飲食業界における新卒採用は、売り手市場の継続や労働環境への懸念などから、母集団形成や内定辞退の防止の難易度が高まっています。
若手人材を獲得し定着させるには、従来の採用手法に加えて、求職者が求める「情報の透明性」に応える戦略が重要です。
この記事では、飲食業界の新卒採用における現状の課題から、初任給・年収に関する公的データ、求職者が気にする「ブラック企業」の判断基準、ミスマッチを防いで採用を成功に導く具体的なアプローチまでをわかりやすく解説します。
- 飲食業界における新卒採用の課題と働き方の今後の動向
- 飲食業界の初任給・年収に関する公的データと「ブラック企業」のチェックポイント
- 内定辞退を防ぐ5つの実践的アプローチと採用手法の比較
1.【データで見る】飲食業界の新卒初任給・平均年収と職種別の傾向

学生が企業を選ぶ際に重視する要素の一つが給与水準です。誤解や不安を解消するためには、自社の給与体系や将来の昇給モデルを明確に示す必要があります。
1. 飲食業界の新卒初任給・平均年収の相場データ
飲食業界の給与水準は、公的統計を「年間の平均給与」「月額賃金」「新卒の初任給」の3つの角度から確認すると、全体像をつかみやすくなります。
民間給与実態統計調査でみる年間の平均給与

国税庁の「令和7年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は、全体で487万円、「宿泊業,飲食サービス業」で約276万円でした。
ただし、この数値はパート・アルバイトなど正社員以外の方も含む平均です。
同調査では、全体の平均給与は正社員(正職員)が559万円、正社員(正職員)以外が210万円と大きく異なるため、正社員の年収水準とは分けて考える必要があります。
賃金構造基本統計調査でみる一般労働者の月額賃金
パートタイムを除いた一般労働者の月額賃金(所定内給与)でみても、厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」では、全体の340.6千円に対し、「宿泊業,飲食サービス業」は277.2千円で、産業別では最も低い水準でした。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(産業別)」
学歴別にみた新規学卒者の初任給

初任給についても、人手不足を背景に引き上げる企業が見られます。同調査で新規学卒者の賃金(全産業)を学歴別にみると、次のとおりです。
- 大学卒:262.3千円(前年比5.6%増)
- 専門学校卒:230.7千円(前年比3.5%増)
- 高校卒:207.3千円(前年比5.0%増)
学生は他業界の初任給とも比較するため、こうした公的統計で全産業の水準を確認し、自社の初任給の位置づけを説明できるようにしておくと安心です。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(新規学卒者)」
2. 職種別(店舗スタッフ・店長・本部職・専門職)の年収推移とキャリアステップ
飲食業界の年収は、役職や職種のステップアップに応じて変化します。呼称や昇格基準は企業によって異なりますが、一般的には以下のようなキャリアパスが見られます。
- 店舗スタッフ
接客・調理の実務と店舗運営の基礎を習得する段階 - 店長・マネージャー
売上管理、シフト作成、人材育成など店舗運営全体を担う段階 - エリアマネージャー・SV(スーパーバイザー)
複数店舗の統括や運営指導を担う段階 - 本部職(商品開発・人事・マーケティング等)
全社戦略の立案・実行に携わる段階
公的データの例として、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、関連する職業の賃金(年収・全国)が次のように示されています。
- 飲食チェーン店員:371万円
- 西洋料理調理人(コック):379.1万円
- フランチャイズチェーン・スーパーバイザー:525.1万円
(いずれも令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工して作成)
なお、これらの値は職業分類単位の集計であり、飲食業界に限った数値ではありません。
また、job tagでは「ハンバーガーショップ店長」も飲食チェーン店員と同じ371万円と示されており、店長などの役職による差はこの数値からは読み取れません。
業界平均の数字だけでは収入面が低く見えやすいため、正社員としてキャリアを重ねた先の姿を、自社のデータであわせて示すことが大切です。

入社初期の給与だけでなく、「店長昇格時にどの程度給与が上がるのか」「本部職への道筋があるのか」といった自社の昇給モデルを、具体的な金額やモデルケースで提示すると、学生の安心感につながります。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「飲食チェーン店員」、同「西洋料理調理人(コック)」、同「フランチャイズチェーン・スーパーバイザー」、同「ハンバーガーショップ店長」
2.「飲食はブラック?」学生が気にする疑問とブラック企業チェックのポイント

就活生が「飲食業界=ブラック」という先入観を抱く背景には、過去の業界イメージやインターネット上の口コミが影響しています。
採用活動では、学生がどのようなポイントで企業をチェックしているかを理解しておくことが重要です。
1. なぜ「ブラック」というイメージが定着しているのか?(労働時間・休日への懸念)
飲食業界がブラックと懸念される主な理由として、以下の3点が挙げられます。
これらが具体的に説明されない場合、学生は「不当に長時間働かされるのではないか」という疑念を抱きやすくなります。
2. 候補者が確認している「ホワイト・ブラック」を見極めるチェックポイント
就活生や求職者は、求人票や企業のWebサイトから以下のようなポイントを確認し、企業の信頼性を判断しています。
チェックポイント
- 固定残業代の表記
時間数や金額が明記されているか(月45時間に近い設定や、基本給が低すぎる場合は警戒されやすい) - 休日制度の表記
「完全週休2日制」か「週休2日制」か、年間休日数が明確に記載されているか - 離職率・平均勤続年数
情報の開示に積極的かどうか - 店舗での現場の様子
SNSや口コミサイトでの評判、実際に店舗を訪問した際のスタッフの表情や雰囲気
3. 企業側が提示すべき「情報の透明性」と信頼獲得のコツ
懸念を払拭する有効な方法の一つは、ネガティブに捉えられがちな情報も含めて、できる限り開示することです。
「繁忙期の平均残業時間」「シフトの確定時期」「有給休暇の取得実績」といった具体的な数値を誠実に開示する姿勢は、学生からの信頼につながります。
なお、新卒者等の募集を行う事業主には、若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)にもとづく職場情報の提供が求められています。提供する情報は、次の3つの類型に分かれます。
- 募集・採用に関する状況
直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数など - 職業能力の開発・向上に関する取組の実施状況
研修の有無および内容など - 職場への定着の促進に関する取組の実施状況
前事業年度の月平均所定外労働時間の実績など
3類型の情報を幅広く提供することは努力義務ですが、応募者や応募を検討している人などから求めがあった場合は、各類型について1つ以上の情報提供が義務とされています。
宿泊業,飲食サービス業の大学卒の3年以内離職率は55.4%であるため、自社の新卒採用者数と離職者数を開示できれば、業界平均と比べた定着の状況を学生が判断する材料になります。
求めがあってから対応するのではなく、採用サイトや説明会で先に示しておくと、透明性の高さを伝えやすくなります。
出典:厚生労働省職業安定局「求職者等への職場情報提供に当たっての手引」
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ミスマッチが起きる原因は、労働条件の伝え方だけでなく、選考での見極め方や入社後の受け入れ体制など、採用プロセス全体に潜んでいます。次の記事では、採用ミスマッチの原因を整理したうえで、7つの具体的な防止策や組織づくりのポイントを紹介しています。
3.飲食就活生(Z世代)が重視する正社員求人のポイント

現在の新卒学生は、知名度や表面上の初任給だけで企業を選ぶとは限りません。就活生がどのような基準で正社員求人を見極めているのかを知ることで、自社の求人表現や訴求ポイントを見直せます。
1. 働きやすさと労働環境の透明性(シフト制・固定残業代・福利厚生)
学生は求人を見る際、ワークライフバランスを保てるかを重視しています。
- シフト希望が通る頻度
- 実質的な年間休日数
- 住宅手当や食事補助 など
これらの生活に直結する福利厚生の充実度は大きな判断材料です。曖昧な表現を避け、求人票や労働条件通知書の記載内容を明確にすることが求められます。
2024年4月からは、募集時等に明示すべき事項として「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」などが追加されています。
複数店舗を展開する企業では、配属店舗や異動の可能性についても、求人票の段階で具体的に記載しておきましょう。
出典:厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
2. 明確なキャリアパスと早期からの成長環境
「いつ頃店長を目指せるのか」「店舗勤務の後にどのようなキャリアの選択肢があるのか」という視点も重視されます。
3. リアルな社風と人間関係(情報のオープン化)
職場の人間関係や店舗の雰囲気は、入社を決める際の大きな判断材料になります。
説明会での会社紹介だけでなく、実際に働く店舗スタッフや店長の声を聞ける機会があるかどうかが、志望度に影響します。
4.新卒採用を成功に導く5つの実践的アプローチ

母集団の確保から内定辞退の防止、入社後のミスマッチ解消までを実現するために、企業が取り組みたい5つのアプローチを解説します。
1. 採用SNS・ショート動画を活用した「リアルな現場」の発信
TikTokやInstagram、YouTubeショートなどの採用SNSを活用し、店舗の日常や調理・接客の様子、スタッフ同士のやり取りを動画で発信します。
テキストやパンフレットだけでは伝わりにくい職場の雰囲気を届けることで、学生の親近感や志望度を高めやすくなります。
2. 店舗体験型インターンシップと先輩社員交流の設計
会社説明会にとどまらず、実際の店舗で業務を体験できるインターンシップや、若手社員とのカジュアルな懇談会を設定します。
実際の業務や働く人を体感してもらうことで、入社後のイメージのギャップを軽減できます。
3. 早期からのキャリアパス明示と評価制度の提示
選考プロセスの中で、自社の評価制度(MBOやコンピテンシー評価など)や、先輩社員の昇進スピード・キャリア例を具体的に提示します。
成果や取り組みがどのように評価されるのかを示すことが、将来への安心感につながります。
4. 応募者の意向に寄り添う丁寧な内定者フォロー
内定を出した後も、入社までの不安を解消するための定期的な面談(1on1)や、内定者同士・社員との交流会を実施します。
内定辞退を防ぐには、一方的な連絡ではなく、相手の悩みに寄り添うコミュニケーション(候補者体験の向上)が重要です。
5. 自社に合った採用手法(ナビ・スカウト・学校連携・リファラル)の最適化
求人ナビサイトだけに頼らず、ダイレクトスカウト(オファー型採用)、専門学校や大学への学校訪問、既存社員の紹介によるリファラル採用など、複数の手法を組み合わせることが重要です。
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内定辞退を防ぐには、内定を出した後の関わり方が重要です。一方で、フォローのつもりの連絡や行事が、学生の負担や不信感につながってしまうケースもあります。次の記事では、効果的な内定者フォローの実践方法に加えて、避けるべき事例も紹介しています。
5.【手法別】新卒採用チャネルの特徴とコスト比較

自社の規模や予算、採用ターゲットに合わせて最適な採用手法を選ぶために、主なチャネルの特徴とコストの考え方を整理します。
1. 各採用手法(求人ナビ・ダイレクトスカウト・リファラル・学校訪問)の特徴
主要な新卒採用チャネルの特徴を、コスト感・メリット・注意点の観点で比較すると以下のとおりです。
| 採用手法 | コスト感(目安) | メリット・特徴 | 運用工数・注意点 |
|---|---|---|---|
| 大手求人ナビサイト | 高(掲載課金型が中心) | 認知度が高く、広範囲の学生にアプローチできる | 掲載費用が高額になりやすく、他社求人に埋もれやすい |
| ダイレクトスカウト | 中(成功報酬型・定額型など) | ターゲット層に直接アプローチでき、マッチ度を高めやすい | スカウト文面の作成など運用工数がかかる |
| 学校訪問・産学連携 | 低〜中(訪問の交通費等) | 調理・栄養・観光系の専門学校や大学で、自社に関心の高い学生と出会いやすい | 関係構築までに一定の期間が必要 |
| リファラル採用 | 低(紹介インセンティブ等) | 自社への理解が深い人材を獲得でき、ミスマッチが起きにくい | 大人数の採用には向かない |
2. 採用単価と自社規模に応じたチャネル選定のポイント
新卒採用の採用単価(1人あたりの採用コスト)は、利用する手法や採用人数によって大きく変わります。まずは自社の過去の採用実績から、手法ごとの採用単価を算出して比較することが出発点です。
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6.飲食業界の新卒採用に関するよくある質問|採用スケジュール・内定者対応

飲食業界の新卒採用を進めるうえで、人事担当者が抱きやすい疑問をまとめました。採用活動のスケジュールや内定者対応の注意点を、公的な要請内容をもとに解説します。
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飲食業界の新卒採用は、いつ頃から準備を始めればよいですか?
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大学・短大等の新卒採用については、政府が経済団体等に日程ルールを要請しています。
2027年度(令和9年度)卒業・修了予定者の場合、広報活動は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動は卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降が原則です。
なお、春休み以降に実施される2週間以上の専門活用型インターンシップを通じて高い専門性があると判断された学生については、6月より前に採用選考へ移行できるとされています。
2028年度以降の卒業・修了予定者については、政府が日程ルールの見直しに向けた検討を行っていると公表しています(2026年3月時点)。最新の要請内容は内閣官房のサイトで確認してください。
インターンシップや情報発信は、これらの日程から逆算して計画すると進めやすくなります。
出典:内閣官房「2027年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」、内閣府「黄川田内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和8年3月24日」
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高校生の新卒採用にも、スケジュールのルールはありますか?
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高校生の採用は、ハローワークと学校を通じて行うのが原則で、採用選考の期日が年度ごとに取りまとめられています。
2027年3月卒業予定者の場合、ハローワークでの求人申込書の受付開始が6月1日、企業による学校への求人申込みと学校訪問の開始が7月1日、学校から企業への応募書類の提出開始が9月5日(沖縄県は8月30日)、企業による選考開始と採用内定開始が9月16日でした。
大学生とは日程や応募の仕組みが異なるため、高校卒の採用を予定している場合は、最新の期日を厚生労働省やハローワークで確認してください。
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内定辞退を防ぐために、内定者に他社の選考を辞退するよう求めてもよいですか?
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若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)に基づく指針では、内定や内々定と引き換えに他社への就職活動を取りやめるよう強要することなど、学生の職業選択の自由を妨げる行為は行わないこととされています。
こうした行為は、場合によっては刑法上の脅迫罪・強要罪や民法上の不法行為に当たる可能性もあります。
内定辞退の防止は、学生の意思を尊重しながら、面談や交流会などで不安を解消する方法で取り組むことが望ましいでしょう。判断に迷う場合は、都道府県労働局やハローワークなど公的な窓口への確認をおすすめします。
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7.まとめ|透明性の高い情報発信と選考体験が新卒採用成功の鍵
飲食業界の新卒採用の成否は、条件をよく見せることではなく、労働環境やキャリアパス、職場のリアルな様子を透明性高く伝えられるかにかかっています。
就活生が抱く「ブラック企業への不安」や「キャリアへの懸念」を先回りで解消し、選考プロセスを通じて誠実に向き合うことが、自社にフィットする若手人材の獲得と定着につながります。
まずは自社の求人票や採用サイトを見直し、労働条件やキャリアパス、新卒採用者の定着状況などを具体的に伝えられているかを確認するところから取り組みましょう。