Web上には社内不倫に関する情報が溢れていますが、その多くは当事者やその配偶者の個人的な悩みに焦点を当てたものです。
しかし、企業の人事・総務担当者には、個人の問題とは一線を画した、組織としてのリスク管理と法的に適切な対応が求められます。
この記事では、他のサイトでは踏み込まれることの少ない「企業視点」に特化し、社内不倫発覚時の具体的な対処手順、懲戒処分や解雇の法的判断基準、そして将来のリスクを低減する予防策まで、人事担当者が知っておくべき実践的な知識を詳しく解説します。
適切な対応により法的リスクを回避し、健全な職場環境を維持するための実務的なガイドラインとしてご活用ください。
- 事実確認から懲戒処分まで、裁判で負けない段階的な対応手順
- 匿名相談窓口の設置から就業規則の具体的記載例まで、問題発生前に手を打つ方法
- 配置転換が困難な小規模企業でも使える代替手段や外部専門家活用のコツ
1.社内不倫とは?基本的な定義と企業への影響

社内不倫問題への対応を検討するにあたり、まず基本的な定義と企業への影響を整理しましょう。
社内不倫の法的な定義
社内不倫とは、同じ会社で働く従業員同士が不倫関係にあることを指します。通常の不倫とは違い、同じ職場という密接な環境で行われることにより、企業の業務や職場環境に直接的な影響を与える可能性が高い点が特徴です。
企業が受ける具体的な影響
社内不倫が企業に与える影響は多岐にわたります。
- 1. 業務への直接的な支障
不倫関係にある従業員が業務時間中に私的な連絡を取り合う、あるいは業務に集中できず生産性が低下するなど、具体的な業務効率の悪化がみられるケース - 2. 職場環境・人間関係の悪化
当事者の行動が周囲の従業員に不快感を与えたり、チームの士気を下げたりするケース。関係が破綻した後の対立が職場に持ち込まれる、あるいは他の従業員が派閥化するなど、職場全体の雰囲気を悪化させる場合もこれに含まれます - 3. 企業の指揮命令への違反
不倫関係を利用して不公平な人事評価を行ったり、業務上の指示を歪めたりするなど、公正であるべき企業の指揮命令系統が乱されるケース - 4. 企業の社会的信用の毀損
役職者などが関与する不倫が外部に露見し、企業のブランドイメージや社会的評価を著しく損なうケース
社内不倫を理由とした懲戒処分・解雇の法的判断基準
社内不倫への対処を検討する際、懲戒処分や解雇の可否について正確な法的理解が不可欠です。
■懲戒処分が可能となる条件
判例(例:長野電鉄事件)においても、私生活上の行為が懲戒処分の対象となるのは、以下の条件を満たす場合とされています。
- 企業秩序に直接の関連を有するもの
- 会社の評価の低下・毀損につながるおそれがあると客観的に認められるもの
これらの判断は、社会通念や企業活動への影響の程度を考慮し、行為の内容や社会的影響を総合的に見て判断されます。

単純に不倫をしたという事実だけでは懲戒処分は困難で、会社の業務や職場環境に具体的な悪影響が生じていることを客観的に証明できる必要があります。
参照:全国労働基準関係団体連合会「雇用関係存続確認等請求上告事件」・e-Gov法令検索|労働契約法第15条(懲戒)
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社内の問題行為に対処する際は、適切な就業規則の整備が不可欠です。法改正に対応した就業規則の作成方法については、以下の記事を参考にしてください。
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2.不当解雇と有効な解雇の違い
社内不倫による解雇の
判断ポイント
原則:不当解雇
社内不倫を理由とする解雇は
不当解雇
例外:有効な解雇
企業の業務に重大な支障をきたし、解雇以外では問題解決が困難
- 業務運営への深刻な影響
- 職場環境の著しい悪化
- 代替手段(配置転換など)が困難
社内不倫が発覚した場合、企業として解雇を検討すべきかどうかは判断が難しいテーマです。ここでは、企業が留意すべき主なポイントを確認していきましょう。
原則:社内不倫を理由とする解雇は不当解雇
現在の判例では、社内不倫を理由とする解雇は原則として不当解雇とされています。大阪地方裁判所平成28年5月17日判決では、以下のような行為があったにもかかわらず、解雇は不当と判断されました。
- 勤務シフトの不正変更
- 業務に無関係なメール約1000通のやり取り
- 職場での暴力行為
- ストーカー行為など
裁判所は「解雇するのは重きに過ぎる」として、配置転換等での対応が適切であったとしています。
例外:解雇が有効とされたケース
ただし、以下のような特殊な状況では、解雇が有効と判断された事例もあります。
■事例1:名古屋工芸社事件
小規模同族会社での不倫により業務に重大な支障が生じたケース。会社の規模が小さく配置転換が困難であり、かつ業務運営に深刻な影響を与えたことから解雇が認められた。
■事例2:長野電鉄事件
年配者男性と未成年女性の不倫で、女性従業員の退職や採用への支障が生じたケース。職場環境の悪化が著しく、企業の採用活動にまで影響を与えたことが解雇の正当理由として認められた。
これらの例外的なケースに共通するのは、不倫が企業の根幹業務に重大な支障をきたし、配置転換等の代替手段では問題の解決が困難であったという点です。
就業規則の整備における注意点
懲戒処分を行うためには、就業規則に適切な懲戒事由が規定されている必要があります。
【必要な条項例】
- 公序良俗に反する行為をした場合
- 社内の風紀・秩序を乱す行為をした場合
- 会社の名誉・信用を著しく毀損する行為をした場合
これらの条項を設ける際は、具体的にどのような行為が対象となるのかを明確にしておくことが重要です。曖昧な表現では、後に争いになった際に懲戒処分の根拠として認められない可能性があります。

ただし、これらの条項があるだけで直ちに懲戒処分が可能になるわけではありません。実際の処分には、労働契約法第15条に基づき「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
3.社内不倫発覚時の適切な対処手順5ステップ
社内不倫がわかったら?
対応手順5ステップ
情報収集と事実確認
影響度の判定と対応方針の決定
当事者への指導・注意
配置転換・異動の検討
懲戒処分の実施(必要に応じて)
社内不倫が発覚した場合の具体的な対応手順について、5つのステップでわかりやすく解説します。
ステップ1:情報収集と事実確認
まずは、噂と事実を明確に区別しましょう。以下のような点をチェックし、客観的な事実に基づいて状況を把握してください。
- 勤怠データに不自然な点がないか
- 同時に休暇を取得していないか
- 業務上不自然な行動がないかなど
ただし、プライバシーに配慮した慎重な調査が必要で、人格権の侵害にならないよう注意が必要です。この段階では、調査していることを当事者に知られないよう細心の注意を払い、事実関係の把握に努めましょう。
ステップ2:影響度の判定と対応方針の決定
収集した情報をもとに、企業への影響度を客観的に評価します。職場環境への影響の程度や業務効率への支障の有無、他の従業員への影響、企業の社会的評価への影響などを総合的に判断してください。
その後、影響度に応じて対応レベルを決定します。軽微な場合は口頭注意、中程度の場合は書面警告や配置転換、重大な場合は懲戒処分を検討します。この段階で経営陣や法務担当との連携を図り、対応方針について合意を得ておきましょう。
ステップ3:当事者への指導・注意
影響度の判定結果に基づいて、当事者への指導を行います。面談では、具体的にどのような問題が生じているのかを客観的事実に基づいて説明し、改善を求めてください。感情的にならず、冷静かつ論理的に話し合いを進めることが大切です。
必要に応じて書面による警告を作成し、改善期限を明確にします。また、再発防止策について当事者と協議し、具体的な取り決めも行いましょう。この際、パワハラやプライバシー侵害にならないよう十分注意してください。

面談記録は必ず残し、後日の紛争に備えて客観的な証拠として保管しておくことも重要です。また、改善が見られるかどうかを定期的にフォローアップする仕組みも整えておきましょう。
ステップ4:配置転換・異動の検討
指導・注意により改善が見られない場合や、職場環境への悪影響が継続している場合は、配置転換や異動を検討します。複数の部署や事業所がある企業では、当事者のどちらかまたは両方を別の職場に配置することで問題の解決を図ることができるでしょう。
ただし、配置転換命令を行う際は、以下のような法的要件を満たす必要があります。
- 業務上の必要性があること
- 人事権の濫用でないこと
- 労働者に著しい不利益を与えないことなど
小規模企業で配置転換が困難な場合は、勤務シフトの調整や在宅勤務の活用、業務分担の見直しなどの代替案を検討しましょう。
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ステップ5:懲戒処分の実施(必要に応じて)
他の手段では問題の解決が困難であり、企業秩序への影響が重大な場合には、懲戒処分を検討します。処分の重さは以下の順で段階的に検討し、事案の重大性に応じて適切なレベルを選択してください。
- 戒告・訓告
軽い処分で、本人に対し口頭や書面で将来の注意を促すもの - 譴責(けんせき)
始末書の提出などを求め、公式に非を記録に残す処分 - 減給
一定期間、給与の一部を減額する経済的な制裁 - 出勤停止
一定期間の就労を禁止し、その間の賃金も支払われない処分 - 降格
役職や職位を引き下げることで、地位や待遇を下げる処分 - 懲戒解雇
最も重い処分で、企業秩序を著しく害した場合に即時に労働契約を終了させるもの
懲戒処分手続きでは、本人への弁明機会の付与、就業規則に基づく適正な手続きの実施、処分理由の明確化などが必要です。また、処分後の不服申し立てに備え、客観的証拠の整理と法的根拠の確認を行っておきましょう。
4.社内不倫に関連する法的リスクと回避策

社内不倫への対応には多様な法的リスクが潜んでいます。企業はこれらを事前に把握したうえで、適切な予防策を講じることが求められます。
不当解雇のリスクと対策
社内不倫を理由とした解雇が不当解雇と判断された場合、企業は従業員に対して1000万円を超える損害賠償を命じられることもあります。そのため、直ちに解雇と判断するのではなく、他の懲戒手段や対応策を十分に検討することが重要です。
まず配置転換や懲戒処分による対応を試み、それでも問題が解決しない場合のみ解雇を検討します。解雇を行う場合でも、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を満たす必要があります。
セクハラ・パワハラ認定のリスク
社内不倫の当事者の行動により、環境型セクハラが発生するリスクがあります。不倫関係を周囲に見せつける行為や、関係破綻後のストーカー行為などは、他の従業員にとって不快な職場環境を作り出し、セクハラと認定される可能性があるのです。
企業は職場環境配慮義務を負っており、適切な対応を怠った場合は損害賠償責任を問われることがあります。被害申告があった場合は迅速に調査を行い、必要な措置を講じましょう。
■健全な職場環境づくりに必要な人材戦略
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個人情報保護法違反のリスク
調査のために過度にプライベートに立ち入ったり、不倫の事実を不必要に他の従業員に開示したりすることは、個人情報保護法違反やプライバシー侵害となる可能性があるため注意が必要です。
情報の取り扱いは必要最小限にとどめ、関係者以外への情報漏洩を防ぐための適切な管理体制を整備しましょう。また、調査の過程で得られた情報については、目的外使用を禁止し、問題が解決した後は適切に処分することも考慮してください。個人情報の取り扱いについては、社内の個人情報保護方針に従って慎重に行いましょう。

調査や対応に関わる担当者を限定し、守秘義務を徹底することも必要です。
5.社内不倫を予防するための効果的な対策

ここまでは、社内不倫が発覚した際の対応策を解説してきました。しかし、本来は事前に発生を防ぐことが望ましいものです。ここからは、そのための予防策について説明します。
予防のための就業規則・制度整備
まずは、就業規則で服務規律を明確に規定し、職場の風紀・秩序維持に関する条項を設けることが基本です。
あらかじめ規定を明示しておくことで従業員の行動に抑止力が働き、社内不倫の未然防止につながるでしょう。ただし、恋愛自体を禁止することは法的に無効であり、現実的でもありません。
くわえて、以下のような制度整備をして、従業員のプライバシーを尊重しつつ、職場環境の健全性を保つ体制を整えましょう。
- 相談窓口やホットラインの設置:問題の早期発見・対応が可能
- 匿名での相談ができる仕組み:従業員が安心して相談できる環境を作る
- 定期的な職員研修を実施:職場のハラスメント防止や適切な人間関係の構築について教育
過度に監視的になることは避け、従業員が自主的に適切な行動を取れるような環境づくりを心がけましょう。
組織風土・職場環境の改善
社内不倫を防ぐには、従業員同士が適切な距離感を保てる職場環境を作ることが重要です。具体的には、以下のような対策が有効です。
- 業務の透明性を高めて密室での作業を避ける
- 出張や外回りは複数名で行う
- 特定の従業員だけが優遇されるような不公平な扱いをなくすなど
また、管理職には部下の行動変化(勤務態度や同僚との関係性の変化など)に敏感に気づき、早めに声をかけるよう教育することで、問題の芽を事前に摘み取ることができるでしょう。オープンで風通しの良い職場を作ることで、不適切な関係が生まれにくい環境を構築できるのです。
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6.中小企業の課題と対応策

中小企業では大企業とは異なる制約があるため、それに応じた対応策が必要です。
配置転換が困難な場合の対処法
従業員数が少ない中小企業では配置転換が難しいケースも少なくありません。このような場合は、以下のような対策が有効です。
- 業務分担の見直しにより当事者の接触機会を減らす
- 勤務シフトの調整により同じ時間帯での勤務を避ける
- 在宅勤務制度や時差出勤制度の導入により物理的な距離を保つ
- 業務プロセスの見直しにより特定の従業員同士の密接な協働を避ける
中小規模企業は、経営陣と従業員の距離が近いため、個別の事情に応じたきめ細かな対応が可能です。この特性を活かし、従業員一人ひとりの状況を把握しながら、最適な解決策を見つけましょう。
限られた人員での対応方法
中小企業では人事専門スタッフが限られているため、外部専門家の活用を検討するのもよいでしょう。弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することで、適切な対応策を得ることができます。
また、同業他社との交流を通じて、似たような事例があれば対応策を教えてもらうのも有効です。自社の状況に応じてアレンジすることで、効果的な対応策を見つけることができるかもしれません。
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7.社内不倫への適切な対応とリスク管理
社内不倫への対応は、法的リスクを十分に理解した上で、段階的に進めることが重要です。誤った対応をすると、企業の信用を損なったり、不当解雇として訴えられたりする可能性があります。そのため、常に冷静な対応を心がけましょう。
また、対応策を定期的に見直し、社内不倫を未然に防ぐ取り組みも欠かせません。職場環境や時代の変化に応じてルールや方針をアップデートすることで、長期的に安定した組織運営につながります。
社内不倫の問題は複雑ですが、適切な知識と段階的な対応を組み合わせることで、法的リスクを避けつつ、健全な職場環境を築くことができるでしょう。
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