試用期間中の解雇は、企業にとって慎重な判断と適切な手続きが求められる重要な選択です。
特にドライバー職では、運転スキルや資格の有無、勤務態度など、独自の評価基準があり、解雇の判断には特別な配慮が必要です。
本記事では、試用期間中の解雇に関する基本的な知識から、具体的な手続きの手順まで、実務に即した形で解説していきます。
- 試用期間中の解雇が認められるケースと不当解雇となるリスクの違い
- ドライバー採用特有の解雇判断基準と注意点
- 法律に則った適切な解雇手続きの具体的な進め方
1.そもそも試用期間とは?試用期間中の解雇は可能?
試用期間とは、企業が新たに採用した従業員の適性や能力を評価するために設けられる一定の期間のことです。
この期間中に、従業員が職務を遂行する能力があるか、企業の文化や職場環境に適応できるかを見極めます。
多くの企業では、3か月から6か月程度の試用期間をおいており、これが正式採用の前段階として位置付けられています。
しかし、試用期間中であっても、解雇が認められるかどうかは慎重に判断しなければなりません。法律上、試用期間中の従業員にも「労働者」としての権利が認められており、解雇には正当な理由が必要です。
試用期間中の解雇が可能なのは、従業員が職務において重大な欠陥がある場合や、採用時に虚偽の申告があった場合などに限られることが一般的です。
また、解雇の際には、合理的な理由の説明や、解雇の予告も手続き上必要となります。
2.ドライバー採用における試用期間中の解雇が認められるケース
試用期間中における解雇が認められるケースで、解雇理由となるのは、主に業務の特性や職務上で求められるスキルに関わる問題です。
以下では、特にドライバー採用で試用期間中の解雇が認められる例を詳しく解説します。
試用期間中の解雇理由①運転スキルが著しく低い
ドライバー職に運転スキルは必須であり、特に大型車両や特殊車両を運転する職種では、高度な技術が求められます。
試用期間中に、運転技術が基準を大きく下回り、業務を遂行する能力がないと判断した場合、解雇しなくてはならない可能性が出てきます。
例えば、車両を安全に操作できない、駐車や狭い道での車両操作が極端に苦手、などのケースでは、業務中に事故を引き起こすリスクが高くなります。
このような状況では、会社が試用期間中の解雇を選択することもやむを得ないところです。
試用期間中の解雇理由②必要な資格・免許の虚偽申告
職に就くにあたり必要になる資格や免許の所持状況を偽って申告していた場合、解雇が認められます。
例えば、大型免許が必要な職種でそれを取得していると偽った場合や、過去の重大な違反歴を隠していた場合などです。
採用の基準となる事実が虚偽だった場合、企業の信頼を損なうだけでなく、法的リスクを伴いかねません。そのため、試用期間中であっても解雇の正当な理由となり得ます。
試用期間中の解雇理由③勤務態度・協調性における重大な問題
試用期間中の勤務態度に問題があり、協調性を著しく欠いている場合、解雇が認められることがあります。例えば、チームでの連携がとれない、顧客対応を適切におこなえないといった場合です。
また、遅刻や無断欠勤が多いと、職務に対する責任感が欠けていると判断され、正当な解雇理由だとみなされるケースもあります。
試用期間中の解雇理由④病気やケガにより復職が困難な場合
試用期間中に病気やケガで長期間の休業が必要となり、復職の見込みが立たない場合も、解雇が認められる場合があります。
特にドライバー職では安全性が最優先となるため、健康状態が業務に大きく影響を及ぼします。
例えば、運転に支障をきたす持病や、治療が長引くケガを負った場合、会社は業務遂行が困難であると判断することがあります。
ただし、このように従業員の直接的な落ち度と異なるケースでは、解雇の正当性を明確にし、適切な手続きを踏むことが特に重要です。
3.試用期間中の解雇で不当解雇になるリスク
正社員として雇用契約を締結すると、事業者は従業員を簡単に解雇できなくなることから、適性や能力を見極めるために試用期間が設定されます。
しかし、企業側はその期間内ならば解雇を自由におこなえるというわけではありません。
解雇が不当であると判断された場合、企業は法的責任を負います。試用期間中の解雇には正当な理由と法律に基づいた手続きが求められるので、慎重な対応が必要です。
以下では、試用期間中の解雇が不当解雇とみなされる具体的なケースについて詳しく解説します。
使用期間開始後14日を経過した後、予告なく解雇した場合
労働基準法では、試用期間中であっても、雇用開始から14日を超えた後の解雇には「解雇予告」が必要とされています(第20条第1項)。
すなわち企業には、30日以上前に予告するか、予告をおこなわない場合であれば30日分の解雇予告手当を支払う義務があります。
企業側がこの手続きを軽視すると、労働基準監督署からの指導や従業員からの訴訟といったリスクを抱えることになりかねません。トラブルを回避するためにも法を順守した手順を踏むことが重要です。
参照:労働基準法|e-Gov
新卒者に対して能力不足で解雇した場合
新卒採用の場合、即戦力ではなく将来の成長を期待して雇用するケースが多いため、能力不足を理由とした解雇には慎重にならなければなりません。
特に、入社直後の短期間で能力不足を理由に解雇することは、企業側の教育・指導義務を果たしていないとみなされる可能性があります。
新卒者を含む若手従業員の場合は特に、試用期間中に十分なサポートをおこなわないまま解雇に踏み切ると、不当解雇として訴えられるリスクが高まります。
能力不足を理由とする場合でも、具体的な評価基準や指導の履歴を残すことを意識しましょう。
仕事の能力のみでの解雇
解雇の理由として能力不足が挙げられることは多いものの、それだけを理由とする解雇は認められない場合があります。
労働契約では、企業側が従業員の能力を向上させるための支援をおこなうことが暗黙の前提とされており、適切な指導や教育がおこなわれていない状況での能力不足を理由とした解雇は、不当解雇と判断される可能性が高まります。
また、能力評価が主観的で不明確な場合、解雇の正当性を証明することが困難です。解雇を検討する際には、具体的な指標に基づく評価や改善のための指導記録を用意しましょう。
従業員の話を聞かずに解雇する
解雇を決定する前に、従業員からの事情聴取をおこなわない場合、不当解雇とみなされるリスクが高まります。
特に、解雇理由が従業員の行動や能力に関連する場合は、その背景や改善意欲について話し合いをもった事実が、解雇の正当性を補強する材料となります。
解雇を正当化するためにも、また解雇せずにすむ道を探るためにも、一度対話の場を設け、従業員の意見を十分に聞く姿勢が必要です。
適切な指導をおこなわないで解雇する
不当解雇とされる典型的なケースのひとつが、適切な指導をおこなわないまま解雇することです。企業には、従業員が業務を遂行できるよう、指導や教育をおこなう責任があります。
どうしても解雇に踏み切る場合は、適切な指導をおこなった証拠として、従業員へのフィードバックや改善計画を文書化しておくことが重要です。
また、指導内容が十分でないと判断される場合、解雇ではなく試用期間の延長を検討するなど、柔軟な対応をとることも検討してください。
4.試用期間中の従業員を解雇する際のポイント
試用期間中の解雇を不当とみなされないためには、法令や就業規則に従いながら、公平性を保つ対応が重要です。
また、解雇を検討する前に、従業員の改善を促す取り組みをおこない、円満な解決を目指す姿勢も欠かせません。
以下では、試用期間中の従業員を解雇する際に注意すべき具体的なポイントを解説します。
退職勧奨を検討
試用期間中の従業員が業務適性に欠けている場合、解雇ではなく退職勧奨を検討することも選択肢のひとつです。
退職勧奨とは、従業員に対し自発的な退職を促す手続きであり、解雇に比べて従業員とのトラブルを回避しやすい傾向があります。
ただし、退職勧奨をおこなう際には、従業員の意思を尊重することが重要です。強制的に退職を求める行為は違法となる可能性があるため、従業員が納得できる形で話し合いを進めることが求められます。
使用期間の延長を検討
期間内に従業員の適性を見極めきれない場合、解雇ではなく試用期間の延長も検討しましょう。
就業規則等に規定がある場合
就業規則や雇用契約書に試用期間延長の規定があれば、企業の判断で試用期間を延長できます。ただし、延長する理由を従業員に明確に説明し、延長期間中に期待される改善点や評価基準を伝えることが重要です。
就業規則等に規定がない場合
一方で、試用期間延長に関する規定がない場合は注意が必要です。このような場合、延長は労働条件の変更に当たることから、従業員の同意を得た上でおこなわなければなりません。
一方的な延長は契約違反とみなされる可能性があるため、慎重に対応しましょう。延長の目的や期待される成果を具体的に示し、従業員が納得した上で進めることが重要です。
従業員に対して指導をおこなう
解雇を検討する前に、従業員に対して具体的な指導をおこなうことが大切です。
指導内容には、業務の改善点や求められるスキルの具体的な説明を含め、従業員が改善に向けて取り組めるように支援する姿勢を示します。
従業員からの話を聞く機会を作る
従業員が抱える問題や事情を理解するために、話し合いの場を設けることも重要です。
業務に適応できない理由が、環境や体調といった個別の事情に起因する可能性もあります。話し合いを通じて従業員の状況を把握し、改善策を検討することで、解雇以外の解決方法が見つかる場合もあります。
解雇予告手続きをおこなう
試用期間開始から14日を超えた場合、解雇には解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。
解雇予告は30日前に通知する必要があり、この手続きを怠ると労働基準法違反となります。予告期間内に従業員が離職や次の就業の準備をスムーズにできるよう、丁寧な対応をとることが求められます。
参照:労働基準法|e-Gov
5.試用期間中の解雇手続き手順
解雇が正当ではないと判断された場合、企業は不当解雇としてトラブルに巻き込まれる可能性があるため、法律や労働基準法に基づいた手続きを徹底することが必要です。
以下では、試用期間中の解雇手続きを進める上での具体的な手順を解説します。
解雇予告
上述の通り、解雇予告は労働基準法で定められた義務であり、解雇の30日前までには通知をおこなう必要があります。
この通知期間内に従業員が次のステップを計画できるように、十分な時間的余裕を確保することが重要です。
ただし、即時解雇をおこなう場合には、30日分の「解雇予告手当」を支払うことで、解雇予告に代えることが可能です。
この場合も、解雇の理由を従業員に明確に説明し、手当の支払いが適切におこなわれていることを記録に残しておく必要があります。
解雇通知書
解雇予告の後には、解雇通知書の交付が必要です。通知書には、解雇される従業員の氏名、解雇理由、解雇日、さらには労働基準法に基づいて手続きがおこなわれている旨を明記することが求められます。
理由は具体的かつ明確に記載し、従業員が納得しやすいように配慮することが重要です。
また、一方的に文書を渡すのではなく、解雇に至る経緯や理由をわかりやすく伝え、従業員の疑問や意見にも耳を傾けましょう。
通知書を手渡した際には、受け取ったことを確認するために、従業員からサインや受領印をもらうとともに、企業側でも控えを保管しておくと安心です。
6.【試用期間中の解雇】ルールを守り正しい判断を
試用期間中の解雇は、企業の権利として認められているものの、その判断と手続きには細心の注意が必要です。
特に重要なのは、解雇の正当性を担保する具体的な理由の存在と、法令に基づいた適切な手続きの実施です。
また、解雇を検討する前段階での従業員への指導や話し合い、試用期間の延長検討など、様々な選択肢を検討することも重要です。
解雇を決定する際は、従業員の権利を尊重しながら、企業としての判断を適切に実行することが、後々のトラブル防止につながります。