇用契約書を結んでいる場合
双方が確認・合意した内容がその場で明確になるため、認識のズレそのものが生じにくくなる。
⇒仮に条件面での疑問や不満が出た場合でも、書面を確認すればどちらの主張が事実に基づいているかがすぐに判断でき、当事者間の話し合いだけで解決できる。
書面という客観的な証拠があること自体が、トラブルを深刻化・長期化させない一種の抑止力として機能するといえます。
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雇用契約書や労働条件通知書の交付は、入社手続き全体の中の一つのステップに過ぎません。社会保険や雇用保険の加入手続きなど、他に必要な書類や期限管理についても把握しておくと、入社対応をスムーズに進められます。
2.労働条件通知書との違いと兼用書類による効率化

雇用契約書と似た書類に「労働条件通知書」がありますが、両者には法的な性質や運用上の違いがあります。ここでは2つの違いをわかりやすく整理し、実務の手間を大幅に削減できる「兼用1枚」の活用法について解説します。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と雇用契約書の大きな違いは、「双方の合意が必要か」と「署名・押印の有無」にあります。
| 書類の種類 | 目的 | 詳細 |
|---|---|---|
| 労働条件通知書 | 労働基準法上の通知義務 | 会社から労働者へ一方的に働く条件を知らせる通知書類。会社の署名や押印のみで発行が可 |
| 雇用契約書 | 民法上の合意の証拠 | 会社・労働者の双方が契約内容に納得して同意したことを示す書類。双方の署名や押印が必要 |
通知書だけでは「会社から渡されたが同意していない」と主張される恐れがありますが、契約書であれば双方合意の事実を明確に証明できます。
「労働条件通知書兼雇用契約書」として1枚での運用が効率的
人事労務管理の実務においては、通知書と契約書を別々に2枚作ると、作成の手間がかかるだけでなく、二重入力による転記ミス・条件変更の反映漏れといった記載内容の食い違いが生じるリスクもあります。
そこでおすすめなのが、両者の役割を1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」の運用です。タイトルを兼用にし、末尾に社員の署名・押印欄を設けるだけで、法律上の労働条件明示義務を果たしながら、双方の合意も同時に証拠化できます。

【編集部からのワンポイント】
「労働条件通知書兼雇用契約書」は、作成コストと管理負担を大幅に減らせるため、多くの企業で導入されている方法です。
3.労働条件通知書兼雇用契約書の必須記載項目と雛形活用法

労働条件通知書と兼用して雇用契約書を作る場合、労働条件通知書としての要件を満たす必要があります。ここでは、必ず記載すべき必須項目と、社内制度がある場合に記載が必要な項目を解説します。あわせて厚生労働省が提供する無料テンプレートを活用した効率的な作成手順も紹介します。
必ず記載すべき「絶対的明示事項」(2024年4月改正対応)
書類を作成する際、労働基準法上「絶対に書かなければならない」と決められている項目があります。これを絶対的明示事項と呼びます。
■具体的には
- 労働契約の期間
- 働く場所
- 担当する業務内容
- 始業・終業時間
- 残業の有無
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 賃金の決定方法や支払い時期
- 退職に関するルール
- 就業場所や業務の変更範囲など
記載漏れがある場合は労働基準法違反として是正勧告の対象となる可能性があるため、最新の法令基準を確認して網羅しましょう。
社内制度がある場合に必要な「相対的明示事項」
退職手当や賞与など、その企業に該当する制度がある場合にのみ明示が必要となる項目を相対的明示事項と呼びます。
■具体的には
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲・決定方法・支払時期
- 臨時に支払われる賃金や賞与などの制度
- 労働者に負担させる食費・作業用品等に関する定め
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
- 休職に関する事項など
これらは自社に該当する制度がある場合にのみ記載義務が生じるため、就業規則の内容と照らし合わせながら漏れがないか確認しておきましょう。
なお、パート・アルバイトや契約社員を雇う場合は、ここで紹介した項目に加えて追加の明示事項があります。詳しくは4章で解説します。
厚生労働省のモデル様式を活用して「労働条件通知書兼雇用契約書」を作る
ゼロから書類を作成するのは大変ですが、公的機関が提供しているテンプレートを活用すればスムーズです。厚生労働省のWebサイトでは、必要事項があらかじめ網羅された「モデル労働条件通知書」のWordデータなどが無料で公開されています。
以下の手順で、自社にあった「兼用1枚」を作成しましょう。
- 【STEP1】厚生労働省のWebサイトでフォーマットをダウンロードする
- 【STEP2】タイトルを「労働条件通知書兼雇用契約書」とする
- 【STEP3】自社の就業規則や雇用条件に合わせて空欄を埋める
- 【STEP4】末尾に署名欄を付け加える
参照:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)」
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実際に労働条件通知書を作成する際は、自社の就業実態に合わせて微調整しなくてはいけません。特に運送業界には特有の記載ポイントがあるため、注意が必要です。詳しくは、以下の記事で解説しています。
4.雇用形態別の作成ポイント(正社員・パート・アルバイト)

労働条件通知書は、雇用形態によって記載すべき内容が異なります。ここでは、正社員とパート・アルバイト、それぞれの作成時に押さえておきたいポイントを解説します。
正社員作成時の注意点(配置転換・固定残業代など)
期間の定めがなく長期で働く正社員には、将来的な働き方の変化を見据えた記載が必要になります。将来的に転勤や部署移動の可能性がある場合、「就業場所や業務の変更範囲」にその旨を明確に書かなくてはいけません。
また、正社員の場合「固定残業代制」を取り入れている企業も多いでしょう。その場合、基本給と固定残業手当の金額をはっきり分け、何時間分の時間外労働に相当するのか、またその時間を超えた分は別途追加で支払うことを明記しなければ、法的に無効とされるおそれがあります。
■具体的な記載例
基本給 250,000円
固定残業代(時間外労働手当) 45,000円(1か月あたり時間外労働20時間分として算定)
賃金合計 295,000円
上記の固定残業代は、1か月20時間分の時間外労働に対する割増賃金として支給するものとする。実際の時間外労働時間が20時間を超えた場合は、その超過分について別途割増賃金を追加で支給する。
あいまいな記載に起因する未払い残業代請求トラブルを未然に防ぐためにも、金額と算出根拠を明記しましょう。
パート・アルバイト・契約社員作成時の注意点(パートタイム・有期雇用労働法対応)
パート・アルバイトなどの短時間労働者や、契約社員などの有期雇用労働者を雇う場合は、正社員と共通の明示事項に加えて、パートタイム・有期雇用労働法で定められた以下の5項目を書面で明示する必要があります。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
- 正社員との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨(2026年10月1日から追加)
また、契約期間が決まっている場合は、契約更新の判断基準や、通算契約期間・更新回数の上限の有無についても明確に記載することが求められます。
参照:厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」
参照:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」
法改正で無期転換後の労働条件も明示義務化に
アルバイトなどの有期雇用労働者について、2024年4月の法改正により、通算契約期間が5年を超えて契約を更新する際には、労働条件通知書に以下の2点を追加で明示することが義務付けられました。
- 無期転換申込機会:無期労働契約への転換を申し込めること
- 無期転換後の労働条件:無期転換後に適用される労働条件
■書類作成の手間に追われていませんか
正社員・パート・アルバイトと雇用形態が増えるほど、それぞれ記載すべき項目も変わるため、書類作成にかかる手間も比例して増えていきます。
書類対応に時間を取られて採用活動まで手が回らない場合は、求人票の作成から面接調整、条件交渉までを代行してくれる採用パートナーに任せるのも一つの方法です。
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5.雇用契約書を作成・締結する際の注意点

ここでは、就業規則との関係性や、記載漏れ・トラブルを防ぐために実務上気をつけるべき注意点を解説します。
就業規則や労働法規との矛盾を防ぐ
書類を作成する際は、自社の就業規則や労働基準法の内容と矛盾しないように注意しましょう。労働契約法第12条により、以下のように定められています。
- 就業規則より不利な条件の雇用契約書
⇒その部分は無効となり就業規則の基準が適用される - 就業規則よりも有利な条件の雇用契約書
⇒雇用契約書の条件が優先される
試用期間中の賃金や、勤務地限定社員の賃金体系など、雇用区分によって条件を分けるケースは実務でよくあります。その場合も、就業規則に根拠となる規定を設けておくことがトラブル防止のポイントです。
参照:e-Gov「労働契約法」
記載不備や労使トラブルを未然に防止するための注意点
記載漏れや曖昧な表現は、入社後の労使トラブルにつながる可能性があります。勤務時間や休日、割増賃金の計算方法などは、誰が読んでも誤解しないよう、具体的に記載することが大切です。
■例えば
- 悪い例
休日は原則として週休2日とする。 - 良い例
休日は毎週土曜日・日曜日および国民の祝日とする。ただし、業務の都合により会社が指定する日に休日を振り替える場合がある。
また、書類を作成した後は必ず2部印刷して労使双方で署名・押印し、それぞれ1部ずつ保管する運用を徹底してください。会社側で保管することはもちろん、労働者側にも控えを確実に渡すことがトラブル防止につながります。
署名前に「面接で聞いた話と違う」と指摘された場合の対応
これから署名を求めようとする段階で、労働者から「面接で説明された内容と違う」と指摘されるケースがあります。この場合、まずは署名を急がず、いったん保留にしたうえで、どの部分がどのように食い違っているのかを具体的に確認することが基本です。
食い違いの原因は、大きく分けて以下の3パターンに整理できます。求人票や面接時の記録と照らし合わせながら、それぞれに応じた対応を取ってください。
| 原因 | 対応 |
|---|---|
| 会社側の記載ミス・伝達不足 | 署名を保留し、正しい内容に訂正した雇用契約書を再度提示する |
| 面接時の口頭説明が曖昧だった | 署名を急かさず、契約書の内容について労働者が納得できるまで説明・話し合いを行う |
| 労働者側の記憶違いだった | 求人票やメモなど残っている記録を一緒に確認し、認識をすり合わせる。それでも一致しなければ、無理に署名を求めない |
話し合いで解決しない場合や対応に迷う場合は、社会保険労務士など専門家への相談も検討してください。
6.よくある質問

雇用契約書の作成や交付については、交付のタイミングや電子化など、実務担当者が迷いやすいポイントが多くあります。ここでは、よくある疑問とその回答をまとめています。
-
雇用契約書はいつ交付・締結すればよいですか?
-
労働条件の明示は、労働契約を締結する際に行う必要があります。
内定時点で労働契約が成立すると解されるのが一般的なため、内定を出し労働条件が確定した段階で交付・締結するのが安全です。遅くとも入社日までに双方で内容を確認しておきましょう。
-
雇用契約書の作成を拒否することはできますか?
-
雇用契約書自体の作成は法律上の義務ではないため、提示しないこと自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、エージェントや求職者から求められた際に拒否すると、企業としての信頼を損ね、内定辞退につながるおそれがあるため、拒否せず作成・提示するのが望ましいアプローチです。
-
小規模な企業やスタートアップでも作成・締結は必要ですか?
-
むしろ人手が限られている組織ほど、雇用契約書の作成・締結をすべきです。
1人の離職や労使トラブルが経営に与える影響が大きくなるため、創業期から「労働条件通知書兼雇用契約書」を用いた手続きを整えておくことが、組織の健全な拡大につながります。
なお、労働条件通知書は従業員数に関わらず必須となるため注意してください。
-
電子メールやWebサービスによる電子化(PDF等)は可能ですか?
-
会社側の都合で一方的に電子化を進めることはできません。労働者に「書面と電子、どちらをご希望ですか」と確認したうえで、電子化を希望された場合にのみ、電子メールやWeb上の電子契約サービスでの交付が認められています。
決定権はあくまで労働者側にあるため、紙を希望する労働者にも対応できる状態も維持しておく必要があります。選択肢を増やすことで管理の複雑化をまねくリスクもあるため、管理体制が整っていない場合は書面での運用に統一しておく方が安全です。
7.適切な雇用契約管理で労務コンプライアンスを強化
雇用契約書を作成・交付しないこと自体は違法ではありません。ただし、雇用条件について労使間の認識をそろえ、入社後のトラブルを防ぐためにも、雇用契約書を作成しておくことをおすすめします。
「作成の手間を省きたい」「書類管理を増やしたくない」という場合は、雇用契約書と労働条件通知書を1枚にまとめた「兼用1枚」の書面を活用する方法もあります。両者の違いを正しく理解したうえで兼用することで、書類作成・管理の負担を抑えながら、労働条件の明示義務にも対応できます。
適切な書類を整備することは、法令遵守(コンプライアンス)の強化だけでなく、入社する社員の安心感や、採用時のミスマッチ・入社後のトラブル防止にもつながります。厚生労働省のモデル様式なども活用しながら、効率的で適切な契約管理体制を整えましょう。