「建設業界は人手不足が深刻」と耳にしたことがある方も多いでしょう。一方で、「建設業界全体の離職率は、他産業と比べて特別高いわけではない」というデータもあります。
実際に現場で問題となっているのが、未来を担うはずの新卒層、特に専門職である施工管理職の若手離職です。
本記事では、施工管理職における新卒離職率の現状と、その背景にある構造的な課題を解説します。あわせて、企業の持続的な成長に欠かせない「若手定着率を高めるための具体的な対策」も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- データで見る施工管理のリアルな離職率
- 新卒の施工管理が辞めてしまう根本的な4つの理由
- 企業の未来を守る、若手の定着率を高める5つの対策
1.「建設業界の離職率は低い」は本当か?

建設業界は「きつい」「離職率が高い」といったイメージを持たれることも少なくありません。まずは、実際のデータをもとに現状を客観的に確認してみましょう。
データでみる建設業界の離職率
厚生労働省の調査によると、建設業界全体の離職率は、宿泊・飲食サービス業や生活関連サービス業と比較すると、実は低い水準にあります。
これは、一度定着すれば長く働き続けるベテラン層が業界を支えていることを示唆しています。
参照:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」
人事を悩ませる「新卒」離職率の高さ
このように、建設業界が抱える課題の原因は「離職率の高さ」にはありません。新卒者の定着率の低さこそが、課題の核心なのです。
2021年3月に卒業した新規大卒就職者のうち、建設業では3年以内に28.6%が離職しています。同じく「ものづくり」という共通点を持つ製造業の大卒離職率は18.4%で、10ポイント以上も高いことが分かります。
また、建設業界は急速な高齢化と後継者不足という構造的な課題も抱えています。若手の入職者自体が少ない中で新卒が離職してしまうことは、将来の担い手を失うことにつながり、企業にとって極めて重大な経営リスクといえるのです。
参照:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者分)」
2.なぜ新卒の施工管理は3年で辞めてしまうのか? 構造的な4つの理由

なぜ新卒の施工管理職は早期に離職してしまうのでしょうか。その背景には、単なる「仕事のきつさ」だけでは片付けられない、業界特有の構造的な問題が存在します。
理由1:労働時間・休日|長時間労働と休日出勤の常態化
施工管理の仕事は、工期という絶対的な制約の中で動きます。天候やトラブルによる遅れは、長時間労働や休日出勤でカバーせざるを得ない場面が多く、プライベートの時間が確保しにくいのが現状です。

ワークライフバランスを重視する現代の若者にとって、この働き方は大きな負担となるでしょう。
理由2:仕事の量・責任|4大管理がもたらす心身への重圧
施工管理は「品質・原価・工程・安全」の4大管理を担います。
多様な業務を同時にこなし、現場全体の責任を負うプレッシャーは計り知れません。特に経験の浅い新卒にとっては、その重圧が心身の疲弊に繋がりやすく、やりがいを感じる前に燃え尽きてしまうケースも多いようです。
理由3:人間関係|多岐にわたる関係者とのコミュニケーションストレス
施工管理は、発注者、設計者、専門工事業者の職人など、非常に多くの関係者の間に立つ調整役です。それぞれの立場や意見が衝突する中で、円滑に工事を進めるためのコミュニケーションは、精神的に大きなストレスを伴います。
特に、世代の異なる職人との関係構築に苦労する若手は多く、サポートが求められます。
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新卒の離職問題を改善するには、まず自社の離職率を正確に把握することが重要です。こちらの記事では、離職率の計算方法や具体的な改善策などをわかりやすく解説しています。
理由4:給与・評価|責任の重さと待遇のアンバランス
若手社員が早期離職を考える上で、無視できないのが給与や評価に対する不満です。「品質・原価・工程・安全」の4大管理を担い、現場全体の責任を負う施工管理の仕事は、その責任の重さや業務量に対して、待遇が見合っていないと感じさせてしまうことがあるのです。
自身の貢献や努力が、会社の評価や給与に正しく反映されていないと感じたとき、若手のモチベーションは大きく低下し、より良い待遇を求めて転職を考えるきっかけとなるのです。
3.新卒の定着率を高めるために企業ができる5つの対策

ここでは、新卒の離職率を改善するために、企業が主体的に取り組むべき5つの対策をご紹介します。
対策1:労働環境の整備|完全週休2日制の導入とDX推進
魅力的な職場への第一歩として、働きやすい就業環境を整えましょう。
■具体的には…
- 完全週休2日制の実現
- 勤怠管理システムを導入し残業等の徹底管理
- ITツールを活用して業務の効率化をはかるなど

2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)への対応を通して、従業員が働きやすい環境を整えていきましょう。
対策2:教育体制の強化|OJTとOFF-JTを組み合わせた長期的な育成
新卒社員はいきなり現場に配置するのではなく、体系的な教育プログラムで基礎知識や考え方を学ぶ機会を整えましょう。先輩がマンツーマンで指導するOJTに加え、定期的な集合研修(OFF-JT)で知識やスキルを補います。
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新卒の教育体制を強化する上で、適切なフィードバックのスキルは不可欠です。こちらの記事では、若手のモチベーションを高めながら成長を促す効果的なフィードバック手法を解説しています。
対策3:公正な評価制度の構築|納得感を高める評価基準とフィードバック
「何をどれだけ頑張れば評価されるのか」が明確でなければ、モチベーションは維持できません。評価基準を具体的に定め、それを全社員に公開しましょう。
評価結果を伝える際には、具体的な根拠と共に、今後の成長への期待を伝える丁寧なフィードバックを心がけましょう。
対策4:キャリア開発の支援|自律的なキャリア形成を促す仕組み
若手社員が将来のキャリアパスを描けるよう、会社として支援しましょう。若手のキャリア形成を支援する具体的な施策を紹介します。
- 1on1ミーティングの実施
定期的にミーティングを実施し、本人の意向を確認する - 資格取得支援制度の充実
自律的な成長を後押しする仕組みを整える - メンター制度の導入
目標となる先輩ができることで、自身の将来像をイメージしやすくなる
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適切な1on1の進め方については、こちらの記事を参考にしてください。若手社員の本音や悩みを引き出す定期的な対話の場を設け、その中でキャリアの方向性を一緒に考えることで、エンゲージメントを高めることができます。
対策5:組織風土の醸成|心理的安全性の確保とコミュニケーション活性化
若手が「分からない」と気軽に質問できたり、失敗を恐れずに挑戦できたりする「心理的安全性」の高い職場環境を作りましょう。経営層からのメッセージ発信や、部署を超えた交流の機会を設けるなど、風通しの良い組織風土を醸成することが、エンゲージメントの向上に繋がります。
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心理的安全性の高い職場環境は、新卒の定着率向上において重要な要素のひとつです。若手が失敗を恐れず挑戦でき、分からないことを気軽に質問できる雰囲気をつくるための実践的なテクニックを紹介しています。
4.【Q&A】施工管理の新卒離職に関するよくある質問

ここでは、人事担当者の皆様からよく寄せられる、若手の離職対策に関するご質問にお答えします。
Q1. 昔からこの業界は厳しいのが当たり前。今の若手が弱いだけでは?
A.価値観の変容を理解し、対応することが求められます。
今の若手世代は、給与だけでなくワークライフバランスや働きがいを重視する傾向にあります。彼らに選ばれる企業になるためには、旧来の慣習を見直し、時代に合った労働環境や育成体制へ転換していく視点が不可欠です。
Q2. 離職対策にコストはかけられません。まず何から始めるべきですか?
A.まずはコストをかけずに始められる施策から着手しましょう。
コストを抑えながら、モチベーションを高め、信頼関係を築くことができる施策も豊富にあります。
■例えば…
- 若手社員との定期的な1on1ミーティング
- 評価基準の明確化と丁寧なフィードバック
- 社内報や朝礼での活躍の紹介など
Q3. 現場のことは所長に任せています。人事がどこまで介入すべきですか?
A.現場と人事が連携して、全社で人材を育てる体制を構築しましょう。
人事部門の役割は「介入」ではなく「支援」です。現場任せにするのではなく、全社共通の育成の仕組みや評価制度といった「フレームワーク」を人事が提供し、現場の管理職がそれを円滑に運用できるようサポートしましょう。
5.新卒の離職問題は、企業の未来を左右する経営課題
施工管理の新卒離職は、企業の競争力や存続そのものに関わる重大な経営課題です。若手の定着を促すためにも、長時間労働の是正など「働きやすさ」の改善につとめるとともに、仕事に「やりがい」を感じ、将来のキャリアを描ける環境を整えることが不可欠です。
OJTやOFF-JTによる体系的な教育、適切な評価制度、1on1などによる定期的なコミュニケーションを組み合わせることで、若手が安心して成長できる職場を実現してください。
本記事で紹介した対策を参考に、自社の現状を見つめ直し、未来への投資として「若手が定着・活躍できる組織づくり」を始めましょう。
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