人材ポートフォリオとは？企業価値向上の鍵を解説

企業が持続的な成長を実現するためには、限られた人材の能力を最大限に活用することが不可欠です。

人材ポートフォリオは、従業員のスキルや経験、特性を体系的に分析・可視化し、最適な人材配置と育成戦略を実現するための重要なツールです。

人的資本経営が注目される現代において、企業価値向上の源泉となる人材戦略の基盤として、その重要性がますます高まっています。

1．人材ポートフォリオの基本概念と重要性

自社で人材ポートフォリオを作成するなら、まずは人材ポートフォリオの基本概念と、近年人材ポートフォリオが注目されている理由について、理解を深めておきましょう。

人材ポートフォリオとは？

人材ポートフォリオを活用することで、以下のような効果が期待できます。

• 適切な人材配置
  従業員のスキルや適性を把握し、最適なポジションに配置することで、生産性の向上が図れる
• 人材育成の効率化
  将来のリーダー候補や専門性の高い人材を特定し、計画的な育成が可能となる
• 組織の柔軟性向上
  事業環境の変化に応じて、人材の再配置やスキルの再構築が迅速に行える

▼人材ポートフォリオと密接に関連しているタレントマネジメントについて

人材ポートフォリオと密接に関連するタレントマネジメントについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事もご参考ください。

人材ポートフォリオが注目される背景

■近年の労働環境の大きな変化とは

• 少子高齢化に伴う労働力人口の減少
• 経済のグローバル化
• 働き方の多様化　など

こうした状況下で企業が持続的な成長を遂げるためには、従業員のパフォーマンスを最大限に発揮させることが必要不可欠であり、それを可能にするのが人材ポートフォリオです。

上記の理由から人材ポートフォリオの重要性が高まっています。

▼労働力不足を解消するために

以下の記事は、高齢者採用の法的要件から助成金活用まで、人事担当者必見の内容になっています。実務で使える具体的なノウハウを解説しているので、ぜひ参考にしてください。

2．人的資本経営時代における人材ポートフォリオの位置づけ

従来の人材管理が「人数」や「コスト」といった量的な視点に偏っていたのに対し、人的資本経営では「質」や「価値創造能力」に焦点を当て、人的資本を企業価値向上の源泉と捉えています。

そして人的資本経営が注目される現代において、人材ポートフォリオは企業の戦略実行を支える中核的なツールとなっています。

人材版伊藤レポートと動的人材ポートフォリオの概念

「人材版伊藤レポート」とは、企業の持続的な成長において人的資本経営がいかに重要であるかを広めるために、経済産業省が2020年9月に公表した報告書です。

さらに2022年5月に公表した「人材版伊藤レポート2.0」では、経営陣が人的資本経営をどのように具体化し、実践していくべきかのアイディアが提案されています。

この中で人的資本経営を成功させるための要素のひとつとして紹介されているのが、「動的人材ポートフォリオ」です。

これにより、企業は刻一刻と変化する市場ニーズに迅速に対応し、持続的な成長を実現できます。

人的資本情報開示の義務化とグローバルトレンド（ISO30414含む）

ひと昔前から企業の市場価値は、カネやモノなどの有形資産ではなく、知的財産や人材情報などの無形資産に移行しており、さらにESG投資が普及したことで、投資家からの企業の人材情報を開示する要求が強くなりました。

その結果、欧米諸国では上場企業に対して人的資本の情報開示が義務化され、日本でも2023年から上場企業を対象に人的資本の情報開示が義務化されました。

この人的資本の高まりの中で注目されているのが「ISO30414」です。

ISO30414に準拠することで、世界のどの企業でも同じように人的資本状況を把握できます。また、企業は、ISO30414に準じて人的資本の状況や戦略を明確に示すことで、投資家などからの信頼を獲得しやすくなります。

このように、人的資本経営が必要とされる現代において、人材ポートフォリオは、単なる人材管理ツールではなく、企業の戦略実行を支える重要な基盤ともなっています。

参考：野村総合研究所｜ISO30414（人的資本に関する情報開示のガイドライン）

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3．人材ポートフォリオを導入するメリット

人材ポートフォリオを導入することで企業は以下のようなメリットを得られ、企業の継続的な成長に貢献します。

最適な人材配置の実現

人材ポートフォリオを活用することで、社員のスキルや経験、特性を体系的に把握できます。これにより、最適な人材マッピングが可能となり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

また、従業員それぞれの個性やキャリア志向を考慮した配置が行えるため、モチベーションの向上や離職率の低下にも寄与します。

▼離職率の計算方法

人材ポートフォリオの活用効果の一つである離職率改善について、具体的な計算方法と対策をまとめた記事です。ぜひ参考にしてください。

社内人材の可視化と潜在能力の発掘

人材ポートフォリオは、社内に存在する人材のスキルや経験、志向性といった情報を可視化できます。これにより、従来の評価制度や職務履歴だけでは見落とされがちだった個々人の潜在能力を発掘できます。

例えば、将来のリーダー候補やイノベーションを生み出すポテンシャルのある人材を早期に見極め、適切な育成計画やキャリア開発プログラムを設計することが可能になります。

人材・人件費の過不足の正確な把握と最適化

人材ポートフォリオを通じて自社の人的資本の過不足を把握でき、適切な人材投資や再配置を行うことで、組織の持続的な成長を支える基盤を築けます。

また、組織に不足する人材がわかるため人材をムダなく配置でき、採用戦略を見直すことで人件費や採用費のコスト削減も見込めます。

従業員のキャリア開発支援と志向に合わせた育成

従業員一人ひとりの特性やスキルを明確にすることで、個別のキャリアパス設計が行いやすくなります。これにより、従業員の成長を促進し、組織内の人材の質を高められます。

さらに、従業員のキャリア志向と企業の方向性を一致させることで、エンゲージメントの向上や組織の一体感の醸成にもつながります。

4．効果的な人材ポートフォリオの作成手順

人材ポートフォリオの作成は自社でも可能です。ここでは、人材ポートフォリオの作成手順を紹介します。

STEP1：自社の経営戦略・ビジョンの明確化

まずは、人材ポートフォリオを作成する目的を明確にします。例えば、新規事業の展開やグローバル化推進に沿った人材配置、育成計画の策定などが挙げられます。

自社の経営戦略や方向性に沿った目的を明確化することで、効果的な活用が期待できます。

STEP2：必要な人材タイプと職種の分析・定義

STEP1で明確化した事業計画や経営戦略をもとに、求められる人材のタイプや職種を定義し、分類します。

例えば、「個人で行う仕事、組織で行う仕事」の軸と、「創造的業務、運用的業務」の軸を組み合わせることで、クリエイティブ人材（個人×創造的業務）、マネジメント人材（組織×創造的業務）、エキスパート人材（個人×運用業務）、オペレーション人材（組織×運用）の4つのタイプに分類できます。

ほかにもさまざまな分類の仕方があり、人材ポートフォリオの目的に合わせて適切な分類方法を選ぶことが重要です。

STEP3：現有人材の客観的な評価とマッピング

分類が決まったら、従業員を当てはめていきます。分類する際は、評価者の主観を排除し、客観的データに基づいて分類することが大切です。

例えば、従業員一人ひとりのスキルマップを作成すると、従業員の特性を一覧で確認でき、評価者が変わっても的確な作成ができます。

▼人材ポートフォリオのデータ収集におすすめ

従業員の多面的な評価を行う360度評価は、人材ポートフォリオ作成時の客観的なデータ収集に有効な手法です。ぜひ参考にしてください。

STEP4：理想と現実のギャップ分析

人材の分類ができたら、理想の配置と現状の配置を比較し、従業員の過不足を確認します。人材の過不足が把握できたら、配置転換や解雇、採用、育成などを検討し、人材配置の最適化を図ります。

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5．人材ポートフォリオ作成時の注意ポイント

人材ポートフォリオを作る際には、以下の点に注意が必要です。

目的をしっかり持つ

人材ポートフォリオを作成する際は、まず「なぜ作るのか」「何に活用するのか」という明確な目的設定が不可欠です。

目的があいまいでは、ただのデータの羅列となり、現場での実効性を失うリスクがあります。

労働法を意識する

人材情報を収集・管理する際には、個人情報保護法をはじめとする労働法規を十分に理解し、法令遵守の姿勢を徹底することが重要です。

過度な監視と捉えられないよう、信頼関係を前提とした運用が不可欠です。

従業員の気持ちを大切にする

人材ポートフォリオの構築には、従業員一人ひとりのキャリア意向や価値観を尊重する姿勢が欠かせません。

企業側が一方的に人材を「資源」として捉えるだけでは、現場の納得感が得られず、形骸化する恐れがあります。

従業員のスキルや経験などを把握し、最大限に活用するタレントマネジメントの視点からも、対話を通じた相互理解や、キャリア開発を支援する姿勢が組織の信頼構築につながります。

結果を活用する

人材ポートフォリオは作成して終わりではなく、経営判断や人事施策に「どう活用するか」が成否を分ける鍵となります。結果は定期的に見直し、環境変化に応じたアップデートを行うことが重要です。

作成政策に手間をかけすぎない

人材ポートフォリオの構築には手間と時間がかかります。初期段階から完璧を目指しすぎると、膨大な作業量がボトルネックとなるため、最初は重要な職種や部門に絞って、段階的に拡大していくのがおすすめです。

また、ツールやシステムを活用して効率化を図ることで、実務への負担を軽減しつつ継続的な運用が可能になります。

6．人材ポートフォリオ活用術3選

人材ポートフォリオは、企業が人材の能力や特性を可視化し、さまざまな戦略的活用ができる重要なツールです。ここではその中から代表的な3つの活用術を紹介します。

①採用に活かす

人材ポートフォリオを活用することで、自社の現状を把握でき、戦略的に人材の獲得を進められます。自社が求める人材が明確になることで、採用活動をスムーズに行え、採用コストの削減にもつながります。

②教育に活かす

人材ポートフォリオは、従業員の教育にも活かせます。人材ポートフォリオによって個々のスキルや特性、キャリアプランが正確に把握できるため、従業員それぞれに合った教育支援ができます。

▼目標管理の重要性

人材育成を効率的に進めるためには、目標管理制度の活用も効果的です。個人の成長と組織目標の連携方法をご紹介します。

③経営プログラムに活かす

人材ポートフォリオを実施することで、通常の人事評価では埋もれてしまう従業員の個性や才能の発掘が可能です。これにより、さまざまな経営プログラムで適材適所の人材配置ができ、人材教育の効率化も図れます。

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7．人材ポートフォリオ実践企業の成功事例

最後に、実際に人材ポートフォリオを導入し、成功を収めている企業事例を紹介します。

旭化成株式会社の戦略的人材獲得事例

旭化成株式会社では、経営戦略に基づき、毎年人材ポートフォリオを作成して全社的に必要な人材要件を洗い出し、それに応じた採用や育成を計画的に実施しています。

そして採用や育成では補えない人材が必要な場合には、企業の合併・買収（M&A）などで確保し、戦略的な人材獲得に成功しています。

参考：旭化成株式会社｜人財

三井情報株式会社のキャリアパス設計と人材育成

三井情報株式会社では、会社全体で従業員の成長をサポートするために、人材ポートフォリオを活用しています。

3つの教育プログラムを用意し、人材ポートフォリオをもとに個人にとって有益な教育を行います。これにより、個人力向上と組織力向上の両立を実現しています。

参考：三井情報株式会社｜三井情報グループ 第七次中期経営計画［ 2024年3月期 〜 2026年3月期 ］

東京海上ホールディングスのグローバル人材育成

東京海上ホールディングスでは、グローバル経営人材の育成などを目的とした人事制度を導入しています。

この人事制度では、最適な人材ポートフォリオを実現するために、経営陣レベルで必要な能力の要件を具体化しています。

また、グループ全体をマネジメントする部署の管理職に優秀な人材を配置することで迅速な人材育成を実現しています。

参考：東京海上ホールディングス｜Human Capital Report 2024

8．人材ポートフォリオで企業価値向上を実現

人材ポートフォリオは、単なる人材管理ツールを超えて、企業の戦略実行を支える重要な基盤となっています。

従業員のスキルや特性を可視化し、最適な配置と育成を実現することで、組織全体のパフォーマンス向上と持続的な成長が可能になります。

作成時は明確な目的設定と法令遵守を心がけ、従業員との信頼関係を築きながら段階的に進めることが成功の鍵です。

人的資本経営が求められる現代において、人材ポートフォリオを戦略的に活用し、企業価値の向上と従業員の成長を両立させることが、競争優位性の確立につながるでしょう。