近年、職場でのハラスメント問題が企業経営に与える影響が深刻化しています。その中でも、モラルハラスメント(モラハラ)は、注意が必要な問題として注目を集めています。
モラハラは、被害者が一人で抱え込みやすく、気づいた時には深刻な状況に陥っているケースが少なくありません。人事・総務担当者にとって、モラハラの正しい理解と適切な対策は、従業員の安全配慮義務を果たし、健全な職場環境を維持するために不可欠です。
この記事では、モラハラの基本的な定義から具体的な事例、企業への影響、発生時の対処法、そして予防策まで、人事担当者が知っておくべき重要なポイントを体系的に解説します。
- モラハラの定義と特徴を正しく理解し、パワハラ・セクハラとの違いを把握することで、適切な初期対応ができるようになる
- 職場で起こりがちなモラハラの具体例を知ることで、早期発見と予防に向けた職場環境の改善ポイントが明確になる
- 発生時の対処法と予防策を体系的に学ぶことで、企業の法的リスクを回避し、健全な職場環境を構築する方法が身につく
1.モラハラの基本的な定義と特徴

職場でのモラハラ問題に適切に対処するためには、まずモラハラについての理解を深めることが重要です。ここでは、正確な定義やよく似た言葉との違い、特徴などを詳しく解説します。
モラルハラスメントとは何か
モラルハラスメント(モラハラ)とは、フランスの精神科医のマリー=フランス・イルゴイエンヌが、自身の著書で1998年に提唱した概念です。「モラル(道徳・倫理)」と「ハラスメント(嫌がらせ)」を組み合わせた造語で、言動や態度によって相手に精神的な苦痛を与える行為を指します。
具体的には、以下のような行為がモラハラにあたります。
- 言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つける
- 精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込む
- 職場の雰囲気を悪くさせるなど
モラハラの最大の特徴は、物理的な暴力を用いずに相手を精神的に追い詰める点にあり、「精神的な暴力」とも呼ばれています。
参照:Wikipedia「モラルハラスメント」
パワハラ・セクハラとの違い
モラハラとよく似た言葉として、パワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)がありますが、それぞれ明確な違いがあります。以下で詳しくみていきましょう。
モラハラ | パワハラ | セクハラ | |
---|---|---|---|
対象 | 上下関係なく、同僚間、部下、上司など | 上司から部下 | 上下関係なく、同僚間、部下、上司など |
内容 | 道徳・倫理に反した精神的嫌がらせ | 職務上の地位などのの優位性を背景とした嫌がらせ | 性的な言動による嫌がらせ |
具体例 | 無視、人格否定、陰口など | 過度な業務命令、暴言など | 性的発言、身体接触など |
モラハラ、パワハラ、セクハラの違いを正しく理解することで、適切な対処や予防が可能になるでしょう。
▼パワハラについて詳しく
モラハラと密接に関わるパワハラについても理解を深めたい方は、運送業特有のパワハラ問題と対策について詳しく解説した記事もご参考ください。
モラハラが見つけにくい理由
モラハラが他のハラスメントと比較して発見しにくい理由は複数あります。
- 客観的な証拠が残りにくい
身体的な暴力や明確な性的行為がないため、客観的な証拠が残りにくいことが挙げられます。暴言や無視、嫌味といった行為は、第三者が見ても「厳しい指導」や「個人的な性格の問題」として見過ごされがちです。 - 相談しにくい
被害者自身が「自分が悪いのではないか」と自責の念を抱きやすく、相談をためらう傾向があります。 - 周囲が気づきにくい
加害者は他の人には優しく振る舞い、特定の相手にのみモラハラ行為を行うケースが多いため、周囲が加害者の本性に気づきにくいという特徴もあります。
これらの要因により、モラハラは長期間潜在化し、深刻化してから発覚することが少なくないのです。
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2.職場で起こるモラハラの具体例

モラハラは、目に見えにくく、気づきにくい形で職場に存在することがあります。そこで、実際の職場でどのような言動がモラハラに該当するのか、具体的なケースを通じて確認していきましょう。
言葉による精神的攻撃
職場でのモラハラの中でも最も頻繁に見られるのが、言葉による精神的攻撃です。「君は本当に使えないな」「なんでこんな簡単なこともできないんだ」といった人格否定や能力否定の発言、「給料泥棒」「会社のお荷物」などの暴言が典型例です。
また、他の従業員の前での執拗な叱責や、「前の会社でも同じように失敗していたんじゃないか」といった過去を持ち出した嫌味も該当します。
これらの言動は、一見すると指導の範囲内に見える場合もありますが、継続的に行われたり、業務に関係のない人格攻撃が含まれたりする場合は明確なモラハラとなります。

重要なのは、受け手が精神的苦痛を感じているかどうかという点です。
無視や仲間外しによる孤立化
言葉による攻撃と同様に深刻なのが、無視や仲間外しによる孤立化です。業務上必要な連絡を意図的に行わない、会議や懇親会から除外する、挨拶を無視するといった行為が該当します。
「あの人とは関わりたくない」という理由で情報共有を怠ったり、チーム活動から排除したりすることで、被害者を職場で孤立させる手法です。
この種のモラハラは、被害者の業務遂行能力に直接影響を与えるだけでなく、職場での居場所を失わせることで精神的な打撃を与えます。また、他の従業員も巻き込んで集団で無視するケースもあり、被害者にとっては非常に苦痛な状況となります。
モラハラの兆候を見逃さず、早期に対処する姿勢が求められます。
業務上の嫌がらせ
業務に関連したモラハラも頻繁に発生します。具体的例をみていきましょう。
- 能力や経験に見合わない過大な業務を押し付ける
- 誰でもできるような単純作業ばかりを与える
- 重要な情報を意図的に教えない
- 必要な資料を渡さないなど
「この仕事、明日までにやっておいて」と無理な納期を設定したり、「君にはこの程度の仕事がお似合いだ」と能力を軽視した発言をしたりすることもあります。
これらの行為は、被害者の職業的成長を阻害し、評価にも悪影響を与える可能性があるでしょう。また、失敗を誘発するような環境を作り出し、その結果を責め立てるという悪質なケースもあります。
業務上の嫌がらせは、表面的には仕事の一環として見えるため、発見が困難な場合が多いのが特徴です。
プライベートへの過度な干渉
業務とは無関係なプライベートへの過度な干渉も、モラハラの一形態です。「恋人はいるの?」「なんで結婚しないの?」といった個人的な質問を繰り返したり、休日の過ごし方を詮索したり、家族構成について根掘り葉掘り聞いたりする行為が該当します。
また、SNSを執拗にチェックして私生活を監視したり、「君の服装はビジネスマナーに反している」と個人の価値観に基づいた批判を行ったりすることもあります。
このような干渉は、被害者のプライバシーを侵害し、職場でのストレスを増大させます。特に、拒否の意思を示しているにも関わらず継続される場合は、明確なモラハラとして対処する必要があります。

プライベートへの干渉は、職場での人間関係の境界線を曖昧にし、健全な職場環境を損なう要因となります。
3.モラハラが企業に与える深刻な影響

モラハラは当事者の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、職場全体の信頼関係やチームワークを損なう要因となります。そのため、企業としては早期発見と適切な対応が求められます。具体的にどのような影響があるのか、詳しく解説します。
従業員への心身の影響
モラハラが従業員に与える影響は多岐にわたります。特に深刻なのが、精神的な影響です。継続的に精神的攻撃を受けることで、被害者はうつ病や適応障害などの精神疾患を発症するリスクが高まるのです。
実際に、厚生労働省の調査では、職場のストレスが原因で精神疾患を患う労働者の数は年々増加傾向にあります。また、精神的なストレスは身体症状としても現れ、頭痛、不眠、食欲不振、胃腸障害などの不調を引き起こすことがあるのです。
これらの心身の不調は、当然ながら仕事への集中力や判断力の低下を招き、生産性の著しい悪化につながるでしょう。さらに、モチベーションの低下により、これまで意欲的に取り組んでいた業務に対しても消極的になり、職場でのパフォーマンス全般が低下する傾向が見られます。
▼従業員の心を守る
モラハラによる精神的影響を受けた従業員のケアには、体系的なメンタルヘルス対策が不可欠です。専門的な支援方法をこちらで詳しく説明しています。
組織全体への悪影響
モラハラの影響は被害者個人に留まらず、組織全体に波及します。最も顕著な影響は離職率の増加です。被害者だけでなく、モラハラが常態化している職場では「いつ自分が標的になるかわからない」という不安から、他の従業員も転職を検討するようになるでしょう。
また、モラハラが発生している職場では、従業員間のコミュニケーションが悪化し、チームワークが損なわれます。情報共有が滞り、連携が取れなくなることで、組織としての機能が低下するでしょう。
これらの要因が複合的に作用し、企業の競争力そのものが低下するリスクがあるのです。
企業が直面する法的リスク
モラハラは企業にとって深刻な法的リスクをもたらします。まず、企業には従業員に対する安全配慮義務があり、職場でのハラスメントを放置することは、この義務違反に該当する可能性があるのです。
被害者から損害賠償請求を受けた場合、企業は慰謝料や治療費、休業損害などの支払いを求められます。
■実際の裁判例…
モラハラによる精神的苦痛に対して数十万円から数百万円の慰謝料が認められるケースも少なくありません。
さらに、SNSの普及により、企業のハラスメント問題は短期間で広く世間に知れ渡る可能性が高まりました。「モラハラ企業」というレッテルが貼られることで、企業イメージが大きく損なわれ、顧客離れや優秀な人材の確保困難といった長期的な悪影響が生じる可能性があります。
また、求職者が企業の口コミサイトで職場環境を事前に調査することが一般的になっており、採用活動にも深刻な影響を与えかねません。
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4.モラハラが発生した時の対処法

モラハラが発生した際の適切な対処は、被害の拡大を防ぎ、問題を早期に解決するために極めて重要です。
被害者自身の行動はもちろん、上司や同僚、組織としての対応も大きなカギを握ります。ここでは、モラハラに直面した際に取るべき具体的な対処法を紹介します。
STEP1|相談を受けた時の初期対応
モラハラの相談を受けた際の初期対応は、その後の問題解決に大きく影響するため、細心の注意が必要です。以下のポイントをおさえて、相談者が安心して話せる環境を作りましょう。
- 【POINT1】相談者の話を否定せず真摯に聞く
「それくらいで」「考えすぎでは」といった反応は絶対に避け、相談者が勇気を出して話していることを理解し、受け止める必要があります。 - 【POINT2】相談内容の秘密保持を徹底
関係者以外に相談内容の情報が漏れることのないよう配慮してください。 - 【POINT3】相談者の意向を確認
「すぐに調査してほしい」のか、「まずは話を聞いてもらいたかっただけ」なのか、相談者がどのような対応を望んでいるかを把握し、無理に進めることなく相談者のペースに合わせた対応を心がけます。

必要に応じて、産業医やカウンセラーとの面談を提案し、メンタルヘルスのサポートも検討しましょう。
STEP2|事実確認の進め方
事実確認は、客観性と公平性を保ちながら慎重に進めてください。
- 1.詳細なヒアリング
- 被害者からの詳細なヒアリングを行い、いつ、どこで、誰が、何をしたのかを具体的に聞き取ります。
可能な限り、日時や場所、発言内容を記録し、証拠となる資料(メール、文書、録音など)があれば提出を求めます。
- 2.情報収集
- 第三者からの情報収集を行います。同じ部署の同僚や、問題の場面を目撃した可能性のある人から、中立的な立場で事実確認を行います。
この際、調査の目的と秘密保持の重要性を説明し、協力を求めます。
- 3.加害者への事実確認
- 加害者への事実確認は最後に行います。これは証拠隠滅や圧力を防ぐためです。
加害者に対しても、決めつけることなく弁明の機会を与え、双方の言い分を公平に聞き取ります。
収集した情報は時系列で整理し、矛盾点がないか検証してください。複数の証拠や証言が一致する場合、事実として認定する判断を行います。
STEP3|適切な措置の実行
事実確認の結果に基づいて、適切な措置を実行します。
■被害者に対して…
まずは、メンタルケアを最優先に行います。産業医との面談、カウンセリングの提供、必要に応じて休職の検討など、被害者の心身の回復をサポートします。
また、被害者が安心して働ける環境を整備するため、座席の配置変更や業務分担の調整なども検討します。
■加害者に対して…
モラハラの事実が認められた場合、就業規則に基づいて適切な処分を行います。軽微なケースでは口頭注意や書面による警告、重大なケースでは減給、出勤停止、場合によっては懲戒解雇も検討します。
また、加害者に対してハラスメント研修の受講を義務付けたり、行動改善計画の作成を求めたりすることも効果的です。
再発防止策として、関係者全員に対して適切な指導を行い、職場環境の改善に取り組みましょう。必要に応じて、組織の構造や業務プロセスの見直しも検討します。
5.モラハラを未然に防ぐ予防策

モラハラ問題に対して最も効果的なのは、事後対応ではなく、発生を未然に防ぐための予防策を講じることです。
日常的な職場環境の見直しや社員教育、風通しのよい組織風土づくりなど、モラハラを生みにくい体制を整えることで、トラブルの根本的な回避につながります。
社内体制の整備
モラハラを防止するためには、社内体制の整備が予防策の基盤として非常に重要です。ここでは、効果的な取り組みの具体例をご紹介します。
- 専用の相談窓口を設置
従業員が安心して相談できる環境を整備します。相談窓口は、人事部内に設置するだけでなく、外部の専門機関と連携したホットラインの設置も効果的です。 - 相談者のプライバシー保護
相談者のプライバシーを保護し、報復を防ぐためのルールを明確に定めておきましょう。 - 就業規則にモラハラの定義と禁止事項を明記
違反した場合の処分についても具体的に規定します。これにより、すべての従業員に対してモラハラが許されない行為であることを明確に示します。 - 処理手順を文書化する
相談から調査、措置に至るまでの処理手順を文書化し、一貫性のある対応ができる体制を構築します。定期的に体制の見直しを行い、社会情勢や法改正に対応した更新も必要です。
管理職に対しては、モラハラ防止における役割と責任を明確にし、適切な対応ができるよう研修を実施します。
研修・教育の実施
効果的なモラハラ防止には、全従業員を対象とした継続的な研修・教育が不可欠です。全社員向けのハラスメント研修では、モラハラの定義、具体例、影響について詳しく説明し、日常的に起こりがちな行為がハラスメントに該当する可能性があることを認識させます。
特に、管理職向けには特別な研修を実施し、部下とのコミュニケーション方法、適切な指導の仕方、問題発生時の対応方法について具体的に指導します。管理職は組織の中で影響力が大きいため、彼らの行動が職場文化を左右することを理解させることが重要です。
新入社員に対しては、入社時のオリエンテーションでハラスメント防止について説明し、会社の方針を明確に伝えます。
また、定期的な意識調査を実施し、職場環境の実態を把握しましょう。無記名のアンケート調査により、従業員の本音を聞き取り、潜在的な問題の早期発見につなげます。
健全な職場環境づくり
根本的な予防策として、「モラハラが発生しにくい健全な職場環境」の構築が必要不可欠です。以下のような取り組みを通して、安心して働きやすい職場づくりを心がけましょう。
■コミュニケーション改善
- 定期的にチームミーティングや部門間の交流イベントを開催
従業員同士が相互理解を深める機会を設けます。 - 1on1面談の活用
上司と部下が定期的に対話する仕組みを構築し、小さな問題を早期に発見し、大きな問題に発展する前に解決することを目指します。
■心理的安全性向上
- 意見を述べやすい雰囲気作り
従業員が自由に意見を述べ、失敗を恐れずにチャレンジできる環境を作ることで、ストレスの軽減とモラハラの防止につながります。 - 人事配置
相性や適性を考慮した配置を心がけ、不適切な人間関係が生じないよう注意しましょう。
■ワークライフバランスの改善
- ストレスの軽減
過度な業務負荷がストレスとなってモラハラの原因とならないよう配慮します。

多様性を尊重する企業文化を醸成し、異なる価値観や背景を持つ従業員が互いに尊重し合える環境を整備することも、モラハラ防止に効果的です。
▼ハラスメント予防策
ハラスメント全般の予防策をさらにに学びたい方は、以下のハラスメント対策ガイドで基礎から実践まで詳しく確認できます。ぜひ参考にしてください。
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6.理解・対処・予防で築く健全な職場環境
モラハラは企業にとって重大なリスクであり、人事担当者にはその適切な知識と対応力が求められます。まずはモラハラの定義や特徴を正しく理解し、具体的な事例を把握することで、早期発見と的確な対処を目指しましょう。
しかし、最も重要なのは発生を防ぐための予防策です。社内体制の整備をはじめ、継続的な研修・教育の実施や、健全な職場環境づくりを通じて、モラハラの起きにくい組織文化を築くことが重要です。
これらの取り組みを継続することで、従業員が安心して働ける職場を実現し、企業の持続的な成長にもつながるでしょう。
本記事を読んで、モラハラに対する理解が深まり、自社で取り組むべき課題や改善点を見直すきっかけとなれば幸いです。
▼心理的安全性の構築は不可欠
心理的安全性の高い職場づくりは、モラハラ防止の根本的な解決策です。具体的な実践方法については専門記事でより詳しく解説しています。