近年、企業内託児所の設置が注目を集めています。特に運送業界では、ドライバーの確保や女性活躍推進の観点から、その重要性が高まっています。
本記事では、企業内託児所の基礎知識から設置手順、具体的なコスト、成功事例まで、経営者や人事担当者が知っておくべき情報を完全網羅。企業内託児所導入の判断材料として、ぜひご活用ください。
- 企業内託児所の種類
- 企業内託児所の具体的な設置費用と運営コスト
- 具体的な運営方法と運送業界における企業内託児所の事例
1.企業内託児所とは?
企業内託児所について、その基本的な概念から詳しく見ていきましょう。
近年、働き方改革や女性活躍推進の観点から注目を集めている取り組みになります。
企業内託児所の仕組み
企業内託児所は、企業が従業員の仕事と育児の両立支援を目的として、事業所内もしくは近接した場所に設置する保育施設です。
従業員が出勤する際に子どもを預け、仕事終了後に迎えに行くことができる仕組みとなっています。
施設の運営は企業が直接行う場合と、専門の保育事業者に委託する場合があり、利用対象は主に0歳から就学前の子どもたちです。
企業内託児所が広まった理由
企業内託児所の普及には、以下のような社会的背景が影響しています。
人材確保の必要性が高まった
少子高齢化による労働力人口の減少に伴い、企業における人材確保の重要性が増しています。
特に物流業界では、経験豊富な従業員の確保が事業継続の鍵となっており、出産や育児を理由とした離職を防ぐための施策として、企業内託児所の設置が注目されています。
子育て世代の従業員が安心して働き続けられる環境を整備することで、貴重な人材の流出を防ぎ、長期的な企業の成長を支える基盤となっています。
託児所不足問題
待機児童問題に代表される保育施設の不足は、特に都市部において深刻な社会問題となっています。
こども家庭庁の統計によれば、2023年時点でも多くの地域で保育施設が不足しており、これが育児世代の就労を妨げる大きな要因となっています。
企業内託児所の設置は、この社会的課題に対する企業側からの具体的な解決策として位置づけられ、地域の保育需要の緩和にも貢献しています。
参考:保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)及び「新子育て安心プラン」集計結果
女性が活躍する機会の増加
企業における女性活躍推進の流れの中で、企業内託児所の重要性が高まっています。
特に運送業界では、女性ドライバーの採用・定着が重要な経営課題となっており、仕事と育児の両立をサポートする体制づくりが不可欠となっています。
企業内託児所の設置により、育児中の女性従業員が安心して働ける環境が整備され、より多くの女性が活躍できる職場づくりが進んでいます。
2.企業内託児所の3つの種類と特徴を比較
企業内託児所には複数の形態があり、それぞれに特徴があります。企業の状況に応じて最適な形態を選択することが重要です。
認可保育所(事業所内保育所)
認可保育所は、児童福祉法に基づいて国が定めた基準を満たし、自治体から認可を受けた最も信頼性の高い保育施設です。
施設の広さ、保育士の数、給食設備、防災対策など、細かな基準が設けられており、これらをクリアすることで公的な補助を受けることができます。
運営面では行政からの指導や監査が定期的に行われ、質の高い保育サービスの提供が求められます。
認可外保育所
認可外保育所は、認可保育所の基準を満たさないものの、企業の実情に合わせた柔軟な運営が可能な形態です。
設置基準や運営ルールが比較的緩やかで、企業独自の保育方針を実現しやすい特徴があります。
一方で、公的補助を受けられないため、運営コストは企業が主に負担する必要があります。
企業主導型保育所
企業主導型保育所は、内閣府が推進する新しい形態の保育施設です。
認可保育所ほどの厳格な基準はありませんが、一定の質を確保しつつ、企業のニーズに合わせた柔軟な運営が可能です。
施設整備費や運営費に対する助成金制度があり、企業の負担を軽減できる点が特徴です。
託児スペース
事業所内の一角を利用した簡易な保育スペースとして設置される形態です。
正式な保育施設としての認定は受けませんが、従業員の一時的な保育ニーズに対応できる利点があります。
設置や運営のハードルが低く、小規模な企業でも導入しやすい特徴があります。
3.企業内託児所のメリット
企業内託児所の設置は、企業と従業員の双方にさまざまなメリットをもたらします。具体的な効果と成果について見ていきましょう。
離職率低下と定着率向上
企業内託児所の設置により、育児を理由とした離職が大幅に減少することが報告されています。
特にドライバー職では、不規則な勤務時間により一般の保育施設の利用が難しいケースが多く、企業内託児所の存在は貴重な人材の流出を防ぐ重要な役割を果たしています。
また、子育て世代の従業員が長期的なキャリアプランを描きやすくなり、技術やノウハウの継承にもつながっています。
育児と仕事の両立支援でワークライフバランスを実現
企業内託児所は、従業員の育児と仕事の両立を直接的にサポートする施策です。
職場に子どもを預けられることで、送迎時間の短縮や緊急時の対応がスムーズになり、従業員の心理的な負担が大きく軽減されます。
これにより、仕事への集中力が高まり、業務効率の向上にもつながっています。
企業の社会的評価向上と採用力強化
企業内託児所の設置は、企業の社会的責任(CSR)の実践として高く評価され、企業イメージの向上に貢献します。
特に若手人材の採用において、育児支援制度の充実は重要な判断材料となっており、優秀な人材の確保にもつながっています。また、地域社会への貢献という観点からも、企業価値の向上に寄与しています。
4.企業内託児所の設置コスト
企業内託児所の導入を検討する際、コストは重要な判断材料となります。具体的な費用について詳しく解説します。
初期費用の内訳と具体的な金額
企業内託児所の設置には、施設整備や設備購入など、さまざまな初期投資が必要です。
一般的な規模(定員20名程度)の場合、建物の改修費用が300万円から、設備・備品の購入費用が100万円から、採用コスト(広告費)500万円からと合計700万円以上からの大きな金額が必要となります。
ただし、企業主導型保育事業の場合は助成金を活用することで、これらの費用の最大4分の3が補助される可能性があります。
人件費は大きな負担となりがちですが、多くの委託業者は自社雇用の保育士を派遣するサービスを提供しており、これにより保育士の採用・育成にかかるコストをほぼゼロに抑えることができるでしょう。
保育料の設定方法
保育料は企業の方針や従業員の負担能力を考慮して設定します。
一般的な認可保育所の保育料(月額2〜3万円程度)を参考に、企業の補助率を決定することが多いです。
従業員の所得に応じて段階的な料金設定を採用したり、兄弟姉妹の同時入所に対する割引制度を設けるなど、利用しやすい料金体系の工夫が重要です。
5.企業内託児所開設の6つのステップ
企業内託児所の開設には、周到な準備と計画が必要です。具体的な手順を解説していきます。
STEP1:設置形態の選択
まず、企業内託児所の設置形態を決定します。大きく3つの選択肢があります。
- 単独設置型
自社単独で設立・運営を行うタイプ - 共同設置型
複数企業で共同設置・運営を行うタイプ - 保育事業者設置型
保育事業者の施設を利用するタイプ
STEP2:運営方法の決定
運営方法は大きく2つから選択します。
自社で直接運営を行う「直営方式」と、専門の保育事業者に運営を委託する「委託方式」があります。
それぞれのメリット・デメリットを考慮し、自社に適した方式を選びます。
STEP3:従業員ニーズの調査
従業員に対してアンケートやヒアリングを実施し、以下の項目を把握します。
- 利用希望者数と子どもの年齢構成
- 希望する保育時間帯
- 利用頻度や曜日の希望
- 希望する保育料の上限
STEP4:関係機関への事前相談
設置に向けて、以下の機関との事前相談を行います。
- 内閣府(企業主導型保育事業の場合)
- 所在地の自治体(建築基準法関連)
- 消防署(消防法関連)
- 保健所(食品衛生法関連)
STEP5:設置場所の選定
以下の条件を考慮して最適な設置場所を決定します。
- 従業員の通勤経路からのアクセス
- 周辺環境の安全性
- 建物の構造や設備の適合性
- 将来的な拡張の可能性
STEP6:施設設計と定員設定
法令で定められた基準に従い、以下を確定させます。
- 保育室の広さ(児童1人あたりの必要面積確保)
- 必要な設備(調理室、医務室など)
- 安全対策(非常口、避難経路など)
- 定員数の設定
6.運送業界における企業内託児所事例
運送業界でも、先進的な企業が託児所設置に取り組んでいます。その具体的な事例を見ていきましょう。
カンダホールディングス
カンダホールディングスは、従業員の仕事と育児の両立支援を目的に、企業内保育所「ラビット保育園」を運営しています。
保育園の運営は専門事業者に委託し、調理師による自園調理を実施するなど、質の高い保育環境を整備。働く親の不安を解消し、安心して仕事に取り組める職場づくりを実現しています。
同社は「ワーク・ライフ・ハピネス」を重視し、企業内保育所の設置を通じて、従業員一人ひとりの充実した生活と持続的な成長をサポートしています。
SGホールディングス(佐川)
SGホールディングスは、グループ初の事業所内保育園「SGH Kids Garden」を東京都江東区に開設しています。定員20名の施設では、認可保育園同等レベルの教育を提供し、独自の「木育」プログラムを導入。
自社グループの森林資源を活用した内装や玩具により、自然との共生を意識した保育環境を実現しています。
ランドリーやおむつなどの充実したオプションサービスで働く親の負担を軽減し、朝7時から夜7時までの柔軟な保育時間で、従業員の多様な勤務形態にも対応。待機児童問題の解消と女性活躍推進の両面からグループの発展を支えています。
7.企業内託児所を充実させて長期雇用を目指す
企業内託児所の設置は、単なる福利厚生の枠を超えた経営戦略として注目されています。人材確保の難しい運送業界において、託児所の存在は重要な差別化要因となり得ます。
確かに、設置・運営には相応のコストと労力が必要ですが、補助金制度の活用や段階的な導入により、実現へのハードルは確実に下がっています。
従業員の働きやすさと企業の持続的な成長の両立を目指す上で、検討に値する選択肢といえるでしょう。