企業の採用担当者にとって、応募者の経歴詐称は深刻な問題です。学歴、職歴、資格など、虚偽の情報に基づいて採用した場合、業務品質の低下や社内信頼関係の毀損など多くのリスクが発生します。
本記事では、経歴詐称の定義から具体的な見抜き方、発覚時の対応まで、企業担当者が知っておくべき情報を体系的に解説します。適切な対策で採用リスクを軽減し、健全な組織運営を実現しましょう。
- 経歴詐称の種類とそれぞれが企業にもたらす具体的なリスク
- 採用前に経歴詐称を見抜くための7つの効果的な方法と実践ポイント
- 経歴詐称が発覚した場合の法的リスクを最小化する適切な対応手順
1.経歴詐称とは?企業が直面するリスクを理解する

企業にとって、採用した人材の経歴詐称は単なる「うそ」ではなく、業務品質や社内信頼関係に大きく影響する重大な問題です。まずは経歴詐称の基本概念と企業が直面するリスクについて理解しましょう。
経歴詐称の定義と範囲
具体的には、実際には卒業していない学校を卒業したと偽る、在籍したことのない企業での勤務経験を記載する、取得していない資格を所持していると主張するなどが該当します。
経歴詐称の範囲は広く、単に嘘をつくだけでなく、重要な情報の意図的な省略も含まれます。
例えば、短期間で退職した職歴を意図的に記載しないケースや、職位や役職を実際より高く申告するようなケースも経歴詐称に該当します。
企業側としては、応募者の提供する情報の真偽が採用判断の重要な基準となるため、経歴詐称は採用プロセス全体の信頼性を損なう行為として認識する必要があります。
経歴詐称が企業にもたらす4つの具体的リスク
経歴詐称が発覚した場合、企業は以下の4つの具体的なリスクに直面します。
- 業務品質の低下
虚偽の経験やスキルで採用された従業員は、期待された業務を遂行できないことが多く、チーム全体の生産性を下げる原因となる - 社内信頼関係の毀損
経歴詐称が発覚すると、その従業員への不信感が生まれるだけでなく、人事部門の採用プロセスへの疑問も生じ、組織全体の信頼関係に悪影響を及ぼす - 法的・金銭的リスク
特に重要な資格が必要な業務において、無資格者の採用は法令違反となる場合があり、罰則や損害賠償のリスクが発生するほか、業務の失敗による損失の可能性がある - 企業ブランドの毀損
経歴詐称者による不適切な行動が顧客や取引先に影響を与えた場合、企業の評判が傷つき、長期的な信頼関係に支障をきたす可能性がある
これらのリスクは単なる採用ミスの枠を超え、企業経営に深刻な影響を与える可能性があることを認識しておくべきです。
意図的な詐称と記載ミスの違い
経歴詐称には、採用を有利に進めるための「意図的な詐称」と、単純な「記載ミス」による場合があります。両者を区別することは、対応策を検討する上で重要です。
意図的な詐称とは応募者が自覚的に虚偽の情報を提供するケースで、未取得の資格を保有していると偽る・実際より高い職位にあったと主張する・存在しない職務経験を創作するなどです。
これに対し記載ミスは、日付の誤記、社名の表記ミス、期間の計算間違いなど、不注意による誤りです。
両者の区別は明確ではないケースもありますが、意図的な詐称は面接や書類の中で一貫して主張される傾向があり、質問を深掘りすると矛盾が生じやすいという特徴があります。
一方、記載ミスは指摘されると素直に認めることが多く、修正の意思も示されます。

企業側としては、経歴詐称が疑われる場合、まずはその背景と意図を見極め、意図的な虚偽なのか単純なミスかの判断が適切な対応への第一歩となります。
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2.要注意!経歴詐称の代表的なケース

採用担当者が警戒すべき経歴詐称には様々なパターンがあります。ここでは、実際によく見られる詐称のケースとその特徴を解説します。これらを理解することで、詐称を早期に発見するための視点が得られます。
学歴詐称の実態と事例
学歴詐称は経歴詐称の中でも最も一般的なケースの一つです。具体的には、以下のようなパターンがあります。
- 実際には卒業していない大学を卒業したと偽る
- 中退を卒業と申告する
- 実際より高いレベルの学位を取得したと主張する
- 卒業年度を偽って留年や浪人の事実を隠す など
特に注意すべきは、海外の教育機関の学歴は確認が困難な場合が多く、詐称されやすい傾向があります。
事例①
「有名大学のMBAを取得」と履歴書に記載しながら、実際には短期のオンラインコースを受講しただけというケース
事例②
「○○大学経済学部卒業」と記載しながら、実際には中退していたというケース
学歴詐称は採用時の初期スクリーニングで重視される学歴要件を満たすために行われることが多く、特に応募者が多い人気職種や、学歴が重視される職種において発生しやすい傾向があります。
職歴・職位詐称の見極めポイント
職歴や職位の詐称は、応募者の実務能力に直結する問題であり、採用後のパフォーマンスに大きな影響を与えます。典型的な職歴詐称には、以下のようなパターンがあります。
- 実際には在籍していない企業での勤務経験の捏造
- 在籍期間の水増し
- 職務内容の過大表現 など
特に注意すべきは「肩書きの詐称」で、実際の職位より高いポジションを経験したと偽るケースです。
事例①
「マネージャー」と履歴書に記載しながら、実際にはチームリーダーレベルの役割だったというケース
事例②
「プロジェクトマネージャー」として大規模プロジェクトを主導したと主張しながら、実際には補助的な役割だったケース
職歴詐称を見極めるポイントとしては、具体的な業務内容や成果について詳細に質問した際の回答の具体性、担当業務についての専門知識の深さ、同業他社の状況や業界用語への理解度などが挙げられます。
また、職歴の不自然な空白期間がある場合も、詐称の可能性を疑うべきサインとなります。
資格・免許詐称の発見方法
資格や免許の詐称は、特に専門職や特定の業務に必須の資格が要求される職種において重大な問題となります。主な詐称パターンとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 未取得の資格を保有していると偽る
- 実際より高いレベルの資格を取得したと主張する
- 失効した資格を現在も有効であるかのように装う など
資格詐称を発見する最も確実な方法は、資格証明書の原本確認です。特に重要な資格については、発行元の団体や機関に直接照会して真偽を確認することも検討すべきでしょう。
面接時に資格に関連する専門的な質問を行い、回答内容と主張する資格レベルの整合性を確認する方法も有効です。
事例①
「TOEIC 900点」と履歴書に記載しながら、実際の英語力が明らかに不足しているケース
事例②
「宅地建物取引士」の資格を持っていると主張しながら、関連する基本的な法律知識が欠如しているというケース
資格詐称は単なる採用上の問題だけでなく、場合によっては法的問題に発展する可能性もあるため、特に慎重な確認が必要です。
その他の詐称パターン(年収・病歴・犯罪歴など)
経歴詐称には学歴や職歴、資格以外にも様々なパターンがあります。まず「年収詐称」が挙げられます。転職時に前職の年収を水増しすることで、新しい職場での給与交渉を有利に進めようとするケースです。
次に「病歴の隠蔽」があります。業務に影響する可能性のある持病や治療歴を隠す行為で、特に精神疾患や長期治療を要する疾患について申告されないことがあります。
また「犯罪歴の隠蔽」も重大な詐称の一つです。前科や逮捕歴など、雇用判断に影響する法的問題の履歴を隠すケースが該当します。
これらの詐称は直接的な確認が難しい場合が多いですが、前職の退職証明書や源泉徴収票、健康診断書の確認、必要に応じた身元調査などによって真偽を判断できることがあります。
特に犯罪歴については、業務内容や取り扱う情報の重要性に応じて、適法な範囲内でのバックグラウンドチェックを検討することも重要です。
3.採用前に経歴詐称を見抜く7つの効果的な方法

経歴詐称による問題を未然に防ぐためには、採用プロセスの各段階で適切な確認手段を講じることが重要です。ここでは、効果的に経歴詐称を見抜くための7つの方法を具体的に解説します。
①採用書類の精査と矛盾点の発見
採用書類の精査は経歴詐称を見抜く最初の防衛線となります。履歴書や職務経歴書の内容を注意深く確認し、情報の一貫性や矛盾点を探ることが重要です。
主なチェックポイント
- 時系列に着目して学歴や職歴の期間に不自然な空白や重複がないかチェックする
- 記載されている職務内容と役職、在籍期間の整合性を検証する
(若年でありながら急速に上級職に昇進している場合や、特定の業界での経験が短いにもかかわらず高度な専門性を主張している場合は、詳細な確認が必要) - 複数の書類間で情報に相違がないか比較する
(履歴書、職務経歴書、カバーレター、応募フォームなど)
さらに、使用されている業界用語や専門用語の適切さから、主張する経験の真偽を判断する手がかりが得られることもあります。
採用書類の精査は時間を要する作業ですが、この段階で経歴詐称の疑いを発見できれば、その後のステップでより集中的な確認が可能になり、採用プロセス全体の効率と精度が向上します。
②面接での効果的な質問テクニック
面接は経歴詐称を見抜く絶好の機会です。効果的な質問技術を用いることで、応募者の主張する経験や能力の真偽を見極めることができます。
- 具体的な事例を求める質問
「その職務でのあなたの最大の成果は何でしたか?」「その問題をどのように解決しましたか?」など、具体的なエピソードを引き出すことで、実際の経験があるかどうかを判断できる - 予期せぬ角度からの質問
履歴書に記載された経験に関連する、しかし一般的ではない視点からの質問により、表面的な知識だけで対応できるか試すことができる - 掘り下げ質問の連続
一つの話題に対して複数の関連質問を連続して行うことで、経験の深さや一貫性を検証する - 沈黙の活用
応募者の回答後に意図的に沈黙を作ることで、不安な応募者は追加情報を提供しようとし、その過程で矛盾が生じることがある
これらの質問テクニックは単独ではなく組み合わせて活用することで、経歴詐称の可能性を多角的に評価することが可能になります。
③公的証明書の提出要請と確認
公的証明書の確認は、経歴詐称を見抜くための最も直接的で信頼性の高い方法です。採用プロセスの適切な段階で、応募者に対して学歴や資格、職歴を証明する公的書類の提出を要請することで、主張の真偽を客観的に確認できます。
学歴や資格、職歴の証明には以下の書類が有効です。
- 学歴確認:卒業証書、成績証明書
- 資格確認:資格証明書の原本または認証された写し
- 職歴確認:前職の退職証明書、在籍証明書
これらの書類を確認する際のポイントとしては、発行元の正式な印章や署名があるか、発行日は適切か、記載内容は応募書類と一致しているかなどがあります。
特に重要なポジションや専門性の高い職種については、証明書の真偽を発行元に直接確認することも検討すべきでしょう。

ただし、証明書の提出要請は応募者のプライバシーや心理的負担に配慮し、採用プロセスの後半や、採用の意思決定に近い段階で行うことが一般的です。
また、提出を求める証明書は採用判断に真に必要なものに限定し、過度な要求は避けるべきです。公的証明書の確認は手間がかかりますが、重要なポジションほどこのステップを省略せず、確実に実施することが重要です。
④リファレンスチェックの実施方法
効果的なレファレンスチェックを実施するためには、まず応募者から適切リレファレンス(推薦者)の連絡先を入手することが必要です。
理想的には直属の上司や人事担当者など、応募者の仕事ぶりを直接評価できる立場の人物が望ましいでしょう。リファレンスチェックを行う際は、事前に質問リストを準備し、一貫した情報収集ができるようにします。
基本となる質問内容
- 応募者の役職と主な職務内容
- 勤務期間
- 職務上の強みと弱み
- チームでの協働能力
- 離職理由 など
また、リファレンスチェックの実施には応募者の同意を得ることが倫理的にも法的にも重要です。
リファレンスから得られた情報と応募者の主張に不一致がある場合は、その理由を応募者に確認する機会を設けることで、誤解や状況の変化による違いなのか、意図的な詐称なのかを判断できます。
なお、リファレンスチェックは単に経歴詐称を見抜くためだけでなく、応募者の職場での実際のパフォーマンスや適合性を評価する貴重な情報源となるため、可能な限り実施することをお勧めします。
▼リファレンスチェックについてもっと詳しく
以下の記事では、ドライバー採用におけるリファレンスチェックの重要性や実施手順、効果的な質問例、法的配慮事項を解説しています。ぜひ参考にしてください。
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⑤バックグラウンドチェックサービスの活用
専門的なバックグラウンドチェックサービスの活用は、特に重要なポジションや高い信頼性が求められる職種において有効な手段です。
これらのサービスは、応募者の経歴、学歴、資格、犯罪歴などを包括的に調査し、提供された情報の真偽を検証します。
また、法的に適切な範囲内で調査が行われるため、プライバシー侵害などのリスクを軽減できます。サービスを選択する際のポイントとしては、以下のような項目が挙げられます。
- 調査範囲の網羅性
- 報告の詳細さ
- 調査完了までの時間
- コスト
- 信頼性(過去の実績や顧客評価) など
ただし、バックグラウンドチェックは応募者のプライバシーに関わる敏感な問題であることを認識し、必ず応募者の明示的な同意を得た上で実施すべきであり、調査結果の取り扱いにも十分な配慮が必要です。
また、調査結果の解釈においては、文化的背景や状況的要因も考慮し、一面的な判断を避けることが重要です。適切に活用することで、経歴詐称のリスクを大幅に軽減し、採用の質を向上させることができます。
⑥SNSや公開情報の調査
SNSやインターネット上の公開情報の調査は、応募者の経歴詐称を発見するための補助的手段として効果的です。
LinkedIn、Facebook、Twitter、Instagramなどの主要SNSプラットフォームでは、応募者が公開しているプロフィールや投稿から、職歴、学歴、専門的活動などの情報を収集できます。
SNS調査で注目すべきポイントには以下のようなものがあります。
- SNS上のプロフィールと提出された履歴書の整合性
- 過去の投稿内容と主張する経験や専門性の一致度
- 所属組織や専門グループでの活動実績
- 業界セミナーやイベントの参加記録
- 専門メディアでの発言や寄稿
- オープンソースプロジェクトへの貢献
ただし、SNS調査には法的・倫理的な配慮が不可欠です。採用目的でのSNS確認は応募者に事前に通知し、同意を得ることが望ましいでしょう。
また、調査は公開情報のみに限定し、プライベートな内容や採用判断に直接関係のない情報(政治的見解、宗教的信条など)は考慮しないよう注意が必要です。
SNS調査は単独の判断基準とするのではなく、他の確認方法と組み合わせて総合的に評価することで、より信頼性の高い判断が可能になります。
⑦採用プロセスにおける段階的な確認体制の構築
効果的な経歴詐称対策には、単発の確認ではなく、採用プロセス全体を通じた段階的な確認体制の構築が重要です。
- 採用プロセスの初期段階
応募書類の基本的なスクリーニングを行い、明らかな矛盾点や疑問点をチェックする - 一次面接
経歴や職務経験に関する基本的な質問を通じて、応募者の主張の一貫性を確認する - 二次面接や専門面接
より深い専門知識や経験に関する掘り下げた質問を行い、主張する専門性の真偽を検証する - 内定前の最終段階
リファレンスチェックや必要な証明書の確認など、より公式な検証プロセスを実施する
この段階的アプローチの利点は、各ステップで得られた情報を次のステップに活かせることと、確認作業の効率化が図れることです。
例えば初期段階で疑問点が発見されれば、後の面接でその点を重点的に確認できます。また、複数の担当者や評価者が異なる視点から評価することで、一人では気づかない不一致点を発見できる可能性も高まります。
採用プロセスの各段階で収集した情報を一元管理し、総合的に評価するシステムを整備することで、経歴詐称の発見率を大幅に向上させることができるでしょう。
4.経歴詐称が発覚した場合の対応フローチャート

経歴詐称が発覚した場合、企業は冷静かつ適切に対応する必要があります。ここでは、経歴詐称発覚時の調査から対応までの流れを、状況別に解説します。法的リスクを最小化しつつ、公正な対応を行うためのガイドラインとしてご活用ください。
事実関係の客観的な確認と調査
経歴詐称の疑いが生じた場合、まず重要なのは冷静に事実関係を確認することです。感情的な判断や憶測に基づく対応は、後に法的問題につながる可能性があるため避けるべきです。
調査のステップ
- 問題となっている詐称の具体的内容を明確にする
- 関連する証拠や文書を収集する
(応募書類、面接記録、提出された証明書など) - 詐称の可能性を裏付ける客観的な証拠を整理する
- 当事者への聞き取りを実施する
この際、非難や追及ではなく、事実確認を目的とした質問を心がけ、弁明の機会を十分に与えることが重要です。必要に応じて、外部機関(前職の企業、教育機関、資格発行団体など)への照会も検討します。
調査プロセスは以下の点に注意して進めましょう。
- 調査プロセスはすべて文書化し、日時、関係者、確認内容、決定事項などを記録に残す
- 調査の過程では情報の取扱いに十分注意し、関係者のプライバシーを保護する
- 未確定情報の拡散による二次的な問題(風評被害など)を防止する
事実関係の確認は時間をかけてでも丁寧に行い、確固たる証拠に基づいて次のステップに進むことが、適切な対応の基盤となります。
内定者と在職者で異なる対応の必要性
経歴詐称が発覚した場合、その対象が内定者(まだ入社していない者)か在職者(すでに勤務している従業員)かによって、対応方法は大きく異なります。
内定者の場合
内定者の場合、労働契約はまだ本格的に発効していないため、比較的柔軟な対応が可能です。
内定の取り消しを検討する場合でも、労働契約法第16条の「客観的に合理的な理由」を満たす必要がありますが、詐称の内容が採用判断に実質的な影響を与えるものであれば、内定取り消しの正当性は比較的認められやすいでしょう。
在職者の場合
一方、在職者の場合は既に労働契約が成立しており、雇用関係の変更や終了には厳格な要件が課されます。
特に懲戒解雇や普通解雇を検討する場合は、詐称内容の重大性、業務への影響度、入社後の勤務態度や成果など総合的な判断が必要となります。
また、内定者と在職者のどちらの場合も、詐称の背景や意図を十分に考慮することが重要です。意図的な虚偽なのか単純なミスなのか、採用や待遇に実質的な影響を与えたのか、などを評価した上で、懲戒処分の種類や程度を決定すべきです。
いずれのケースでも、公平性と一貫性のある対応を心がけ、類似ケースでの過去の対応との整合性も確保することで、対応の妥当性と法的安全性を高めることができます。
内定取り消しの条件と手続き
内定取り消しは法的に重大な行為であり、適切な条件と手続きに基づいて実施することが必要です。
まず、内定取り消しの条件としては、労働契約法第16条に基づき「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
経歴詐称の場合、詐称の内容が採用決定に実質的な影響を与えたかどうかが重要な判断基準となります。
内定取り消しの手続きとしては、まず詐称の事実と内容を客観的証拠に基づいて確定させることが必要です。
次に、当事者に対して詐称の内容を明示し、弁明の機会を与えます。そこで詐称の事実が確認できた場合、内定取り消しの理由と根拠を明確に説明した書面を交付します。
特に入社日が迫っている場合は、内定者の生活への影響も考慮して、できるだけ早期に通知することが望ましいでしょう。
内定取り消し後に法的紛争に発展するリスクを軽減するため、一連のプロセスを記録に残し、内定時の条件(「経歴に虚偽がないこと」などの明示)や採用基準との整合性を確保することも重要です。
懲戒処分の種類と適用基準
経歴詐称が発覚した在職者に対しては、詐称の重大性や業務への影響に応じて、適切な懲戒処分を検討する必要があります。
懲戒処分の種類
- 注意・厳重注意
- 戒告
- 減給
- 出勤停止
- 降格・降職
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
経歴詐称への適用基準としては、まず詐称の内容と範囲が重要です。業務に直接関係する資格や経験の詐称は重大と判断される傾向にあります。
次に、詐称の意図と動機を考慮します。単なる記載ミスか意図的な虚偽かによって評価は大きく異なります。
また、会社や業務への実際の影響度も重要な判断要素です。例えば、詐称により会社が法的リスクにさらされた場合や、重大な業務上の問題が発生した場合は、より厳しい処分が正当化されるでしょう。
さらに、発覚後の態度も考慮されます。詐称を認めて誠実に反省する姿勢を示す場合と、否認や責任転嫁を続ける場合では、対応が異なる可能性があります。
どのような懲戒処分を適用する場合も、就業規則に明確な規定があることが前提条件となります。
懲戒処分の判断は、過去の類似ケースとの一貫性や公平性を保ちながら、個別の状況を総合的に評価して決定することが望ましいでしょう。
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5.法的観点から見る経歴詐称への対応

経歴詐称への対応には様々な法的側面があります。適切に対処するためには、関連する法律や判例を理解し、法的リスクを最小化する対応を心がけることが重要です。
この章では、経歴詐称に関連する法律や内定取り消し・解雇の法的リスク、そして予防措置としての就業規則の重要性について解説します。
経歴詐称と法律の関係性
経歴詐称と法律の関係は多面的であり、民法、労働契約法、個別の業法など様々な法的枠組みが関係します。
- 民法の観点
経歴詐称は契約締結過程における「詐欺」や「錯誤」に該当する可能性がある。採用時の重要な判断材料に虚偽があった場合、会社側は錯誤による契約の取消しを主張できる可能性があるが、その詐称が採用判断に実質的な影響を与えたことを立証する必要がある - 労働契約法の観点
第15条(懲戒)および第16条(解雇)が関連する。経歴詐称を理由とする解雇や内定取り消しは、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められ、これらの要件を満たさない場合は無効となる
また、特定の業種では関連する業法による規制が適用される場合があります。
- 業種別の規制
金融機関や医療機関では、従業員の資格や経歴に関する厳格な規制があり、これに違反すると企業自体が行政処分を受けるリスクがある - 刑事罰の可能性
応募者が提出した虚偽文書が「私文書偽造」に該当する場合や、資格詐称が特定の法律に違反する場合は、刑事罰の対象となる可能性もある
経歴詐称への対応においては、これらの複雑な法的関係を理解し、適切な専門家(弁護士や社会保険労務士など)の助言を得ながら進めることが望ましいでしょう。
内定取り消しや解雇の法的リスク
経歴詐称を理由とする内定取り消しや解雇には、様々な法的リスクが伴います。
裁判例では、詐称の内容が採用決定に実質的な影響を与えた場合や、採用条件として明示されていた要件に関する詐称の場合には内定取り消しが認められる傾向にありますが、業務に関連性の低い詐称や軽微な記載ミスでは認められないケースが多いです。
在職者の解雇については、さらに厳格な要件が課されます。
入社から相当期間が経過している場合や、その間の業務実績が良好である場合は、経歴詐称だけを理由とする解雇の妥当性が低くなる傾向があります。
内定取り消しや解雇が無効と判断された場合、企業は賃金の支払いや地位確認、さらには損害賠償などの責任を負う可能性があります。
また、不適切な対応は風評被害や採用活動への悪影響など間接的なリスクももたらします。
これらのリスクを最小化するためには、事前に明確な採用条件を提示し、詐称発覚時の対応プロセスを整備しておくことが重要です。また、個別ケースでの判断に迷う場合は、早期に専門家への相談を検討すべきでしょう。
就業規則への明記と周知の重要性
経歴詐称への適切な対応のためには、就業規則への明確な規定と従業員への周知が極めて重要です。就業規則には「採用時の経歴詐称が発覚した場合の懲戒事由」を明記すべきです。
●就業規則に盛り込むべき事項
- 「履歴書その他の提出書類に虚偽の記載をしたとき」などの具体的な懲戒事由
- 経歴詐称の重大性に応じた懲戒処分の種類(戒告、減給、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)
これらの規定は、労働基準法第89条に基づき、就業規則に必要な記載事項である「退職に関する事項」および「制裁の種類および程度」として位置づけられます。
就業規則に規定を設けることの重要性は、主に二つあります。
- 法的効力の確保
就業規則に明確な根拠がなければ、経歴詐称を理由とする懲戒処分や解雇は無効とされるリスクが高まる - 予防効果
採用時に就業規則を提示し、経歴詐称が重大な懲戒事由となることを明示することで、虚偽申告を抑止できる
就業規則の作成・変更後は、労働基準法第106条に基づき、従業員への周知義務があります。社内での掲示やイントラネットでの公開、入社時の説明など、確実に周知する方法を選択することで、規定の実効性を高めることができます。
6.経歴詐称発覚後の社内対応と再発防止

経歴詐称が発覚した場合、適切な対応と再発防止策の実施が重要です。社内の混乱を最小限に抑え、組織の信頼関係を維持するための対応方法と、長期的な視点での再発防止策について解説します。
社内コミュニケーションの取り方
経歴詐称が発覚した際の社内コミュニケーションは、組織の安定性と信頼関係の維持に大きく影響します。基本的な原則として、情報共有の範囲と内容を慎重に検討することが重要です。
まず、詐称の発覚と対応について知る必要がある関係者(直属の上司、人事部門、法務部門、経営層など)には、事実関係と対応方針を正確に伝えます。
この際、憶測や個人的見解を混在させず、確認された事実に基づいて説明することが重要です。
一方、組織全体への周知については、プライバシーへの配慮と教訓の共有のバランスを取る必要があります。
個人を特定する情報は避けつつ、「採用プロセスの改善」「コンプライアンスの徹底」などの文脈で、発生した問題と今後の対策について説明することが適切です。
また、詐称者の直属チームやプロジェクトメンバーには、業務への影響と今後の体制について明確に説明し、不安や混乱を最小化することが重要です。
経歴詐称の発覚が社外に漏れる可能性がある場合は、広報部門と連携して対外的な説明の準備も必要でしょう。

いずれの場合も、感情的な対応や非難の言葉は避け、事実に基づいた冷静なコミュニケーションを心がけることで、組織の成熟度を示し、同様の問題の再発防止につなげることができます。
信頼回復のためのフォローアップ
経歴詐称が発覚した後、組織内外の信頼関係を回復するためのフォローアップは極めて重要です。まず内部的には、以下の取り組みが重要です。
- 詐称者が担当していた業務や責任範囲の見直し
- 重要プロジェクトや対外的役割の確実な引継ぎ
- 詐称者と協働していたチームメンバーへの個別フォロー
- チーム全体のモラル維持のためのケア
外部関係者については、詐称者が顧客や取引先と直接的な関係を築いていた場合、その交代理由について適切な説明と新たな担当者の紹介を行い、信頼関係の継続を図ります。
ただし、詐称の事実そのものは基本的に社外に開示する必要はなく、「社内体制の変更」などの表現で対応するのが一般的です。
さらに、組織全体としては、経歴詐称の発覚がネガティブな要素だけでなく、採用プロセスや組織文化の改善機会と捉え、積極的な変革のメッセージを発信することも有効です。
信頼回復のプロセスには時間がかかりますが、透明性のある対応と一貫したフォローアップによって、最終的には組織の信頼性と結束力を高める結果につながります。
経営層や人事部門は、この過程を通じて得られた教訓を組織の成長に活かす姿勢を明確に示すことが重要です。
採用プロセスの見直しと改善
経歴詐称の発覚を契機として、採用プロセス全体を見直し、改善することは、再発防止の核心となります。
- 詐称検出に失敗した採用プロセスの弱点の特定
書類審査の甘さ、面接での質問不足、リファレンスチェックの形骸化など - 検証プロセスの強化と多層防御の仕組みの構築
採用の各段階に複数のチェックポイントを設置 - 採用基準や必要書類の明確化
採用基準や必要書類を職種・役職ごとに明確化し標準化する
また、採用担当者への教育も不可欠です。経歴詐称の典型的なパターンや見抜くためのインタビュー技術、不自然な点を発見するための着眼点などを共有し、採用チーム全体の判断能力を向上させます。

さらに、採用プロセスの各段階で収集した情報を一元管理し、矛盾点や疑問点を効率的に検出するためのシステムやツールの導入も検討すべきでしょう。
これらの改善策は、単に経歴詐称を防ぐだけでなく、採用活動全体の質を高め、企業と採用候補者のより良いマッチングにつながる重要な取り組みとなります。
▼採用におすすめATSとRPOについて
以下の記事では、ATS(採用管理システム)とRPO(採用代行)について詳しく解説しています。採用をスムーズに行なう心強いシステムです。ぜひ参考にしてください。
7.経歴詐称対策で採用リスクを最小化する

経歴詐称は企業にとって見逃せないリスクですが、適切な対策と迅速な対応によって、そのリスクを大幅に軽減することが可能です。ここでは、本記事の要点をまとめ、実践的な対策の重要性について再確認します。
プロアクティブな対策の重要性
経歴詐称に対するプロアクティブ(事前予防的)な対策は、事後対応よりもはるかに効果的かつ効率的です。
経歴詐称が発覚した後の対応は、法的リスク、業務への影響、社内の混乱など様々な課題を伴いますが、事前に防止できれば、これらの問題を回避できます。
プロアクティブな対策の第一歩は、採用プロセスの各段階に適切な検証メカニズムを組み込むことです。
●効果的なプロアクティブ対策
- 応募書類の徹底精査と複数の視点からの確認
- 経歴を検証する効果的な面接質問の実施
- 資格証明書の原本確認とその真偽の検証
- 前職へのレファレンスチェックの確実な実施 など
特に重要なポジションについては、より厳格な検証プロセスを適用することも検討すべきでしょう。
また、採用条件や必要資格を明確に提示し、応募者に対して「経歴情報の正確性が採用の前提条件である」というメッセージを明確に伝えることも効果的です。
就業規則に経歴詐称に関する規定を明記し、入社時にその内容を説明することで、抑止効果を高めることができます。
さらに、採用担当者への定期的な研修や、過去の詐称事例から学んだ教訓の共有など、組織の経歴検証能力を継続的に向上させる取り組みも重要です。
これらのプロアクティブな対策に投資することは、長期的には経歴詐称による損失やリスクを大幅に減少させ、採用プロセス全体の質と効率を向上させる効果をもたらします。
信頼関係を基盤とした採用文化の構築
経歴詐称対策の最終的な目標は、単に詐称を防ぐことだけではなく、信頼関係を基盤とした健全な採用文化を構築することです。
採用とは本来、企業と個人が相互の価値観や期待を理解し、長期的な協力関係を築くプロセスであり、その基盤となるのは信頼関係です。
この観点から、経歴詐称対策も「監視と取締り」という発想ではなく、「透明性と信頼の醸成」という視点で捉えることが重要です。
●信頼関係構築のための具体的アプローチ
- 採用情報の透明性向上
(求める経験・資格・業務内容・評価基準の明確化) - 応募者との対話重視と経歴確認を相互理解の機会と位置づける
- 採用後のキャリア開発支援や研修制度の充実
このような信頼ベースのアプローチにより、応募者は防衛的な詐称行為ではなく、自分の強みと成長可能性を正直に伝える動機づけがされます。
また「足りない部分は入社後に成長できる」という期待を持たせることで、応募時点での過大表現への誘惑を減らすことができます。
さらに、組織全体の倫理観と誠実さを重視する文化を醸成し、「経歴や肩書きより実際の貢献や成長を評価する」というメッセージを一貫して発信することで、詐称の動機そのものを弱める効果も期待できます。
このような信頼を基盤とした採用文化は、経歴詐称の防止だけでなく、人材の定着率向上や組織全体のパフォーマンス向上にもつながる重要な経営基盤となるのです。
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8.経歴詐称対策で組織の信頼を守る
経歴詐称は単なる個人の不誠実さの問題ではなく、企業全体に影響を及ぼす重大なリスク要因です。
本記事で解説した通り、効果的な対策には採用プロセスの各段階での確認体制の構築、就業規則への明確な規定、そして何より信頼関係を基盤とした採用文化の醸成が不可欠です。
経歴詐称が発覚した場合も、感情的な対応ではなく、客観的な事実確認と法的リスクを考慮した冷静な判断が重要です。
予防策と適切な対応方法を実践することで、企業の採用リスクを最小化するとともに、透明性と信頼に基づいた組織文化を構築できるでしょう。
経歴詐称対策は単なるリスク管理を超え、質の高い人材確保と組織の持続的成長につながる重要な経営課題なのです。