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【タクシー運転手】労災保険のポイント|申請から給付まで

タクシー運転手として働く中で、事故や怪我のリスクは避けられない現実があります。そんな中で、労災保険制度は運転手の安全を守る重要な制度として機能しています。

本記事では、タクシー運転手に特化した労災保険の基礎知識から、実際の給付内容、請求手続き、さらには損害賠償との関係まで、実務的な観点から詳しく解説していきます。

この記事を読んでわかること
  • タクシー運転手における労災保険の適用範囲と、業務災害・通勤災害の具体的な違い
  • 労災保険の給付内容と実際の請求手続きの具体的な流れ
  • 労災保険と損害賠償の関係性、および請求可能な補償範囲

1.労災保険制度の基本的理解

タクシー運転手の仕事は、日々道路上での業務が中心であるため、思わぬ事故やトラブルに巻き込まれ、労災に遭遇するリスクがあります。

そのようなリスクに対して、安心して業務に従事できるように整備されているのが労災保険制度です。

労災保険は、雇用されているすべての従業員を対象としています。

しかし、タクシー業界では長時間の運転や交通事故のリスクが高い一方で、業務内容が複雑であるため、どの状況が労災保険の対象となるのかを理解しておくことが重要です。

ここでは、労災保険制度における「業務災害」「通勤災害」の違いや適用範囲について解説します。

業務災害

業務災害

業務災害とは、業務中に発生した事故やケガ、病気のことを指します。タクシー運転手の場合、乗客を目的地へ運ぶ途中での交通事故や、乗客の荷物を運ぶ際に負傷するケースなどが該当します。

労災保険は、このような業務中の災害について、治療費や休業中の補償費、後遺障害が残った場合の補償金を支給する制度です。

事故の発生時には、必要な手続きを迅速に進めることが大切です。

通勤災害

通勤災害

通勤災害とは、通勤中に発生した事故やケガのことを指します。タクシー運転手の場合、営業所への出社途中や、目的地から自宅への帰宅途中での交通事故が該当します。

労災保険はこのような通勤中の災害にも対応しており、治療費や休業中の補償が支給されます。

ただし、通勤災害が認められるためには「合理的な通勤経路」であることが必要です。

例えば、自宅と営業所を結ぶ通常ルート上での事故は対象となりますが、私用目的で大きく遠回りをした場合などは通勤災害として認めないこともあります。

2.労災保険制度の保険料を負担するのは?

労災保険制度にかかる保険料は、原則として事業主が全額を負担する仕組みです。

従業員が保険料を直接負担する必要はなく、制度利用時に給与から天引きはしません。

事業主が全額を負担する背景には、労災保険が業務や労働環境に起因するリスクをカバーする制度であるという考え方があります。

したがって、タクシー業界のように長時間運転や夜間業務などのリスクが高い職種でも、従業員が安心して業務に取り組める環境を整えられています。

3.労災認定で企業が受けるデメリット

労災認定で企業が受けるデメリット

従業員が業務中や通勤中に、事故や疾病に遭い、労災認定を受けた場合、企業にとっては直接的・間接的なデメリットが伴うことも事実です。

以下では、労災認定が企業に与える主な影響について解説します。

経済的ダメージ

労災認定されると、企業には経済的な負担が生じる可能性があります。労災保険料は事業主が全額を負担する仕組みです。

しかし、メリット制が適用されている場合、労災の発生数に応じて保険料率が変動します。労災が頻発すると、保険料率が引き上げられ、負担が増加します。

さらに、労災発生時には該当従業員の治療費や休業補償は労災保険でカバーされますが、業務を維持するために新たな人員を雇用する必要が生じることがあります。

その際の採用コストや新人教育にかかる時間・費用も、企業にとって大きな経済的負担です。

企業のイメージダウン

労災認定が続くと、安全管理体制への疑念が生じ、外部からの評価が低下する可能性があります。

タクシー業界では顧客の安全意識が高く、企業の評判の低下が顧客離れを招くリスクもあります。

特に、メディアに取り上げられるほどの重大な事故が発生した場合、ネガティブな印象が広がることもあるため、安全管理の徹底が重要です。

人材確保が必要

労災認定が頻繁に発生すると、従業員の士気やモチベーションに悪影響を及ぼす可能性があります。

従業員が「この職場は安全ではない」と感じると、離職率が高まり、人材確保が難しくなるかもしれません。

特にタクシー運転手のような専門性の高い職種では、人材不足は深刻な問題です。したがって、労災が発生した場合は、迅速に対応し、再発防止策を講じ、従業員の信頼を取り戻す努力が求められます。

4.タクシー運転手が労災を受けた事例

タクシー運転手が労災を受けた事例

タクシー運転手は、交通事故や感染症のように予期せぬ災害や病気により労災保険の適用を受けたケースが数多くあります。

以下では、実際に労災認定された具体的な事例を解説します。

交通事故

あるタクシー運転手が、乗客を乗せて業務中に後方から別の車両に追突され、首や腰を負傷した事例があります。この事故は業務中に発生したため、労災保険の適用対象となります。

運転手はすぐに警察と会社に報告し、労働基準監督署への申請手続きを行いました。その結果、事故が労災として認定され、治療費や休業補償給付が支給されました。

また、加害者である運転手およびその雇用主に対して損害賠償請求を行うことで、労災保険でカバーされない部分を慰謝料で補うことができました。

コロナウイルス

新型コロナウイルスが流行した際、多くのタクシー運転手が業務中の感染リスクに直面しました。その中で、あるタクシー乗務員が業務中に乗客から感染したとされる事例が労災として認定されています。

この事例では、感染経路が完全に特定されなくても、業務中の乗客との接触が感染の原因と推定され、労災保険の適用が認められました

5.労災保険給付の内容

労災保険から受けられる主な給付は以下の通りです。

給付種類給付内容
療養(補償)等給付労災によるケガや病気の診察費用、手術費用、入院費用、移送費用などが給付
休業(補償)等給付休業4日目から基礎収入の60%が支給。自賠責保険の休業損害と調整が必要
休業特別支給金休業4日目から基礎収入の20%が追加支給。自賠責保険と重複可能で、合計で120%の補償を受給可能
傷病(補償)等年金労災発生後1年6か月経過し、1~3級の傷病等級に該当する場合に支給。傷病特別支給金や特別年金も受給可能
障害(補償)等給付後遺障害が残った場合、1~7級は障害(補償)等年金、8~14級は障害(補償)等一時金を給付
介護(補償)等給付傷病または障害補償年金受給者が実際に介護を受ける場合に給付
遺族(補償)等給付死亡の場合、遺族(補償)等年金または遺族(補償)等一時金を給付。遺族特別支給金、遺族特別年金、遺族一時金も受給可能
葬祭料死亡の場合、31万5,000円に基礎収入の30日分を加えた額、または基礎収入の60日分のうち、多い方の額を給付

参考:労災保険給付の概要|厚生労働省

6.【タクシー運転手】労災保険手続き手順

6.【タクシー運転手】労災保険手続き手順

タクシー運転手が業務中や通勤中に事故に遭った場合、事業者として適切かつ迅速に労災保険の手続きを進めることは、従業員の安全確保と会社の信頼維持に直結します。

以下に、手続きのポイントを整理しました。

事故発生時の対応

事故が発生した場合、速やかに従業員から詳細な報告を受けてください。交通事故の場合は、警察への届け出を指導し、事故状況の記録(日時、場所、状況など)を求めます。

また、必要に応じて写真撮影を依頼し、証拠を確保しましょう。さらに、従業員が医療機関で診断書を取得できるよう、必要な支援を行います。

労災保険請求の準備と提出

次に、労働基準監督署へ労災保険の請求書を提出します。請求書の種類は、給付内容(療養補償、休業補償など)に応じて異なるため、注意が必要です。

請求書の提出は、従業員本人でも事業者でも可能です。 また、請求書の記入には、医師の診断書や証明が必要な場合があります。

労働者死傷病報告の提出

労災により従業員が死亡、または休業に至った場合、事業者には「労働者死傷病報告」の提出義務があるため、迅速に対応しましょう。

給付の決定プロセス

請求書の提出後、労働基準監督署による調査が行われます。その後、給付の決定または不決定に関する通知が届きます。

7.損害賠償と労災保険の関係

従業員が業務中や通勤中に交通事故で被害を受けた場合、労災保険の給付を請求できるほか、加害者に対して損害賠償請求を行うことも可能です。

ただし、これらを単純に両方とも受け取れるわけではありません。ここでは、損害賠償と労災保険の関係について詳しく解説します。事業者として、従業員に正確な情報を伝えることが重要です。

損害賠償と労災保険の両方を同時に受け取ることはできない

労災保険から治療費や休業補償を受けた場合、同じ費用を加害者に損害賠償として請求することはできません。法律上、「二重取り」が禁止されているためです。

例えば、労災保険から治療費の全額が支給されている場合、その費用を改めて加害者に請求することはできません。

同様に、休業補償についても、労災保険で支給された額との差額のみが損害賠償の対象となります。

労災保険で不足する部分や対象外の費目は損害賠償請求が可能

労災保険は業務中や通勤中の事故や災害に対して手厚い補償を提供しますが、補償には限界があります。

そのため、労災保険でカバーされない不足分や費目については、加害者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

例えば、休業補償は基礎収入の60%が支給される仕組みですが、この差額部分については損害賠償請求の対象になります。

また、労災保険の対象外である慰謝料や後遺障害に伴う逸失利益についても、別途加害者に請求することが可能です。

8.加害者への損害賠償請求のポイント

加害者への損害賠償請求のポイント

業務中や通勤中の事故で第三者による加害行為があった場合、労災保険給付を受給しながらも、労災でカバーされない費用や不足分について加害者に損害賠償請求が可能です。

ここでは、損害賠償請求の際に押さえておくべきポイントを詳しく解説します。

第三者の加害行為による損害賠償

第三者の故意や過失によって従業員が被害を受けた場合、その第三者に損害賠償を請求できます。

さらに、加害者が業務中に事故を起こした場合は、雇用主に使用者責任が生じるため、雇用主に対しても損害賠償を請求することが可能です。

請求可能な内容

損害賠償請求では、事故による治療費・入院費、休業損害などを請求できます。ただし、上述した通り、二重請求は禁止されているため、労災保険で給付されている部分は請求できません。

したがって、実際には労災保険でカバーできない部分や労災保険の範囲外となる補償を請求します。

具体的には以下のようなものが含まれます。

  • 慰謝料
    事故による精神的苦痛への補償です。
  • 後遺症による逸失利益
    事故で失われた将来の収入を補填するものです。
  • 休業損害の不足分
    労災保険で支給される金額(基礎収入の60%)との差額です。

加害者への損害賠償請求を行う際は、必要な証拠をそろえ、事故の責任関係を明確にしておくことが重要です。

9.【労災制度】タクシー運転手の安心が、企業の安定に

労災保険制度は、タクシー運転手が安心して業務に従事するための重要なセーフティネットです。

業務災害から通勤災害まで、様々なリスクに対して適切な補償を提供し、事業主が保険料を全額負担する仕組みとなっています。

事故や災害が発生した際は、速やかな報告と適切な手続きが重要です。また、第三者による加害行為の場合は、労災保険と併せて損害賠償請求も検討できます。

従業員の安全と健康を守るため、労災保険制度を正しく理解し、活用することが望まれます。

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