飲食店の店長採用は、店舗の業績やスタッフの定着を左右するため、一般的なスタッフ採用よりも見極めが難しい採用です。
「求人を出しても店長候補が集まらない」「採用してもすぐに辞めてしまう」と悩む採用担当者や経営者も少なくありません。
この記事では、求める人物像(ペルソナ)の設定から、求人票の書き方、面接で確認したい3つのスキル、早期離職を防ぐ受け入れ(オンボーディング)までを順に解説します。
- 飲食店の店長採用で失敗しないためのペルソナ設定と要件定義の手順
- 店長候補を集める募集手法と、求人票に書くべき内容
- 面接で数値管理やマネジメントの力を見極める質問例と評価の観点
1.飲食店の店長採用における現状と課題

店長クラスの中途採用は、スタッフ採用に比べて求める経験やスキルの水準が高く、条件に合う人材を見つけにくい職種です。
労働市場全体を見ても、厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」によると、2026年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で、求職者1人あたり1件を上回る求人がある状況が続いています。
飲食店の店長採用が難航しやすい主な要因として、次の3点が挙げられます。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)について」
求められるスキルの変化(現場調理からマネジメントへ)
従来の店長職では、接客や調理といった現場オペレーションのスピードや質が重視されてきました。
現場のスキルと経営的な視点の両方を備えた人材は限られるため、採用の競合が起きやすい状況です。
求職者と企業側のミスマッチによる早期離職
苦労して店長候補を採用しても、「入社前に聞いていた条件と現場の労働環境に差があった」「前職の実績を評価して採用したが、自社の店舗風土や運営方針になじめなかった」といった理由で、早期離職につながるケースは少なくありません。

応募を集めるだけでなく、自社のビジョンや実際の業務内容に合う人材を見極めるプロセスが必要です。
自社の採用の進め方に原因があるケース
採用がうまくいかない原因は、労働市場の状況だけでなく、自社の採用の進め方にある場合もあります。次のような点を見直すと、改善の糸口が見つかることがあります。
- 求める店長像があいまい
即戦力か育成枠かが決まっておらず、求人での訴求も面接の評価基準も定まらない - 求人票の情報が少ない
仕事内容や任せる権限、キャリアパス、異動の範囲が具体的に書かれておらず、求職者が求人を比較する段階で候補から外れやすい - 面接で成果の数字だけを見ている
前職の実績の数字だけで判断し、そこに至るまでのプロセスや自社の運営方針との相性を確かめていない
それぞれの対策は、次の章から順に解説します。
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ここまで紹介した3つの原因のほかにも、採用が思うように進まない背景には、募集の段階から選考、内定後の対応まで、採用プロセスのさまざまな場面に課題が潜んでいることがあります。採用がうまくいかない原因をどのように分析し、どう改善していけばよいかを、具体的な改善策とともに整理しています。
2.店長採用を成功させるための準備・ペルソナ設定

店長採用の第一歩は、自社店舗が今どのような店長像を求めているのかを言葉にして整理することです。
条件があいまいなまま募集を始めると、求める層に求人が届きにくくなるだけでなく、面接での評価基準もぶれやすくなります。
「即戦力」か「育成枠」かの方向性を整理する
求める人材像を整理する際は、まず、新規開店や既存店の立て直しをすぐに任せられる「即戦力店長」が必要なのか、一定の店舗経験があり、今後の教育によって店長への昇格を目指す「育成枠(店長候補)」を採用したいのかを明確にします。
求める経験レベルによって、設定すべき給与水準や、アプローチすべき採用チャネルは大きく変わります。
理想のペルソナ設計と労働条件の整備
ペルソナ(採用したい人物像を具体的に描いたもの)を設定する際は、次の要素を具体的に落とし込みます。
店長採用のペルソナ設定で決めておきたい3つの要素
- 実務経験・スキル
同業態での店長経験年数、数値管理(損益計算書の見方やFLコスト改善)の実績など - 行動特性(コンピテンシー)
トラブル時の対応力、アルバイトスタッフへの接し方、コミュニケーションスタイルなど - 労働条件・待遇の競争力
想定年収、年間休日数、残業時間の上限設定、評価制度の有無と内容
給与の設定では、他社の求人がどの程度の年収を提示しているかを把握しておくことが欠かせません。
当社で扱う飲食店の店長候補求人7件(2026年8月時点)の提示年収を集計したところ、年収の下限は350万〜450万円、上限は430万〜700万円でした。平均すると、下限は約411万円、上限は約534万円です。
| 項目 | 年収の範囲 | 平均 |
|---|---|---|
| 年収下限 | 350万〜450万円 | 約411万円 |
| 年収上限 | 430万〜700万円 | 約534万円 |
出典:当社の求人(2026年8月時点、飲食店の店長候補求人7件)
当社の転職支援担当者によると、同じ企業でも店長経験の有無によって年収の下限に差を設けている求人もあるといいます。
「即戦力」と「育成枠」で採用の方向性を分ける場合は、給与の幅(下限・上限の設定)にも差をつけておくと、求める経験レベルが求職者に伝わりやすくなります。なお、当社の求人7件をもとにした集計のため、目安としてご覧ください。
給与に加えて、評価制度や休日制度も、求職者が店長職の求人を比較する際の判断材料になりやすい項目です。こうした水準を参考にしながら、自社の条件を設定することが重要です。
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「即戦力」か「育成枠」かを決めたら、次は店長に求める経験やスキルを採用要件として言葉にしておくと、求人票の内容と面接の評価基準をそろえやすくなります。演繹的・帰納的なアプローチの使い分けや、職種別の設定例を交えながら、採用要件の作り方を解説しています。
3.ターゲットに届く求人募集の手法と原稿の書き方

設定したペルソナに効率よくアプローチするには、適切な募集チャネルの選択と、魅力を的確に伝える求人票の作成が重要です。
飲食店向け採用手法の比較
店長採用に使われる主な募集手法には、それぞれ次のような特徴があります。
| 募集手法 | 特徴・メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 飲食特化型求人サイト | 業界経験者や店長志望の意欲が高い求職者に直接訴求できる。 | 掲載コストが発生するため、ターゲットに合わせた原稿設計が必要。 |
| ダイレクト・スカウト | 転職市場に出てこない潜在層へ直接メッセージを送れる。 | スカウト文面の個別化や運用の工数がかかる。 |
| リファラル採用(社員紹介) | 社風とのマッチング度が高く、早期離職のリスクを抑えやすい。 | 紹介制度の周知やインセンティブ設計などの仕組み化が必要。 |
| 人材紹介(エージェント) | 即戦力レベルの店長人材を絞り込んで推薦してもらえる。 | 採用成功時の成果報酬コストが比較的高くなる。 |
応募意欲を高める求人票作成のポイント
求人票には、次の3点を明記することが大切です。
- 具体的な仕事内容
- キャリアパス
- 数字で見る職場環境
「アットホームな職場です」といった抽象的な表現にとどめず、店舗の席数やスタッフ数、任せたい権限の範囲(メニュー開発や仕入れの裁量など)をはっきり伝えます。
また、店長からエリアマネージャーや本部職へのキャリアステップを示すことで、入社後の成長イメージを持ってもらいやすくなります。
なお、2024年4月の職業安定法施行規則の改正により、労働者の募集を行う際には「従事すべき業務の変更の範囲」「就業の場所の変更の範囲」なども明示が必要になりました。
複数店舗を展開する企業では、将来の異動・転勤の可能性を求人票の段階で示しておくと、法令への対応と同時に、入社後の「聞いていなかった」というギャップの予防にもつながります。
出典:厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
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飲食特化型求人サイトを使う場合は、掲載料金の仕組みや媒体ごとの特徴を比べたうえで、店長候補に求人が届きやすいサイトを選ぶことが大切です。飲食業界の採用で活用できる求人サイトを9つ取り上げ、それぞれの費用相場と、自社に合った媒体を選ぶためのポイントをまとめています。
4.飲食店の店長適性を見極める面接質問例と評価基準

面接では、候補者の過去の具体的な行動を引き出し、店舗経営に必要なスキルと資質を備えているかを多角的に評価します。
職務経歴書にある「前職の店舗売上〇%アップ」といった成果の数字だけで判断せず、「どのような課題に対し、どう考えて行動したか」というプロセスを深掘りすることが大切です。
「数字・人・現場」で見る店長候補の3つのスキル
面接では、特に次の3つの観点に焦点を当てて質問を組み立てます。
- 数値管理能力
売上目標の達成に向けた具体的な施策や、FLコスト(原価率・人件費率)を適正化するための分析・改善力 - 組織マネジメント・人材育成力
アルバイトの採用や教育の手法、シフトに穴が開いた際の対応や離職防止の取り組み - トラブル・現場対応力
顧客からのクレーム対応や、厨房・フロアでの突発的な事故に対する判断力と柔軟性
具体性を引き出す面接質問例
候補者が再現できるスキルを見極めるために活用できる質問例は、次のとおりです。
| 評価項目 | 質問例 | 見極めのポイント |
|---|---|---|
| 数値管理力 | 「前職で人件費率が目標を超えそうになった際、どのような分析をして改善策を打ち出しましたか?」 | 感覚ではなく、客観的なデータや数値に基づいて対策を考え、実行できたかを確認する。 |
| 組織マネジメント | 「モチベーションが下がっているスタッフや、指導に従わないアルバイトに対し、どのように働きかけましたか?」 | 一方的な指示だけでなく、相手の立場に配慮した対話や関係づくりができるかを見る。 |
| トラブル・現場対応力 | 「店舗運営中に起きた最も大きなトラブル(クレーム等)と、その際の初期対応について教えてください。」 | 落ち着いて優先順位を判断し、二次被害を防ぐ責任感と現場対応力があるかを確認する。 |
面接で尋ねないよう配慮したい事項
店長候補の人柄や価値観を知りたい場面でも、応募者の適性や能力と関係のない事項を面接で尋ねることは避けます。
厚生労働省は「公正な採用選考の基本」で、採用選考の際に次のような事項を把握しないよう配慮を求めています。
- 本人に責任のない事項
本籍・出生地、家族(職業・続柄・健康・収入など)、住宅状況、生活環境・家庭環境に関すること - 思想・信条にかかわる事項
宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、愛読書、労働組合や社会運動に関すること
「ご家族はどのようなお仕事をされていますか」「尊敬する人物は誰ですか」といった、雑談のつもりの質問もこれらに当たります。質問は、数値管理・組織マネジメント・現場対応など、店長の職務に必要な能力を確かめる内容にしぼりましょう。
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面接全体の進め方や、志望動機・経歴の確認といったほかの質問パターンもあわせて準備しておきたい場合は、次の記事が役立ちます。採用を成功させるための面接の流れを7つのステップで整理し、実際の面接で使える質問例を50個紹介しています。
5.早期離職を防ぐ内定フォローとオンボーディング

店長を採用できても、入社直後のサポート体制が不十分であれば、ミスマッチや早期離職の原因になります。
入社前から引き継ぎ期間にかけて、丁寧な受け入れ体制(オンボーディング)を整えることが、定着率を高めるポイントです。
入社前の不安を解消するオファー面談
内定を提示する際は、提示条件(給与の内訳、想定残業時間、休日取得の実態など)や期待する役割について、候補者の疑問を解消するためのオファー面談を実施します。

入社前の情報をはっきり示しておくことで、入社後のギャップによる離職を防ぎやすくなります。
なお、3章で紹介した業務・就業場所の「変更の範囲」は、求人票だけでなく、採用時に交付する労働条件通知書にも記載が必要です(労働基準法に基づく労働条件の明示)。
オファー面談では、通知書の内容と説明にずれがないかも確認しておきましょう。
出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
段階的な受け入れプログラムの設計
入社後は、いきなりすべての店長業務を任せるのではなく、段階を踏んだ育成・引き継ぎ期間を設けることが望まれます。
- 第1段階(1か月目)
- 自社の理念やブランドコンセプト、店舗オペレーション(QSC=品質・サービス・清潔さの基準)の理解
- 第2段階(2か月目)
- 既存店長のもとでの数値管理の実務、アルバイトスタッフとの信頼関係づくり
- 第3段階(3か月目〜)
- 単独での店舗運営の開始と、エリアマネージャーによる定期的な面談フォロー
入社後も定期的に1on1面談などを実施し、悩みや課題を早めに把握する仕組みを整えることで、新しい店長が安心して力を発揮できる環境をつくれます。
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段階的な受け入れプログラムは、店長に限らず、中途入社者を早く戦力化し、職場への定着につなげるための取り組みとして活用できます。オンボーディングの基本から実践の進め方、具体的な導入事例、取り組みを成功させるためのポイントまでをわかりやすく解説しています。
6.飲食店の店長採用に関するよくある質問

ここでは、飲食店の店長採用で採用担当者が判断に迷いやすい「残業代の扱い」「未経験者の採用」「試用期間」の3点について、労務面の注意点も含めて回答します。
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店長として採用すれば、残業代を支払わなくてもよいですか?
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店長という役職名だけで、直ちに労働基準法上の管理監督者(労働基準法第41条第2号)に該当するわけではありません。
管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく実態(経営者と一体的な立場にあるか、十分な権限や相応の待遇が与えられているかなど)で判断されます。
厚生労働省も「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」等の通達で、店長等の管理監督者性を判断する際の要素を示しています。
管理監督者に当たらない場合は、時間外労働などに対する割増賃金の支払いが必要です。個別の判断は、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。
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飲食店の店長経験がない人を、店長候補として採用できますか?
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採用することは可能です。その場合は、即戦力ではなく育成を前提とした「店長候補」として募集し、店長を任せるまでの育成期間や評価の基準をあらかじめ決めておくことが大切です。
面接では、店長経験の有無よりも、接客業などでの対人対応の経験や、数字を使って改善に取り組んだ経験などを確認すると、適性を判断する材料になります。
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店長の適性を見極めるために、試用期間を設けてもよいですか?
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試用期間を設けること自体は可能です。設ける場合は、期間の長さや期間中の労働条件を、労働条件通知書や就業規則で明らかにしておきましょう。
試用期間中や期間満了時における本採用の見送り(解雇)は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は解雇権濫用(労働契約法第16条)となり無効となる可能性があるため、注意が必要です。
運用や契約書の記載に不安がある場合は、労働基準監督署や弁護士・社会保険労務士などに相談することを推奨します。
出典:e-Gov「労働基準法第41条第2号」、厚生労働省 長野労働局「多店舗展開する店舗における管理監督者の範囲の適正化について」、e-Gov「労働契約法第16条」
7.まとめ|飲食店の店長採用は人物像の明確化と入社後のフォローが鍵
飲食店の店長採用では、まず「即戦力か育成枠か」を決めて求める人物像を具体化し、その人物像に合った募集手法と求人票で応募者を集めることが出発点になります。
面接では、数値管理・組織マネジメント・トラブル対応の3点について、過去の具体的な行動を深掘りして見極めましょう。
あわせて、求人票やオファー面談で労働条件や異動の範囲をはっきり示し、入社後は段階的な受け入れと定期的な面談で新しい店長を支えることが、早期離職の防止につながります。