2024年4月から運送業界に時間外労働の上限規制が全面適用され、多くの運送会社が対応に追われています。
本記事では、運送業界特有の課題を踏まえた働き方改革の具体的な実践ポイントを解説します。
規制適用後の現実に即した取り組み事例や支援制度を紹介し、運送会社の経営者や人事担当者が実践できる対策をご提案します。
- 運送業界の2024年問題(時間外労働の上限規制)の具体的な内容と対応策
- 働き方改革を成功させるための7つの実践ポイントと効果
- 実在する運送会社の働き方改革成功事例と具体的な取り組み方法
1.運送業界が直面する「働き方改革」と2024年問題とは

運送業界は2024年4月から適用された時間外労働の上限規制により、大きな転換期を迎えています。
これまで猶予されてきた規制が実施されたことで、業務体制の抜本的な見直しが急務となっています。運送業界特有の課題とその対応策について見ていきましょう。
2024年4月から全面適用された時間外労働の上限規制
働き方改革関連法では、自動車運転の業務について2024年3月31日まで時間外労働の上限規制の適用が猶予されてきました。
しかし、猶予期間が終了し、2024年4月からは年間960時間(月平均80時間)の上限規制が罰則付きで適用されています。
これまで長時間労働が常態化していた運送業界では、この規制によって多くの企業が対応に苦慮しています。
特に繁忙期に労働時間が集中する運送業界では、年間を通じた労働時間の平準化や業務の効率化が必須となっています。
規制開始から既に数ヶ月が経過し、対応が不十分な企業では人員不足や配送遅延などの問題が顕在化しつつあります。
この規制の影響は単なる労務管理の問題にとどまらず、事業運営全体に関わる重大な課題となっています。
運送業界特有の長時間労働の実態と課題
運送業界では、他業種と比較して著しく長い労働時間が常態化しています。
厚生労働省の「はたらきかたススメ」によると、トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均と比較して、令和5年度では大型トラック運転者で408時間(月34時間)、中小型トラック運転者で372時間(月31時間)も長くなっています。

この長時間労働の背景には、荷待ち時間の長さ、不規則な配送スケジュール、人手不足による業務の集中などの構造的な問題があります。
公益社団法人全日本トラック協会の調査では、2024年問題が本格化する前の段階で、約29.1%の事業者が時間外労働の上限規制(年960時間)を超過するドライバーが「いる」と回答していました。

規制適用後の現在、多くの企業がシフト再編や配送ルートの見直し、人員増強などの対策を進めていますが、長年の慣行を短期間で変えることは容易ではなく、苦戦している企業も少なくありません。
参考:
厚生労働省|はたらきかたススメ
全日本トラック協会|第5回 働き方改革モニタリング調査について
▼ドライバーの離職理由を詳しく
以下の記事では、運送業界のドライバー離職の主な原因と効果的な定着率向上策を解説しています。企業向けに即実践できる対策と成功事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
働き方改革に取り組まない場合のリスクと罰則
2024年4月の規制適用後、働き方改革に十分に取り組んでいない運送会社は様々なリスクに直面しています。
法的リスクとしては、時間外労働の上限規制に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
既に労働基準監督署による監査が強化されており、法令違反が判明した場合は是正勧告や企業名公表などの行政処分を受けるリスクが高まっています。
経営面では、長時間労働の常態化によりドライバーの離職が加速し、人手不足がさらに深刻化している企業も見られます。
健康管理面では、過重労働によるドライバーの健康被害や事故リスクの増加も懸念されています。
さらに、荷主企業の間でも「ホワイト物流」への意識が高まっており、働き方改革に積極的に取り組まない企業は取引先からの選別対象となるケースも増えています。
これらのリスクを回避するためにも、まだ十分な対応ができていない企業は早急な対策が求められています。
2.運送業界の働き方改革で達成すべき3つの目標

運送業界における働き方改革は、単に法令遵守のためだけではなく、持続可能な経営を実現するために重要です。
ここでは、運送業界が働き方改革を通じて達成すべき3つの主要目標について解説します。これらの目標を明確にすることで、戦略的な改革を進めることができます。
ドライバーの労働時間削減と健康管理の徹底
ドライバーの労働時間削減と健康管理は、安全運行の確保と人材の長期的な確保の両面から極めて重要です。
2024年問題への対応として、多くの運送会社が労働時間管理の厳格化に取り組んでいますが、単に残業を制限するだけでなく、効率的な配車計画や荷待ち時間の削減など、根本的な業務プロセスの見直しが必要です。
特に荷待ち時間については、荷主企業との協力体制を構築し、予約システムの導入や荷役作業の効率化などを通じて削減を図る企業が増えています。
また、健康管理面では、定期的な健康診断の実施はもちろん、睡眠時間の確保や疲労回復のための勤務間インターバル制度の導入が効果的です。
先進的な企業では、デジタル技術を活用して運転中の疲労度をモニタリングするシステムを導入し、事故防止と健康管理の両方に役立てています。

こうした取り組みは、短期的にはコスト増加につながる場合もありますが、長期的には事故リスクの低減やドライバーの定着率向上といった形で企業経営にプラスとなります。
▼健康診断はドライバーにとって重要
以下の記事では、ドライバーの健康診断義務と効果的な活用法を解説しています。法的要件、健康起因事故防止策、健康経営の視点まで企業担当者必見の実践情報が満載ですので、ぜひ参考にしてください。
人材確保・定着率向上による持続可能な事業運営
2024年問題によって、運送業界の人材不足はさらに深刻化しています。労働時間規制への対応のために追加の人員が必要となる一方で、従来の長時間労働前提のビジネスモデルでは若い世代の採用が難しくなっているのが現状です。
この課題に対応するためには、新規採用の強化と既存ドライバーの定着率向上の両面からのアプローチが必要です。
採用面では、若年層や女性ドライバー、シニア層など、これまで十分に活用されていなかった人材層にアプローチする企業が増えています。
そのためには、労働環境の改善はもちろん、多様な働き方に対応する勤務体系の整備や、女性が働きやすい職場環境の整備なども必要となります。
定着率向上においては、適正な賃金体系の整備や成長機会の提供、透明性の高い評価制度の導入などが効果的です。
特に、ドライバーの声を経営に反映させる仕組みづくりは、働きがいの向上に直結します。実際に、こうした取り組みを進めている企業では、離職率の低下や応募者数の増加といった成果が表れ始めています。
持続可能な運送業を実現するためには、「選ばれる会社」となる努力が不可欠です。
▼若い世代の採用、定着率向上のアドバイス
以下の記事では、若い世代の採用に効果的なSNS採用について解説しています。さらに定着率を上げるボーナス制度の作り方について解説しています。ぜひ参考にしてください。
業務効率化による生産性と収益性の向上
2024年問題に対応するためには、労働時間削減と収益性確保の両立が不可欠であり、そのカギを握るのが業務効率化です。
規制適用後、多くの運送会社がテクノロジーを活用した生産性向上に取り組んでいます。まず注目されているのは、AIやビッグデータを活用した配車・配送計画の最適化です。
先進的なシステムを導入することで、効率的な配送ルートの設計や車両の稼働率向上が可能となっています。
また、デジタル化による事務作業の効率化も重要な課題です。電子化された配送管理システムやモバイルアプリを活用し、従来紙ベースで行われていた作業を自動化することで、大幅な業務効率化を実現している企業も増えています。
さらに、荷物の積み下ろし作業の効率化のための設備投資や、共同配送による積載効率の向上など、物流プロセス全体を見直す取り組みも進んでいます。

こうした業務効率化の取り組みには初期投資が必要ですが、同じ人員でより多くの配送をこなせるようになれば、ドライバーの労働時間を削減しながらも収益性を維持・向上させることが可能になります。
既に成果を上げている企業の事例を参考に、自社に合った効率化策を検討することが重要です。
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3.働き方改革を成功させる7つの実践ポイント

運送業界における働き方改革を実現するためには、具体的な施策の展開が必要です。ここでは、2024年問題に対応するための7つの実践ポイントを解説します。
これらのポイントは、多くの運送会社が実際に成果を上げている方法であり、貴社の状況に合わせて取り入れることができます。
①デジタル技術を活用した業務効率化
まず導入が進んでいるのは、配車管理システムです。AIを活用した最新の配車システムでは、交通状況や配送先の特性を考慮した最適なルート設計が可能となり、走行距離と時間の削減につながっています。
実際に導入企業では、配送効率が10〜20%向上したという事例も少なくありません。
また、GPSやテレマティクス技術を活用した車両動態管理システムの導入も進んでおり、リアルタイムでの車両位置把握や運行状況の監視が可能となり、急な配送依頼にも柔軟に対応できるようになっています。
さらに、電子化された配送伝票システムやモバイルアプリの活用により、従来紙ベースで行われていた作業を大幅に効率化している企業も増えています。特に配送先での電子サインの導入は、伝票管理の手間を大きく削減します。
こうしたデジタル技術の導入には初期投資が必要ですが、中長期的には人件費や燃料費の削減、業務効率化による利益向上など、多くのメリットがあることが実証されています。
▼運送業シフト管理の強い味方を紹介
以下の記事では、運送業のシフト管理における課題と、それを解決する勤怠管理システムの特徴や機能、具体的な製品をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
②適切な労務管理システムの導入
規制適用後、多くの運送会社が労務管理システムを導入し、ドライバーの勤務時間や休息時間、残業時間などをリアルタイムで把握・管理できる体制を構築しています。
特に効果を上げているのは、デジタルタコグラフやドライブレコーダーと連携したシステムで、運転時間や休憩時間を自動的に記録でき、労働時間の適正管理と法令遵守を両立することができます。
先進的なシステムでは、月ごとや週ごとの労働時間を自動集計し、上限時間に近づいた場合にアラートを発する機能も備えており、法令違反を未然に防止できます。
また、休暇取得状況の管理や、勤務間インターバルの確保状況のモニタリングなど、ドライバーの健康管理に関する機能も重要視されています。
こうしたシステムの導入により、管理者の負担を軽減しながら、より正確で効率的な労務管理が実現しています。
さらに、蓄積されたデータは労働時間削減策の立案にも活用されており、継続的な改善サイクルの構築に役立っています。
2024年問題に対応できている企業の多くが、こうした労務管理システムを早期に導入し、活用しているという特徴があります。
▼おすすめ勤怠管理システム紹介
以下の記事では、2024年問題に対応するトラック向け勤怠管理システムの特徴と導入メリットを解説しています。おすすめ5選も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
③ドライバーの多様な働き方に対応する柔軟なシフト設計
規制適用後、多くの運送会社がドライバーのライフスタイルやライフステージに合わせた柔軟な勤務体系の整備に取り組んでいます。
例えば、日勤専属、夜勤専属、短時間勤務など、働き方の選択肢を増やすことで、育児や介護を抱えるドライバーや高齢ドライバーなど、さまざまな事情を持つ人材の活用が進んでいます。
また、隔日勤務や週3日勤務など、ワークライフバランスを重視した勤務形態も導入されています。
こうした柔軟なシフト設計を実現するため、先進的な企業ではAIを活用したシフト自動作成システムを導入し、ドライバーの希望や能力、業務量などを考慮した最適なシフト表の作成を行っています。
さらに、ドライバー間での業務の引き継ぎを円滑にするためのマニュアル整備や情報共有システムの構築も進んでいます。
こうした取り組みの結果、多様な人材の採用が進み、採用市場での競争力向上や、ベテランドライバーの知識・経験の有効活用にもつながっています。
柔軟なシフト設計は、2024年問題対応と人材確保の両面で効果を発揮しています。
④勤務間インターバル制度の確実な実施
2024年問題への対応として、多くの運送会社がこの制度を導入し、ドライバーの疲労回復と事故防止に成果を上げています。
運送業界では、最低11時間の休息時間を確保することが推奨されていますが、先進的な企業では12時間以上を確保するケースも増えています。
制度を確実に実施するため、全社的な方針として明確に打ち出し、管理者とドライバーの双方に制度の意義と重要性を理解してもらう取り組みが進んでいます。
また、労務管理システムを活用して休息時間を自動計算し、必要なインターバルが確保できるよう配車計画を調整する仕組みも導入されています。
特に長距離運行を行うドライバーに対しては、遠隔地での宿泊施設の確保や、宿泊費の補助など、質の高い休息を取るための支援も行われています。
こうした取り組みにより、ドライバーの健康状態が改善され、事故率の低下にもつながったという報告も増えています。
インターバル確保のために業務量を調整できない場合は、代替ドライバーの確保や配送スケジュールの見直しなど、抜本的な対策も進められています。
2024年問題対応の中核として、多くの企業がこの制度の徹底を図っています。
⑤輸送計画の最適化による無駄の削減
2024年問題に対応するため、多くの運送会社が輸送計画の最適化に取り組んでいます。効率的な輸送計画は、走行距離と労働時間の削減に直結するからです。
AI技術を活用した配車システムを導入することで、交通状況や配送先の特性を考慮した最適なルート設計が可能となり、走行距離と時間の大幅な削減に成功している企業もあります。
また、帰り便の空車率を減らすための帰り荷確保の取り組みも活発化しています。物流ネットワークやオンラインマッチングサービスを活用し、往復の積載効率を高めることで、車両あたりの生産性向上を実現している企業が増えています。
さらに、同じエリアの荷物をまとめて配送する共同配送の導入も進んでおり、車両台数の削減と労働時間の短縮に効果を上げています。
特に中小規模の運送会社では、同業他社との連携や物流共同化の取り組みが活発化しています。加えて、集配拠点の最適配置も進められており、拠点の位置や数を見直すことで、長距離運行の削減や効率的な配送網の構築が進んでいます。
これらの取り組みを通じて、同じサービス水準を維持しながらも、総走行距離と労働時間の削減を実現している企業が増えています。
⑥荷主企業との協力関係構築と適正料金の交渉
2024年問題への対応には、荷主企業との協力関係構築と適正料金の交渉が不可欠です。規制適用後、多くの運送会社が荷主企業との関係見直しに着手しています。
荷主企業との間で予約システムを導入したり、荷役作業の効率化を共同で進めたりすることで、ドライバーの荷待ち時間を大幅に削減することに成功している企業が増えています。
また、国土交通省主導の「ホワイト物流」推進運動への参加を荷主企業に呼びかける動きも活発化しています。
この運動に参加する荷主企業は、取引条件の適正化や荷待ち時間の削減など、物流事業者の働き方改革に協力することを宣言しており、協力企業は年々増加しています。
適正料金の交渉においては、時間外労働の削減によるコスト増加分を明確に示し、理解を求める取り組みが進んでいます。
具体的には、労働時間管理の厳格化による人件費の増加や、複数人での運行体制構築によるコスト増などを数値化して説明する手法が効果を上げています。
さらに、付帯作業(荷役、検品など)に対する適正な対価の請求も一般化しつつあります。荷主企業の間でも持続可能な物流の重要性への理解が進み、これまでよりも交渉がスムーズに進むケースが増えていることも特筆すべき変化です。
⑦福利厚生の充実とドライバーの待遇改善
規制適用後、多くの運送会社がこの面での取り組みを強化しています。
まず、基本的な労働条件として、適正な賃金体系の整備が進んでいます。特に、歩合給中心から固定給と歩合給のバランスの取れた体系への移行が進み、収入の安定化と長時間労働の抑制に効果を上げています。
また、社会保険や退職金制度の充実など、将来の安心につながる制度の整備も活発化しています。
福利厚生面では、健康管理支援として定期健康診断の充実や保養施設の利用補助、スポーツジムの法人契約なども導入事例が増えています。
さらに、ドライバーの仕事に対するやりがいを高めるための施策として、技能向上のための研修制度の充実や、優秀ドライバー表彰制度の導入なども広がっています。
規制適用後、女性ドライバーや高齢ドライバーの採用も増えており、そうした多様な人材が働きやすい環境整備も進んでいます。
例えば、女性ドライバー向けの休憩施設の充実や、高齢ドライバーの体力に配慮した業務分担などが導入されています。
こうした包括的な待遇改善の取り組みは、ドライバーの定着率向上と新規採用の増加につながっており、2024年問題への対応と人材確保の両立に貢献しています。
▼福利厚生について詳しく解説
以下の記事ではトラック、タクシードライバーの法定および法定外福利厚生を詳説。企業の具体的な取り組み事例も紹介。充実の理由も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
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4.運送業界における働き方改革の成功事例3選

実際に2024年問題に対応し、働き方改革に成功している運送会社の事例は、具体的な取り組みのヒントになります。
ここでは、異なるアプローチで成果を上げている3社の事例を紹介します。自社の状況に近い事例を参考に、効果的な施策を検討してみましょう。
デジタル化で業務効率化を実現した株式会社友和物流

基本情報
- 所在地:千葉県浦安市
- 取り組み
働き方の見える化」によるデジタル化
主な導入技術と効果
導入技術 | 具体的効果 |
---|---|
最新版デジタルタコグラフ | ・長時間乗務へのアラート機能 ・労働/休憩時間の正確な把握 ・勤怠管理の効率化 ・給与計算データとして活用 |
客観的データ収集 | ・荷待ち時間の実態把握(月次/四半期/半期/年間) ・データに基づいた荷主との交渉 ・荷主側の理解促進と改善傾向 |
最新アルコールチェック機器 | ・安全運転管理の強化 |
車載カメラ | ・運行状況の実態把握 ・運転指導および事故防止 |
今後の計画
- AI点呼機器の導入
- 新勤怠管理システムの導入
成果
成果については、港第二営業所部長の内藤和馬氏は「デジタコの最新鋭化により長時間労働の是正、改善基準告示遵守への理解や自己の意識改革ができている」と効果を実感しています。
また、ドライバー職、整備部門、事務部門がチームとして2024年問題を捉え、課題解決への対策が実を結びつつあります。
参考:
株式会社友和物流
厚生労働省|働き方改革特設サイト 中小企業の取り組み事例 株式会社友和物流
リレー輸送方式で長時間労働を削減した朝日通商

基本情報
- 拠点: 四国・香川
- 導入時期
2019年(2024年問題に先行対応) - 取り組み
リレー輸送方式の導入
リレー輸送の仕組み
特徴 | 詳細 |
---|---|
仕組み | 1つの行程を複数のドライバーが分担して輸送 |
実施例 | 関東〜四国間の長距離輸送 4人のドライバーが往復2台のトラックを中継地点で乗り換え |
輸送時間 | 17時出発→翌朝7時到着(所要12時間程度) |
勤務体制
ドライバー | 勤務時間 | 業務内容 |
---|---|---|
A・D | 日勤(朝4時〜夕方16時) | 運転+荷積み・荷卸し |
B・C | 夜勤(夕方18時前〜翌朝4時) | 運転のみ |
主なメリットと成果
- 多様な人材の活用
体力が落ちた高齢者や女性ドライバーも対応可能 - 柔軟な働き方
女性ドライバー(子育て中)に負荷の低い区間を担当させるなど - 労働環境の改善
- 労働時間の削減
- 車中泊のない当日往復運行の実現
- ドライバーの負担軽減
成果
成果として、リレー輸送の導入により時間外労働の上限規制に対応できました。また、ドライバーに魅力的な労働環境を提供することに成功し、これが安定した人材確保につながっています。
参考:
株式会社朝日通商
独立行政法人労働政策研究・研修機構|労働時間規制を守る長距離輸送方式として「リレー輸送」を構築 朝日通商の働き方改革の取り組み
労務管理の適正化で安全・効率的な運行を実現した奈良県合同陸運

基本情報
- 所在地: 奈良県桜井市
- 事業内容
主に関東方面への長距離輸送
主な取り組みと効果
導入施策 | 具体的内容 | 効果 |
---|---|---|
勤怠管理システム導入 | ・運行管理と労働時間管理の分離 ・荷待ち時間と休憩時間の区別 | ・正確な労働時間把握 ・労働時間の適正管理 |
給与システム刷新 | ・勤怠管理システムとの連携 | ・労働時間の手計算廃止 ・データ手入力の解消 ・誤入力の防止 |
労働時間制の変更 | ・1年単位→1か月単位の変形労働時間制 | ・業務量変動への柔軟な対応 ・次月業務に応じたシフト作成 |
年次有給休暇制度改定 | ・入社時からの付与 ・6か月待たずに取得可能 | ・従業員定着率向上 ・休暇取得促進 |
給与体系の見直し | ・手当中心→基本給中心の明確な体系 | ・従業員が安心して休める環境整備 |
導入プロセス
- 「働きやすい職場認証制度」をきっかけに奈良働き方改革推進支援センターに相談
- 専門家のアドバイスを受けながら段階的に施策を導入
- 従業員への丁寧な説明による納得感の醸成
成果
効果として、奥田幸一社長は「労働基準法や改善基準告示を遵守しつつ効率的な運行管理のできる体制を構築できて、クリーンな運送会社経営ができるようになった」と成果を実感しています。
また、これらの取り組みにより、2024年の時間外労働の上限規制も対応できる体制が構築され、より安全で効率的な運行を実現するとともに、従業員の働きやすさと企業の持続可能性を両立させることに成功しています。

長井尚功さん
(2015年入社)
「これまで経験した運送会社の中で、この職場が一番働きやすい」
参考:
奈良県合同陸運株式会社
厚生労働省|働き方改革特設サイト 中小企業の取り組み事例 奈良県合同陸運株式会社
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5.運送業界の働き方改革を支援する公的制度と助成金

働き方改革を進めるにあたり、国や地方自治体からの支援制度を活用することで、コスト負担を軽減しながら効果的に取り組むことができます。
ここでは、運送業界の働き方改革を支援する主な公的制度や助成金について解説します。2024年問題に対応するため、これらの制度を積極的に活用しましょう。
国土交通省による「ホワイト物流」推進運動の活用法
「ホワイト物流」推進運動は、深刻化するトラックドライバー不足に対応するため、国土交通省・経済産業省・農林水産省が連携して推進している取り組みです。
2024年問題の本格化に伴い、この運動の重要性は一層高まっています。この運動では、荷主企業と物流事業者が協力して「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言を行い、取引環境の適正化や労働時間の削減などを実現することを目指しています。
運送会社としての活用法としては、まず自社の主要取引先に対して「ホワイト物流」推進運動への参加を呼びかけることが効果的です。
参加企業は自社のウェブサイトで宣言内容を公表するため、荷主企業にとってもCSR活動の一環として取り組みやすいという特徴があります。
実際、規制適用後は参加企業が増加しており、取引条件の改善につながっているケースも多く報告されています。
また、運動の趣旨に賛同する荷主企業は「ホワイト物流」推進運動のロゴマークを使用できるため、企業イメージの向上にもつながります。

荷主企業との交渉材料として、同運動の趣旨や取り組み事例を紹介することで、配送料金の見直しや荷待ち時間の削減などの協力を得やすくなっています。
国の主導する運動であるという信頼性を活かし、取引先との関係改善に役立てている企業が増えています。
働き方改革推進支援助成金の申請方法と活用のポイント
厚生労働省が提供する「働き方改革推進支援助成金」は、中小企業・小規模事業者が働き方改革に取り組む際の費用を助成する制度です。
2024年問題への対応として、多くの運送会社がこの制度を活用しています。
助成金の申請にあたっては、まず「交付申請書」の提出が必要です。申請書には、実施事業の内容や経費内訳などを詳細に記載し、必要書類を添付します。
申請のポイントとしては、単に機器やシステムを導入するだけでなく、それによって具体的にどのように労働時間の削減や生産性の向上を図るのかを明確に示すことが重要です。
また、成果目標を設定し、その達成状況を評価する方法についても具体的に記載することが求められます。申請後は労働局による審査があり、交付決定後に事業を実施します。
事業完了後には実績報告書を提出し、助成金が支給されるという流れになります。規制適用後も継続して利用可能な制度であり、今から取り組む企業も十分に活用できます。
なお、申請手続きは煩雑な面もあるため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることも一つの方法です。
参考:厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
運送業特化型の相談窓口と専門家派遣制度の利用法
2024年問題への対応を支援するために、運送業界特化型の相談窓口や専門家派遣制度が設けられ、多くの企業がこれらを活用しています。
厚生労働省が設置した「無料相談窓口 働き方改革推進支援センター」では、労働時間管理や法令対応など、運送業界特有の課題について無料で相談ができます。
規制適用後も相談件数は増加しており、きめ細かな支援が継続されています。この窓口では、電話やメールでの相談に加え、必要に応じて専門家の派遣も行っています。
専門家派遣制度を利用する際のポイントは、事前に自社の課題を明確化し、具体的な相談内容を整理しておくことです。
例えば、労務管理システムの選定や導入方法、適正な運賃・料金の算出方法、荷主企業との交渉方法など、具体的なテーマに絞って相談すると効果的です。
既に制度を活用した企業からは、専門家のアドバイスによって具体的な解決策を見出せたという声が多く聞かれます。
また、各都道府県トラック協会でも独自の支援制度を設けていることが多く、セミナーや研修会の開催、補助金の上乗せなど、地域に根ざした支援を受けることができます。

これらの制度は原則として無料または低額で利用できるため、特に専門的な知識やリソースが限られている中小運送事業者にとって、大きな支援となっています。
定期的に各団体のホームページやメールマガジンをチェックし、新たな支援制度の情報収集を行うことも重要です。
6.2024年問題に対応するための今すぐ始められる対策

2024年問題への対応は既に始まっていますが、まだ十分な対策が取れていない企業も少なくありません。ここでは、短期間で成果を上げるための実践的な対策について解説します。
現状把握から始め、優先順位を明確にして取り組むことで、今からでも効果的な改革を進めることができます。
現状分析:自社の労働時間実態を正確に把握する方法
2024年問題への対応の第一歩は、自社のドライバーの労働時間実態を正確に把握することです。規制適用後も、多くの企業がこの現状分析から取り組みを開始しています。
まず、過去3〜6ヶ月の勤務記録を詳細に分析し、ドライバー全体の月平均労働時間や、時間外労働が多いドライバーの割合、繁忙期と閑散期の労働時間の差などを明らかにしましょう。
特に重要なのは、年間960時間(月平均80時間)の上限規制を超過するリスクが高いドライバーを特定することです。
分析にあたっては、単に労働時間の合計だけでなく、実車時間、待機時間、荷役作業時間など、作業種類別の内訳も把握することが効果的です。
これにより、どの業務プロセスに無駄や非効率が生じているかを特定できます。また、特定の荷主や配送ルートに関連して長時間労働が発生しているケースも少なくないため、顧客別・ルート別の分析も有効です。
さらに、ドライバー自身から直接ヒアリングを行い、長時間労働の原因や改善アイデアを収集することも重要です。
現場の声は貴重な情報源となります。こうした多角的な分析を通じて、自社の課題を明確化し、効果的な改善策を立案することが可能になります。
短期的に取り組むべき優先施策の選定ポイント
限られた時間と資源の中で効果的に2024年問題に対応するためには、取り組むべき施策の優先順位付けが重要です。
規制適用後も多くの企業がこの課題に取り組んでいます。優先順位を決める際の基本的な考え方は、「投資対効果」と「実現可能性」のバランスを考慮することです。
まず短期的に取り組むべきは、比較的少ない投資で大きな効果が期待でき、かつ実現までの期間が短い施策です。
例えば、荷待ち時間が多い取引先との交渉、配車計画の見直し、休憩・休息時間の確保徹底などが該当します。特に荷待ち時間の削減は、多くの運送会社にとって労働時間短縮の大きな余地がある領域です。
実際に取り組んだ企業では、1ヶ月で目に見える成果が出たケースも少なくありません。
次に、中期的な視点で取り組むべきは、一定の投資が必要だが効果も大きい施策です。デジタルタコグラフや配車管理システムの導入、求人強化による人員増強などが挙げられます。
また、優先順位を決める際には、自社の特性(長距離か近距離か、専属契約が多いか否かなど)や、現状分析で明らかになった課題の重要度も考慮すべきです。
例えば、特定の顧客との取引が原因で長時間労働が発生している場合は、その取引条件の見直しを優先することが効果的です。

いずれにせよ、すべての課題を一度に解決しようとするのではなく、段階的なアプローチで着実に改善を進めていくことが重要です。
ドライバーと一体となって進める働き方改革のコミュニケーション術
2024年問題への対応を成功させるためには、ドライバーの理解と協力が不可欠です。規制適用後、多くの企業がドライバーとのコミュニケーション強化に取り組んでいます。
まず重要なのは、働き方改革の必要性と目的を明確に伝えることです。単に「法律だから」という理由ではなく、「ドライバーの健康と安全を守り、長く働ける環境を作るため」という前向きなメッセージを発信している企業が成功を収めています。
また、具体的な取り組み内容とそのメリットを分かりやすく説明することも重要です。例えば、労働時間短縮により、プライベートの時間が増えることや、健康リスクの低減につながることなどを具体的に示すと効果的です。
コミュニケーションの場としては、全体集会だけでなく、少人数のグループミーティングや個別面談なども組み合わせることで、より率直な意見交換が可能になります。
さらに、現場からの改善提案を積極的に取り入れる仕組みづくりも効果を上げています。例えば、改善提案制度を設け、採用された提案には報奨金を支給するなどのインセンティブを設けることで、ドライバーの参画意識を高めることができます。
特に注意すべきは、働き方改革が収入減につながるという懸念に対する対応です。時間外労働の削減により総収入が減少するケースでは、基本給の引き上げや業務効率化によるインセンティブの導入など、収入面でのフォローも検討している企業が多くなっています。
7.持続可能な運送業を実現する働き方改革

本記事で解説した働き方改革の取り組みは、単に法令遵守のためだけでなく、運送業界の持続可能な発展のために必要不可欠なものです。
2024年4月からの規制適用を経て、業界の対応は新たな段階に入っています。最後に、働き方改革の本質と長期的な経営戦略について考えてみましょう。
長期的視点で考える働き方改革の本質
働き方改革の本質は、単なる労働時間の削減ではなく、持続可能な運送業の実現にあります。2024年問題への対応を通じて、多くの企業がこの本質的な課題と向き合っています。
日本の物流を支える運送業界が今後も社会的使命を果たし続けるためには、長期的な視点に立った抜本的な改革が必要です。
まず認識すべきは、従来の「長時間労働前提のビジネスモデル」からの脱却が避けられないという現実です。
少子高齢化によるドライバー不足は今後さらに深刻化し、単純に人材を増やすことでの対応は困難になっています。
このような環境下では、限られた人的資源を最大限に活用するための業務効率化と、ドライバーの負担軽減を両立させる新たなビジネスモデルの構築が求められます。
先進的な企業では、デジタル技術の活用や業務プロセスの抜本的な見直しによって、この課題に対応しつつあります。
また、働き方改革は単なるコスト増要因ではなく、経営改善の機会として捉えることも重要です。業務プロセスの見直しやデジタル化の推進は、長期的には大きなコスト削減と品質向上をもたらす可能性があります。

さらに、「ホワイト物流」の推進など、業界全体での取り組みを通じて、運送業の社会的地位向上と魅力的な職場環境づくりを進めることで、若年層の新規参入も期待できるでしょう。
2024年問題をきっかけに、働き方改革を経営戦略の中核に据え、持続可能な運送業の実現に向けた長期的な取り組みとして推進していくことが重要です。
ドライバーの働きがいと企業の成長を両立させる経営戦略
2024年問題への対応を経て、多くの企業が持続可能な運送業を実現するためには、ドライバーの働きがいと企業の成長を両立させる経営戦略が不可欠であることを認識しています。
まず重要なのは、「人材を最も重要な経営資源」と位置づけ、ドライバーの育成と定着に投資する姿勢です。具体的には、適正な労働条件の整備はもちろん、スキルアップの機会提供や明確なキャリアパスの構築などが挙げられます。
規制適用後、これらの取り組みを強化している企業が増えています。また、働きがいの向上には、単に労働環境を改善するだけでなく、ドライバーの仕事に対する誇りや使命感を育む取り組みも効果的です。
例えば、顧客からの感謝の声を共有する機会を設けたり、社会インフラとしての物流の重要性を再認識させる研修を行ったりする企業が増えています。
企業の成長面では、デジタル技術の活用による生産性向上や、高付加価値サービスの開発が鍵となります。例えば、単なる輸送サービスから、在庫管理や流通加工、情報管理などを含めた総合物流サービスへと事業領域を拡大することで、収益性の向上を実現している企業も出てきています。
さらに、環境負荷の低減やSDGsへの貢献など、社会的価値の創出に取り組むことも、企業の持続的成長と社会からの信頼獲得につながっています。
2024年問題をきっかけに、ドライバーの働きがいと企業の成長を両立させる経営戦略を構築することで、運送業界の明るい未来を切り拓くことができるのです。
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8.運送業界の未来を拓く働き方改革
運送業界における働き方改革は、単に法令遵守のためだけでなく、持続可能な事業運営のために必須の取り組みです。
2024年問題を契機に、多くの企業がデジタル化の推進、リレー輸送の導入、柔軟な勤務体系の整備など、様々な施策を展開しています。
これらの取り組みは、ドライバーの労働時間短縮だけでなく、人材確保や業務効率化にもつながっています。
友和物流、朝日通商、奈良県合同陸運の事例が示すように、自社の課題に合わせた施策を選び、段階的に改革を進めることが成功の鍵です。
働き方改革を経営戦略の中核に据え、ドライバーの働きがいと企業の成長を両立させる新たなビジネスモデルの構築に取り組みましょう。
そうすることで、2024年問題を乗り越え、運送業界の明るい未来につなげることができるのです。