タクシー業界で人材不足や高齢化が叫ばれる中、SNSを駆使して業界イメージを一新し、採用に成功している三和交通。
2021年には、「TikTok2021上半期トレンド」クリエイター部門にもノミネートされ話題となり、マスコミにも多く取り上げられています。
今回は、数多くの“バズ動画”を生み出している立役者「みぞ部長」こと溝口孝英さんにインタビュー。三和交通のSNS戦略のウラ側についてご紹介します。
- 三和交通の「みぞ部長」は、タクシー会社の認知度向上のために独自のSNS戦略を展開しており、特にTikTokでの活動が大きな反響を得ている。
- 「タクシーGPT」や「ロケットタクシー」など奇抜かつ手作りの企画にこだわり、経費をかけずに話題性を創出する戦略が成功し、会社の認知度向上や採用にプラスの効果をもたらしている。
- これらの取り組みにより、三和交通はタクシー業界の平均年齢(60歳前後)よりも若い平均年齢(40歳)を実現し、稼働率も業界平均の50%に対して85〜90%という高い水準を維持している。
1.「踊るタクシーおじさん」みぞ部長とは?
ー本日はよろしくお願いします!まずは、TikTokアカウントをはじめた目的や、「みぞ部長」が生まれたきっかけについて教えてください。

あらためて「みぞ部長」こと溝口と申します。よろしくお願いします。


そもそもは、「とにかくお金をかけずに会社を知ってもらう施策はないか」と、社長からオーダーをもらったのがきっかけでした。それで、いろいろ模索した結果、SNSの活用に行き着いたんです。
当時は2015年頃だったのですが、「まずはYouTubeをやっていこう」と、スタートはYouTubeでした。
内容は会社とは全然関係ないもので、広報の女性社員2人がお弁当を作ってみたり、心霊スポットに行ってみたり、大食い企画やってみたり、いろいろやりました。
ただ、これが鳴かず飛ばずで、まったく伸びなかったんです。
■三和交通YouTubeチャンネル

しかも、YouTubeの企画・撮影・編集すべて私が担当していたのですが、10分の動画でも6時間くらい編集に時間がかかるんです。
本業もありますから、仕事が終わったあとに取りかかるのですが、いつも夜の9時くらいまでかかっていました。
毎日夜遅くまで、ひーひー言いながら編集して公開して、でも全然再生数が伸びなくて、労力に対してコスパが全然あわなくて、それでも週に2本〜3本は公開していこうとやり続けて。今思い出しても大変な時期でしたね。
ー最初はYouTubeだったんですね。そこから徐々にTikTokへと主戦場を移していくわけですね。

そうです。TikTokを始めたのは2019年2月からです。
YouTubeに比べて、TikTokは15秒から30秒くらいの短い投稿が多くて、「これなら楽にできるのではないか」と思ってはじめたのがきっかけです。
試しに自分のアカウントをつくって、事務所内で踊っている動画を1回投稿してみたんです。
そうしたら通知がいっぱい来ていて、投稿にいいねやコメントが届いていて、「面白いおじさんがいる」みたいな反応をいただきました。
それで次の日にもう1回投稿したら、それもそれなりに反響があったんです。コメントの中身を見ていくと、若い人からのコメントが多くて、「これはハマるのでは?」と思いました。
それで社長に「三和交通のTikTokアカウントをつくっていいですか?」と相談したら、二つ返事で「いいよ、やってみたら」ともらったので、本格的に開始したんです。
ー最初はどのような内容からはじめたのですか?

反響のあった「踊ってみた」を中心にやっていました。自分の場合、実際には踊れていないのですが、手足が短いのでそれなりに見えるみたいで(笑)。
最初は一人で踊っていたのですが、だんだん一人じゃ寂しいと思って、「誰かいないかな」と考え、徐々に営業所の人間を巻き込むようになりました。「フォークダンスみたいな曲なら踊れるよね」という感じで3〜4人で踊ったりもしました。
そうしたら、「面白いおじさんたちがTikTokをやっている」「タクシー会社でこんなことやっているよ」とバズって数万、数十万と再生されていったんです。
それで、マスコミの目にも留まるようになって、大きく取り上げてもらえるようになっていきました。
いまではありがたいことに、芸能人やインフルエンサー、海外のアーティストの方とコラボ企画をやらせてもらったり、地元のイベントにお招きいただけるようになりました。
■三和交通TikTokアカウント
@sanwakotsu 久しぶりに相方と流行りのMamushi feat.Yuki Chiba のMegan Thee Stallionを踊ってみました。いやーーーー楽しい楽曲みなさん踊りましょう!#PR #mamushi #MeganTheeStallion #わたしはスター #三和交通 #踊おじさん #タクシー ♬ Mamushi (feat. Yuki Chiba) – Megan Thee Stallion
2.タモリ倶楽部から生まれた「部長」の名称
ー「みぞ部長」という名前はいつ生まれたんですか?

当時まだYouTubeを中心に運用していたものの、鳴かず飛ばずのときだったのですが、『タモリ倶楽部』で「頑張っているけど、全然バズらないタクシー会社」みたいなテーマで取り上げてもらえたんです。
そこで、当社の社員が出演した際に、画面に映っていないところで私がうるさかったらしくて、タモリさんに「変な部長いるね」「部長めっちゃうるさいな」とか言われて、いじられたんです(笑)。
そこから「部長」という呼び名が定着していきました。
ただ、TikTokが流行り始めた頃に動画がバズって取材が増えたときは、なぜか「社長」と呼ばれることが多かったんです。
体型が社長に見えるらしくて、高田純次さんにも取材してもらったのですが、ずっと「社長、社長」と言われていました(笑)。
それで、ややこしくなるので「部長で統一していこう」と。かつ「自分は溝口だから『みぞ部長』って名乗っておけばいいか」という感じで、自分でも「みぞ部長」と名乗り始めました。
ーそのような経緯があったのですね。ちなみに、溝口さんはもともと広告代理店やPR会社にいたわけではないんですよね?

いえ、もう根っからのタクシーマンです。21歳でタクシードライバーになって、一時はトラックの運転手もやっていましたが、最終的にタクシー業界に戻ってきて、ずっとタクシーです。
ちなみに、戻ってきた理由は、「ゴルフがやりたかった」というのが一番大きいです(笑)。
トラックドライバーだと、休みの日以外では、当然ですが有給を取らなければいけません。ただ、有給を取ると他の同僚の荷物が増えてしまうので、申し訳なくて取りづらいんです。
でも、タクシーは隔日勤務なので一日おきの勤務です。それなら気軽にゴルフに行けると思って、三和交通に転職したんです。
なので、SNSとは全く縁がなくて、mixiをやっていたくらいです。そのため、動画の企画や編集はイチから手探りで学びながらやっていきました。
3.「みぞ部長」が採用にもたらした効果とは?

ー多くのバズを生み出して、マスコミにも取り上げられるようになって、大きく認知が上がったわけですが、それによって採用に影響はありましたか?

はい。ありがたいことに、採用にも大きな効果がある手応えを感じています。
詳細なデータは取れていないのですが、応募者の母集団が増えたり、母集団の年齢が下がったのは確かです。
面接に来る人も私を見た瞬間に「知ってます!見てます!」みたいな反応をしてくれて、すでに三和交通がどんな会社かある程度理解してくれているんです。
また、タクシー業界の全国の平均年齢は60歳前後と言われているのですが、三和交通は40歳くらいの平均年齢になっています。
平均年齢が引き下がっているのは、新卒採用にも力を入れていることもありますが、そもそも新卒の方にもとっつきやすい会社に思われている印象はありますね。
さらに、その結果としてタクシー稼働率も高い水準をキープできています。
三和交通グループ8営業所で大体85%から90%前半くらいの稼働率なのですが、他社様だと50%くらいだと聞いているので、2倍近い稼働率を生み出せているんです。
ーそれはすごいですね…!

もちろん、様々な採用施策を実施しているので、TikTokだけの効果ではありません。
ただ、タクシー転職を考える際に、みなさんいろいろ調べると思うのですが、そのときに頭の片隅にでも「タクシー三和交通」が残っていて、「なんか面白い会社だな」という印象を持ってもらう。
そのとっかかりとして、TikTokの影響は大きいと感じています。
4.すべて手作り!予算はできるだけかけない!企画へのこだわり
ーSNSだけでなく、「みぞ部長に会いたいツアー」のWEBサイトなど、他の企画にも強いこだわりを感じますが、そのあたりもお伺いさせてください。

あれは私ではなく、完全に社長のこだわりです(笑)。
「みぞ部長に会いたいツアー」のWEBサイトのメインビジュアルも社長が企画して「『推しの子』の真似をしてください」と言われて、実はあれ200枚くらい撮ったんですよ。


最初20枚くらい撮って「社長、どうですか?」と聞いたら全部ダメで、自分は舌が短いのですが、「もっと舌を出して、もう一回!」と言われて…。
結局200枚くらい撮って、最後の3〜4枚でやっとOKになったんです。

ー裏ではかなり労力をかけているのですね…。他に印象に残っている企画はありますか?

エイプリルフール企画は毎回大変ですね。
毎年いろんな企画をやるのですが、いつも体を張ってやっています。
エイプリルフール企画1|「Taxi GPT」

『Taxi GPT』という企画があって、全身をブルーに塗った私が「ヒューマノイド乗務員」として量産されて、複数人登場する内容だったんです。


サイトのTOPでは複数の私が出ていますが、社長はCGを使うのを禁止しているので、青い塗料を耳の中まで塗られて、撮影していったんです。
みんなCGだと思ったらしいんですが、よく見ると首の後ろとか肌の色が見えるんです。「CGじゃなくて本当に塗られてるんだね」って(笑)。
いろんなカットを撮ったのですが、1カットに1時間くらいかかってました。撮影が終わって3日4日くらいは、洗っても洗っても耳の中の青い塗料は取れなかったですね。

エイプリルフール企画2|「ロケットタクシー」

他にも『ロケットタクシー』という、タクシーで火星に行くという企画も大変でしたね。

ーこれもなかなかぶっ飛んだ企画ですね。こちらもCGなしですか?

はい、しかもすべて自前でやっています。まず自社の工場で、特注の「ロケット型タクシー」をつくりました。
次に「火星のような砂地」がどこかにないか調べたんです。そしたら、千葉に「館山砂丘」というところがあって、そこで1日かけてロケをしました。
でも、その砂丘を登るのがものすごく大変で、進んでも進んでも上がっていかないんですよ。
営業所の所長も参加していたのですが、丘を登れなくて転倒したり、降りるときもそのまま転がり落ちてしまって、社長が下から写真を撮っていたのですが、「所長が転がった!」と大喜びでした(笑)。
それはYouTubeで公開されていますが、何回見ても笑えますね。
ーこの企画はどのくらい前から準備していたのですか?

企画は4〜5ヶ月前くらいから始まりました。
社長が企画好きで、いつもぶっ飛んだアイデアを持ってくるんです。しかも、車とかロケ地とか、妥協なくとことんこだわってつくりあげていきます。でも、予算はあまりかけずに、基本は手作りでなんとかやりくりしていきます。
ー衣装も本格的ですよね。

オレンジの作業着は映画『アルマゲドン』を真似しました。
以下は、とある道の駅の駐車場でみんなでヘルメットを持って歩いている画像ですが、アルマゲドンの最後の地球に戻ってきたシーンの再現ですね。

エイプリルフール企画3|超脱臭!絶対臭くないタクシー

あとは「超脱臭!絶対臭くないタクシー」という企画もやりました。

「車が臭い」「タクシーは臭い」というニュースがあったので、社長が「脱臭タクシーを作ろうよ」という感じで、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンみたいな車を作りました。
ただ、実際にナンバーを付けて走れないので、積載車に乗せて渋谷の駅の周りをぐるぐる回ったんです。所長が博士みたいな格好でカツラをかぶって助手席に乗って、私がトラックを運転しました。
ー渋谷だと目立ちそうですよね。

それが意外と全然気づいてもらえなかったんです(笑)。予告は一応SNSで発信して、X(旧Twitter)にも上げたんですけど、誰も見てくれませんでした。
ー労力をかけたけど、うまくいかない部分もあるんですね。

こういう企画は、「10個やって1個成功すればいいかな」というのが、私の考えです。企画が当たるかどうかは、もう法則とかなく、手当たり次第にやっています。

5.新卒3年目で年収1,000万円超えも!自由に働けて稼げるのがタクシー業界
ー最後に、溝口さんのタクシー業界に対する想いや、三和交通の特徴についてお願いできますか?

タクシーという仕事は自由な時間を使えて、しかも長く働くことができる職業だと思います。
弊社の場合は65歳定年なのですが、その後も70歳を超えて働いている方もいます。
ゴルフ倶楽部に入っている人や、野球をやっている人がいて、隔日勤務なので平日に行けるので、自由時間と趣味の両立ができる業界です。
自分の人生を楽しみながら仕事をしたいと思うなら、タクシー業界に踏み入れてもいいのではないでしょうか。
また若い世代の方々であれば、東京営業所では新卒入社3年目で年収1,000万円を超えている社員が2名います。普通に手取りで50万以上稼いでいる方もたくさんいらっしゃいます。
体力さえあれば大きく稼ぐこともできるのがタクシーの魅力です。
私が21歳でタクシーを始めたときも、朝普通に会社に来て、夏は夜中23時まで仕事したら、そのまま家に帰らず海に行って遊んで帰ってきて、夕飯を食べて、お風呂に入って寝て、また次の日に会社に行く、というサイクルでした。
若い人たちは体力があるのでそういう時間の使い方もできます。何より自分の自由な時間を持ちながら、やればやるだけ給与が上がります。
20代くらいだと同年代の方の給料より3〜4割高いと思いますし、年収1,000万以上になれば新車も買えます。今は昔と違って、社員が通勤で乗ってくる車もすごく良くなっています。
ですので、若い人たちにもぜひタクシーを一度試してみてほしいですね。その後、「やっぱり別の仕事をしたい」ということになって転職して、そのチャレンジがうまくいかなかったとしても、二種免許さえ持っていれば、またいつでも戻ってこれます。
その中でも三和交通の場合は、本日お話したようなぶっ飛んだ企画をやっているので、ドライバーをやりつつ私と一緒に企画をやって、自分も楽しんで給料をもらえるような形で、タクシー業界に足を踏み入れてくれると嬉しいですね。
