運送業界では複雑な雇用形態や特殊な勤務条件があるため、雇用保険の適切な管理が課題となっています。特に2025年度は料率引き下げが予定されるなど制度変更も控えています。
本記事では、運送業・ドライバー雇用における雇用保険の基礎知識から計算方法、手続き、給付金活用まで、人事担当者が知っておくべき情報を徹底解説します。
- 運送業におけるドライバーの雇用形態別(正社員、パート、季節労働者など)の雇用保険加入要件と実務上の注意点
- 2025年度の雇用保険料率改定内容と運送業界への影響、対応すべきポイント
- ドライバー特有の手当を含めた雇用保険料の正確な計算方法と、各種給付金の効果的な活用方法
1.雇用保険とは?運送業における基本的な役割と意義

運送業界では業務の特性上、季節変動や景気変動による雇用の変動が大きく、また長距離運転や深夜勤務など特殊な労働環境があります。そのため、雇用保険制度を正しく理解し活用することが、ドライバーの生活保障と企業経営の安定化に大きく貢献します。
雇用保険制度の目的と運送業界での重要性
雇用保険は労働者が失業した際の生活保障だけでなく、雇用の安定や就職の促進を図ることを目的とした制度です。
運送業界では人材の流動性が高く、また景気変動の影響を受けやすいという特性があるため、雇用保険の役割は特に重要です。
例えば、荷物量の季節変動や燃料価格の高騰などで事業が縮小せざるを得ない場合、雇用調整助成金を活用して雇用を維持することができます。
また、ドライバー不足が深刻な中、失業したドライバーが再就職するための訓練や支援を受けることができる制度は、業界全体の人材確保にも寄与しています。
運送業におけるドライバーの雇用を守り、キャリア形成を支援するための重要なセーフティネットとして、雇用保険制度の理解と適切な活用が求められています。
雇用保険と社会保険の違い
雇用保険と社会保険はしばしば混同されますが、制度的には明確な違いがあります。
社会保険(狭義)は一定規模以上の事業所で常時雇用される労働者が加入対象となりますが、雇用保険は事業規模に関わらず、週20時間以上働く労働者が対象となる点が大きな違いです。
運送業では小規模事業者も多く、また短時間勤務のドライバーも少なくないため、この違いを理解することが重要です。
加えて、社会保険は病気・老齢・死亡などのリスクに対応する制度であるのに対し、雇用保険は失業リスクや雇用継続を支援することが主な目的です。
運送業の企業は両方の制度を正しく理解し、適切に運用することで、ドライバーの福利厚生を充実させることができます。
▼社会保険について詳しく解説
以下の記事では、企業における社会保険料の基本から計算方法、実務上のトラブル対応まで、人事担当者必見の管理術を詳しく解説ていします。ぜひ参考にしてください。
運送業・ドライバー業務における雇用保険の特徴
運送業のドライバー業務には、長距離トラック、配送ドライバー、タクシー運転手など様々な形態があり、それぞれの雇用形態に応じた雇用保険の適用が必要です。
特に運送業特有の課題として、長距離トラックドライバーのように拘束時間は長いものの実労働時間の算定が難しい場合や、繁忙期のみ雇用される季節労働者の扱いなどがあります。
また、複数の営業所を持つ運送会社では、ドライバーが勤務地を移動する場合の手続きも独自の配慮が必要です。最近では、副業・兼業のドライバーや、高齢ドライバーの増加に伴い、雇用保険の適用範囲も広がっています。
運送業特有の働き方に合わせた雇用保険の知識を持ち、適切に運用することがドライバーの安定雇用と企業の持続的成長につながります。
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2.2025年度の雇用保険料率と最新動向

2025年度は雇用保険料率の改定が予定されており、運送業を含む多くの企業に影響があります。ここでは、最新の保険料率と今後の動向について詳しく解説します。
2025年の雇用保険料率の改定ポイント
2025年度の雇用保険料率については、2024年12月23日に開催された第201回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会での議論を踏まえ、一般事業の雇用保険料率を1.45%に引き下げる案が示されています。
これは2024年度の1.55%から0.1%の引き下げとなるもので、新型コロナウイルス感染症の影響による雇用調整助成金の給付増加が落ち着き、雇用保険財政が改善傾向にあることを反映しています。

具体的には、労使折半で負担している失業等給付の保険料率が0.1%引き下げられる見込みであり、労働者負担分が0.55%、事業主負担分は0.9%(失業等給付・育児休業給付0.55%、雇用保険二事業0.35%)になると予想されます。
運送業の企業は、2025年4月の給与計算からこの新料率を適用する必要がありますので、給与計算システムの更新や経理担当者への周知など、早めの準備が重要です。
最終的な料率は2025年2月頃に厚生労働省から公表される予定ですので、最新情報を確認することをお勧めします。
参考:厚生労働省|財政運営について・第201回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
運送業に関わる雇用保険料率の特徴
運送業に関わる雇用保険料率は、その事業分類によって適用される料率が異なります。
一般的な運送業(トラック運送業、タクシー業等)は「一般の事業」に分類され、2025年度は1.45%の料率が適用される見込みです。しかし、事業内容によっては、以下のように分類される場合もあります。
このように、同じ運送業でも取り扱う貨物や事業内容によって適用される保険料率が異なる点に注意が必要です。
また、運送業の場合、ドライバーだけでなく事務職員や整備士など様々な職種の従業員がいますが、雇用保険料率は事業所単位で適用されるため、同一事業所内の全従業員に同じ料率が適用されます。
運送業界の企業は、自社の事業分類を正確に把握し、適切な保険料率を適用することが重要です。
最新の雇用保険制度改正と運送業への影響
2025年度に向けて、雇用保険制度にはいくつかの重要な改正が予定されており、運送業界にも大きな影響を与えます。
●特に注目すべきは、高年齢雇用継続給付金の給付率引き下げ
→2025年4月からは、現行の最大15%から10%に縮小される見込み
これにより、高齢ドライバーを多く雇用している運送業者にとっては人件費増加につながる可能性があります。
また、2025年度からは「マルチジョブホルダー制度」の本格実施も検討されており、複数の運送会社でパートタイム勤務するドライバーも、合算して雇用保険の対象となる可能性があります。
さらに、デジタル化推進の流れを受け、雇用保険手続きのオンライン化も加速しています。特に注目すべきは、雇用保険被保険者資格取得・喪失届のオンライン提出義務化の段階的な拡大です。
運送業界においても、2025年度以降はe-Govなどを活用した電子申請が標準となることを見据え、システム対応や担当者の教育が必要です。
これらの制度改正は運送業の人事労務管理に直接影響するため、最新情報を常に把握し、適切に対応することが重要です。
3.運送業における雇用保険の加入要件

運送業でドライバーを雇用する際には、どのような条件で雇用保険に加入させるべきか正確に理解することが重要です。ここでは、雇用形態別の加入要件を詳しく解説します。
一般的な雇用保険の加入条件
雇用保険の加入条件は、事業規模に関わらず以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 31日以上の雇用見込みがあること
これは雇用契約の期間が31日以上ある場合はもちろん、契約期間の定めがなくても適用される
また、更新規定がなくても過去に31日以上の雇用実績がある場合にも適用される点に注意が必要 - 週の所定労働時間が20時間以上
これは雇用契約の期間が31日以上ある場合はもちろん、契約期間の定めがなくても適用される
また、更新規定がなくても過去に31日以上の雇用実績がある場合にも適用される点に注意が必要 - 学生でないこと
ただし、卒業後も同一企業での勤務が予定されている場合や、休学中の学生、事業主の指示で大学院に通っている場合、定時制の学生などは例外的に加入対象となる
運送業においては、短期契約ドライバーや短時間パートドライバーの雇用が多いため、これらの基本条件を正確に把握することが重要です。
ドライバーの雇用形態別・加入条件の違い
運送業界では様々な雇用形態でドライバーが働いており、それぞれの形態によって雇用保険の加入条件に違いがあります。以下について、特に注意が必要なのが季節的に雇用するドライバーです。
正社員ドライバー | 原則として全員が雇用保険の対象 |
契約社員ドライバー | 契約期間が31日以上で週20時間以上勤務する場合は加入 |
派遣ドライバー | 派遣元の会社が雇用保険の手続きを行いますが、運送会社側でも適切に加入されているか確認することが望ましい |
季節的に雇用するドライバー | 繁忙期のみ4ヶ月未満の期間雇用する場合でも、週30時間以上勤務する場合は「短期雇用特例被保険者」として加入 |
日雇いドライバー | 一定の職種(厚生労働大臣が指定する業種)で働く場合や、継続して31日以上雇用される見込みがある場合は「日雇労働被保険者」として加入 |
65歳以上の高齢ドライバーについても、2020年4月以降は一般の被保険者と同様の条件で「高年齢被保険者」として加入が義務付けられています。
運送業の人事担当者は、これらの雇用形態ごとの違いを理解し、適切に対応することが重要です。
パート・アルバイトドライバーの雇用保険加入判断
運送業界では配送量の変動に対応するため、パートやアルバイトのドライバーを活用するケースが増えています。
例えば、週3日・1日7時間勤務のパートドライバーは週21時間となるため加入対象となります。また、複数の営業所でシフト勤務するドライバーの場合、勤務時間の合計が20時間以上になれば加入対象です。
さらに、複数の運送会社で働いている場合でも、それぞれの会社ごとに条件を満たしていれば個別に雇用保険に加入する必要があります。
実務上の注意点として、配送量の変動により週の勤務時間が変わるドライバーの場合、過去6ヶ月の平均で週20時間以上働いていれば加入対象となります。
また、入社時は週20時間未満だったが、後に勤務時間が増えて週20時間以上になった場合は、その時点で雇用保険の加入手続きが必要です。
逆に、勤務時間が減少して週20時間未満になった場合でも、すぐに資格喪失とはならず、継続的に20時間未満の状態が続くと判断された時点で手続きを行います。運送業の特性を踏まえた適切な判断が求められます。
季節労働・短期契約ドライバーの特例
運送業界では繁忙期に限定して雇用する季節労働者や短期契約ドライバーが多く存在します。例えば、年末年始の宅配ラッシュ、夏季のビール輸送、農産物の収穫期など、特定の時期だけ需要が増えるケースです。
このような短期雇用ドライバーについては、通常の雇用保険とは異なる「短期雇用特例被保険者」制度が適用されます。
●短期雇用特例被保険者制度の対象
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
- 季節的に入・離職を繰り返す者で一年のうち特定の時期だけ雇用される者
- 上記1、2いずれかに該当し、かつ週所定労働時間が30時間以上であること
短期雇用特例被保険者になると、通常より短い被保険者期間(通常は12ヶ月必要なところ、6ヶ月)で基本手当を受給することが可能になります。また、特例一時金として、基本手当の30日分を一括して受け取ることもできます。
運送業の企業としては、繁忙期に雇用するドライバーがこの特例の適用条件を満たすかどうかを確認し、適切に手続きを行うことで、従業員の福利厚生を向上させることができます。
季節変動の大きい運送業では、この制度を理解することが人材確保にも繋がります。
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4.雇用保険料の計算方法と実務のポイント

雇用保険料は企業と従業員の双方が負担する重要な費用です。運送業における正確な計算方法と、実務上のポイントを解説します。
運送業での雇用保険料の正確な計算手順
まず「賃金額」を算出するにあたり、運送業特有の注意点があります。基本給や固定給はもちろん、以下のような手当などもすべて賃金に含まれます。
- 歩合給
- 走行距離手当
- 深夜勤務手当
- 荷役手当 など
一方、事故時の見舞金や退職金、出張旅費などは賃金に含まれません。
次に「雇用保険料率」ですが、一般の運送業の場合、2025年度は1.45%(予定)が適用されます。そのうち事業主負担は0.9%、労働者負担は0.55%となる見込みです。
木材や農産物専門の運送業は「農林水産業」に、建設資材運搬専門の運送業は「建設業」に分類され、異なる料率が適用される場合もあるため注意が必要です。
計算の際は端数処理のルールも重要で、労働者負担分を給与から控除する場合は50銭以下切り捨て、50銭1厘以上切り上げとなります。
給与計算ソフトを使用する場合でも、設定内容を確認し、正確な計算が行われるようにしましょう。特に年度の変わり目(4月)は保険料率の変更に伴い、設定の更新が必要です。
賃金に含まれる項目と含まれない項目
運送業における雇用保険料計算の基礎となる「賃金」について、含まれる項目と含まれない項目を正確に理解することが重要です。
●賃金に含まれる主な項目
- 基本給、固定給などの基本賃金
- 各種手当(固定残業手当、超過勤務手当、深夜手当、休日出勤手当、早朝勤務手当など)
- 運送業で特徴的な手当(走行距離手当、無事故手当、安全運転手当、荷役作業手当、積込手当など)
- 扶養手当、住宅手当、役職手当、資格手当(例:大型免許手当)など
- 賞与や決算賞与、年末手当など
●賃金に含まれない主な項目
- 退職金や役員報酬、休業補償費、結婚祝金、死亡弔慰金など
運送業で特に注意すべきは、日当や出張手当の扱いです。実費弁済の性格を持つものは賃金に含まれませんが、実際の支出を上回る金額が支給される場合、その超過分は賃金とみなされます。
例えば、宿泊を伴う長距離運行の際の宿泊費について、実費ではなく定額支給している場合は、実際の支出を超える部分が賃金となります。
これらの区分を正確に把握し、適切な雇用保険料計算を行うことが重要です。
ドライバー特有の手当と雇用保険料計算の注意点
運送業のドライバーには様々な特殊手当が支給されることが多く、これらの手当が雇用保険料の計算対象となるかどうかの判断が重要です。
●賃金に含まれる運送業特有の手当
- 長距離運転手当
- 深夜勤務手当
- 荷役作業手当
- 危険物取扱手当
- 車両管理手当 など
一方、注意が必要なのは「待機時間手当」の扱いです。待機時間中にドライバーが自由に過ごせない場合は労働時間とみなされ、その手当は雇用保険料の計算対象となりますが、完全に自由時間となっている場合は対象外となることがあります。
また、「日当・出張手当」についても判断が難しいケースがあります。例えば、長距離ドライバーに支給される日当が実費(食事代や雑費)を大幅に上回る場合、その超過分は賃金とみなされ計算対象となります。
燃費節約インセンティブのような「報奨金」も、定期的に支給される場合は計算対象となります。
運送会社の経理担当者は、これらドライバー特有の手当の性質を正確に把握し、適切に雇用保険料を計算することが求められます。不明な点は所轄の労働局や社会保険労務士に確認することをお勧めします。
計算例|正社員ドライバーとパートドライバーの場合
実際の運送業における雇用保険料の計算例を、正社員ドライバーとパートドライバーの両方のケースで見ていきましょう。
正社員ドライバーAさんの例
- Aさんの給与内訳は基本給28万円、固定残業手当3万円、無事故手当2万円、深夜勤務手当1.5万円、通勤手当1.5万円→これらはすべて賃金に含まれるため、賃金総額は36万円
- 2025年度の雇用保険料率(予定)1.45%を適用すると、雇用保険料の総額は5,220円
- このうち事業主負担(0.9%)は3,240円、労働者負担(0.55%)は1,980円
パートドライバーBさんの例
- Bさんの給与内訳は時給1,300円で月80時間勤務(10.4万円)、通勤手当1万円→賃金総額は11.4万円
- 2025年度の雇用保険料率(予定)雇用保険料率1.45%を適用すると、雇用保険料の総額は1,653円
- このうち事業主負担(0.9%)は1,026円、労働者負担(0.55%)は627円
なお、賞与がある場合は別途計算が必要です。例えば、Aさんに50万円の賞与が支給された場合、その雇用保険料は7,250円(うち事業主負担4,500円、労働者負担2,750円)となります。
運送会社の給与計算担当者は、これらの計算を正確に行い、適切な源泉徴収と納付手続きを行う必要があります。
5.雇用保険に関する手続きと実務ガイド

運送業における雇用保険の手続きは、ドライバーの採用から離職まで様々な場面で発生します。ここでは実務上の重要ポイントを解説します。
新規ドライバー採用時の雇用保険手続き
運送業で新たにドライバーを採用した際には、雇用保険の加入手続きを適切に行う必要があります。
まず確認すべきは、採用したドライバーが雇用保険の加入要件(週20時間以上の労働、31日以上の雇用見込み)を満たしているかどうかです。
要件を満たす場合、事業主は雇用保険被保険者資格取得届を、ドライバーを雇用した日の翌月10日までに管轄のハローワーク(公共職業安定所)に提出します。
この届出には、ドライバーの氏名、生年月日、住所、雇用年月日、賃金などの情報を記入します。特に、前職で雇用保険に加入していたドライバーの場合は、雇用保険被保険者証の添付も必要です。
運送業特有の注意点として、季節的に雇用する繁忙期限定のドライバーや、試用期間中のドライバーでも、加入要件を満たせば届出が必要です。
また、複数の営業所がある運送会社の場合、勤務する営業所ごとに適用事業所番号が異なることがあるため、正確な所属先を確認することが重要です。
提出方法としては、窓口持参のほか、郵送やe-Govを利用した電子申請も可能です。電子申請は24時間手続き可能で書類の移動時間も節約できるため、多くのドライバーを抱える運送会社にとって効率的な方法といえるでしょう。
ドライバーが離職した際の手続き
運送業界は人材の流動性が高く、ドライバーの離職に伴う雇用保険手続きは頻繁に発生します。
ドライバーが退職する際には、事業主は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を離職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークに提出する必要があります。
特に重要なのは離職証明書の「離職理由」欄の記載です。
運送業特有の離職理由として「長時間労働や深夜勤務による健康上の理由」で退職するケースがありますが、これが会社都合と認められるためには医師の診断書などの証明が必要となります。
また、「雇止め」の場合も正確な記載が求められます。書類提出後、ハローワークから「離職票」が発行されますが、これを確実に元ドライバーに届けることが重要です。
運送業では住所変更や引っ越しをするドライバーも多いため、退職時に正確な送付先を確認しておくとよいでしょう。
さらに、59歳以上のドライバーが退職する場合は、「高年齢雇用継続給付」の申請に必要な書類も併せて準備することが望ましいです。
これらの手続きを迅速かつ正確に行うことで、元ドライバーの次のキャリアへの移行をスムーズに支援することができます。
年度更新と保険料納付の実務ポイント
運送業における雇用保険の年度更新と保険料納付は、毎年必ず行うべき重要な手続きです。
年度更新の期間は毎年6月1日から7月10日までと定められており、この期間内に「労働保険概算・確定保険料申告書」を提出し、保険料を納付する必要があります。

運送業特有の注意点として、繁忙期と閑散期の差が大きいため、年間の賃金総額の見積もりが難しいことがあります。前年度の実績を基に、事業拡大や縮小の見込みも考慮して概算保険料を算出しましょう。
また、運送業では季節労働者や短期雇用ドライバーを多く雇用するケースがあるため、その賃金も適切に算入することが重要です。
納付方法としては、一括納付のほか、保険料が40万円以上の場合は3回に分けて納付することも可能です。
特に資金繰りに余裕がない中小運送業者にとっては、分割納付の活用が有効です。手続きには管轄の労働局や労働基準監督署への訪問のほか、電子申請システム(e-Gov)も利用できます。
申告期限に遅れると追徴金(保険料の10%)が発生するため、カレンダーに記載するなど期限管理を徹底しましょう。
電子申請を活用した効率的な手続き方法
運送業界では複数の営業所を持つ企業も多く、雇用保険関連の手続きが煩雑になりがちですが、電子申請システム(e-Gov)の活用で大幅な効率化が可能です。
●電子申請のメリット
- 24時間365日いつでも申請できる
- 窓口に出向く時間と交通費が節約できる
- 申請データを再利用できる など
特に、ドライバーの入退社が頻繁な運送業では、資格取得届や喪失届の電子申請によって事務作業の負担軽減が期待できます。
電子申請の始め方
- e-Govサイトでユーザー登録とGビズIDを取得する
- 電子証明書の準備(法人の場合は法人番号を記載した電子証明書)をする
- 申請データを作成・送信する
申請後はシステム上で処理状況を確認できるため、手続きの進捗管理も容易になります。また、給与計算ソフトからCSVデータを出力し、それを電子申請に活用する機能も便利です。
2025年度以降、雇用保険関連手続きの電子申請義務化が段階的に進む見込みであるため、早めに対応することをお勧めします。
デジタル化が進む物流業界においても、バックオフィス業務のデジタル化は避けられない流れです。
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6.運送業における雇用保険の活用と給付金

雇用保険は単なる失業時の保障だけでなく、様々な給付金制度を通じて運送業界のドライバーキャリア支援や企業の人材育成に貢献します。ここでは効果的な活用方法を解説します。
ドライバーが利用できる雇用保険の主な給付金
運送業のドライバーが失業した際や、キャリアアップを目指す場合に活用できる雇用保険の給付金制度は多岐にわたります。
基本手当(失業給付) | 離職前の6ヶ月間の賃金日額の50〜80%が、年齢や被保険者期間に応じて90〜360日間支給される |
再就職手当 | 早期に再就職した場合、残りの基本手当の50〜60%が一時金として支給される |
就業促進定着手当 | 再就職手当の支給を受けた方で、再就職先に6か月以上雇用され、再就職先での6か月間の賃金が、離職前の賃金よりも低い場合に、基本手当の支給残日数の40%を上限として、低下した賃金の6か月分が支給される |
教育訓練給付金 | 大型免許やけん引免許、危険物取扱者資格など、ドライバーのスキルアップに必要な資格取得を支援する制度 |
専門実践教育訓練給付金 | 物流管理やロジスティクス関連の専門的なスキルを身につけられる |
ドライバーがこれらの制度を適切に活用できるよう、企業側でも情報提供や支援を行うことが望ましいです。
運送業での雇用継続給付金の活用ポイント
運送業界は高齢ドライバーの比率が高く、また育児や介護との両立を目指すドライバーも増加しているため、雇用継続給付金の活用が重要です。
「高年齢雇用継続給付金」は60〜65歳のドライバーが継続して働く場合に、賃金が低下した際に支給される給付金です。
2025年4月からは給付率が最大15%から10%に引き下げられる予定ですが、それでも60歳以降の再雇用で賃金が75%未満に低下した場合には活用すべき制度です。
特に、長距離から近距離配送へ移行するなど、業務内容を変更した高齢ドライバーには有効です。
申請には、初回のみハローワークでの手続きが必要ですが、その後は2か月ごとに事業主がオンラインで申請できるため、効率的に運用できます。
また、「育児休業給付金」は子育て中のドライバーに対して、育児休業中の賃金の67%(180日経過後は50%)が支給される制度です。
「介護休業給付金」も同様に、家族の介護のために休業するドライバーには賃金の67%が支給されます。
運送業界は男性比率が高いですが、男性ドライバーの育児休業取得も増えており、これらの制度を活用することで人材確保や職場環境改善につながります。
これらの給付金を適切に活用することで、多様な働き方を支援し、ドライバー不足解消にも貢献できるでしょう。
参考:厚生労働省|令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します
教育訓練給付金の活用とドライバーのスキルアップ支援
運送業界でも技術革新やデジタル化が進み、ドライバーに求められるスキルは高度化しています。雇用保険の「教育訓練給付金」は、こうしたドライバーのスキルアップを支援する有効なツールです。
一般教育訓練給付金では、厚生労働大臣が指定する講座の受講費用の20%(上限10万円)が支給されます。運送業のドライバーにとって有用な講座としては、以下のようなものが挙げられます。
- 大型自動車免許
- けん引免許
- 危険物取扱者資格
- フォークリフト運転技能講習 など
また、物流管理の専門知識を学ぶ講座も対象となっており、将来的に運行管理者やロジスティクスマネージャーを目指すドライバーにも有益です。
さらに高度な教育を受ける場合は、専門実践教育訓練給付金を利用することで、受講費用の50%(上限年間40万円)が支給されます。例えば、物流経営士やロジスティクス管理士などの専門資格の取得を目指すことも可能です。
運送会社としては、これらの給付金制度をドライバーに周知し、キャリアアップのための研修制度と組み合わせることで、人材育成と定着率向上を図ることができます。
特に若手ドライバーの場合、将来のキャリアパスを見据えた教育機会の提供が離職防止に効果的です。
ドライバー不足が深刻な現在、既存のドライバーのスキルアップと多能工化は運送業の重要課題と言えるでしょう。
7.雇用保険の実務でよくある質問と対応策

運送業における雇用保険の実務では、業界特有の疑問や問題が発生することがあります。ここでは代表的な質問とその対応策を解説します。
複数の現場を移動するドライバーの雇用保険の取扱い
-
勤務地が頻繁に変わるドライバーの場合、雇用保険の手続きはどうなりますか?
-
同一事業主の下で単に勤務地が変わるだけなら、新たな雇用保険手続きは不要です。ただし、本社と支社で事業所番号が別々の場合やグループ会社間の転籍では、資格喪失届と取得届の提出が必要です。また、ドライバーの住所変更があった場合は、住所変更届の提出が必要となります。配送拠点が複数の都道府県にまたがる場合も、管轄ハローワークが変わることがありますが、手続きは事業主側で行います。
運送業では、複数の営業所や配送センター間を移動しながら業務を行うドライバーが多く存在します。
こうしたドライバーの雇用保険の取扱いについてよくある質問が、「勤務地が変わるたびに手続きが必要か」というものです。
同一事業主の下で単に勤務地が変わるだけであれば、原則として新たな雇用保険手続きは不要
会社の組織形態によっては注意が必要な場合があります。例えば、本社と支社で事業所番号が別々に取得されている場合や、グループ会社間の転籍がある場合は、雇用保険被保険者資格喪失届と取得届の提出が必要となります。
また、配送拠点が複数の都道府県にまたがる場合、管轄のハローワークが変わることがありますが、この場合も事業主側で適切に手続きを行う必要があります。
なお、長距離トラックドライバーのように宿泊を伴う業務が多い場合でも、雇用契約上の所属営業所が変わらなければ手続き変更は不要です。
ただし、実務上の注意点として、ドライバーの住所変更があった場合は、雇用保険被保険者住所変更届の提出が必要です。異動や転勤が多い運送業界では、これらの手続きを適切に管理するシステムの整備が重要となります。
短時間勤務から正社員への変更時の注意点
-
パートタイムドライバーを正社員に登用する際、雇用保険の手続きで気をつけるべきことは何ですか?
-
パートタイムドライバーの正社員登用時には以下の点に注意が必要です。
- 週20時間以上勤務で既に雇用保険加入者の場合、新たな資格取得手続きは不要
- ただし「被保険者区分」「雇用形態」「労働時間」に変更がある場合は「記載事項変更届」の提出が必要
- 週20時間未満で未加入だった場合は、正社員登用時に「資格取得届」の提出が必要
- 賃金が大幅に上がる場合は給与計算システムの保険料設定変更が必要
- パート期間が短く被保険者期間が6か月未満の場合、登用直後の育児休業給付金の受給に制限がある場合がある
運送業界では近年、人材確保の観点からパートタイムドライバーを正社員に登用するケースが増えています。この際の雇用保険手続きに関する注意点をいくつか紹介します。
週20時間以上勤務のパートタイムドライバーの例
- すでに雇用保険に加入している場合、正社員への雇用形態変更時に新たな資格取得手続きは不要
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書の記載内容(特に「被保険者区分」「雇用形態」「労働時間」)に変更がある場合は、「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書記載事項変更届」を提出する必要がある
週20時間未満のパートタイムドライバーの例
- 雇用保険に未加入だった場合は、正社員登用により週20時間以上となった時点で「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要
特に注意すべきは、短時間勤務から正社員への変更によって賃金が大幅に上がった場合の取扱いです。雇用保険料は変更後の賃金に基づいて計算するため、給与計算システムの設定変更を忘れないようにしましょう。
また、パートタイム勤務の期間が短く、被保険者期間が6か月未満の場合、正社員登用後すぐに育児休業等を取得しても育児休業給付金の対象とならない場合があるため、タイミングには注意が必要です。
人材確保が課題の運送業界では、こうした細かな制度理解も重要です。
雇用保険料の節約と適正化のポイント
-
運送業で法令を遵守しながら雇用保険料を適正化する方法はありますか?
-
運送業での雇用保険料適正化には以下の方法が有効です。
- 賃金に含まれる項目と含まれない項目を正確に区分する(例:実費弁償の宿泊費・日当は賃金に含まれない)
- 臨時的・恩恵的な一時金(創立記念特別賞与など)は賃金に含まれないため、給与規程で明確に位置づける
- 高給ドライバーの場合、月額上限(2024年度は147万円)を超える部分には保険料がかからないことを把握する
- 60~65歳ドライバーには高年齢雇用継続給付金を活用し、人件費の実質的節減を図る
- 電子申請システムで手続きコストを削減する
- 法令違反となる不当な雇用形態変更は避け、適法性を確保した対応を心がける
運送業は利益率が低い傾向にあるため、法令遵守を前提とした上で雇用保険料の適正化は経営上の重要課題です。まず確認すべきは、賃金に含まれる項目と含まれない項目の正確な区分です。
例えば、ドライバーの出張時の宿泊費や日当が実費弁償の性格を持つ場合は賃金に含まれません。これらを適切に区分することで保険料負担を適正化できます。
また、賞与についても、臨時的・恩恵的に支給される一時金(創立記念特別賞与など)は賃金に含まれないため、給与規程での明確な位置づけが重要です。
さらに、雇用保険料の算定基礎となる賃金の上限額(2024年度は月額147万円)を超える高給ドライバーがいる場合、その超過分には保険料がかからない点も把握しておくべきです。
制度面では、高年齢雇用継続給付金の活用も有効です。60〜65歳のドライバーで賃金が60歳時点の75%未満に低下した場合、最大で賃金の15%(2025年4月からは10%)が給付されるため、人件費の実質的な節減につながります。
また、電子申請システムの活用で手続きコストを削減することも可能です。ただし、保険料削減を目的に雇用形態を不当に変更することは法令違反となる可能性があるため、常に適法性を確保した上での対応が必要です。
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8.運送業における雇用保険管理のポイント

運送業特有の雇用形態や勤務条件を踏まえた雇用保険管理は、企業の持続的成長とドライバーの雇用安定に不可欠です。これまでの重要ポイントをまとめ、今後の展望を考察します。
運送業の雇用保険管理チェックリスト
運送業における雇用保険の適切な管理のために、以下のチェックリストを活用しましょう。
●加入要件の確認
- 週20時間以上勤務のドライバーを全員加入させているか
- 短期・季節労働者の適用区分は正しいか
- 65歳以上の高齢ドライバーも適切に加入させているか
●保険料計算の精度
- 最新の雇用保険料率を適用しているか
- ドライバー特有の手当(走行距離手当、深夜勤務手当など)を適切に賃金に算入しているか
- 賞与からの保険料控除は正確か
●手続き
- ドライバー採用時の資格取得届の提出漏れはないか
- 離職時の手続きは期限内に行われているか
- 年度更新は適正に実施しているか
●給付金活用
- 育児・介護休業給付金の仕組みをドライバーに周知しているか
- 高年齢雇用継続給付金を活用しているか
- 教育訓練給付金の対象講座をドライバーに案内しているか
●コンプライアンス面
- 雇用保険関連の書類は法定保存期間(3年間)保管しているか
- 労働保険料の納付は期限内に行われているか
- 雇用保険に関する最新情報を定期的に収集しているか
このチェックリストを定期的に活用することで、コンプライアンスリスクを低減し、制度を最大限に活用することができます。
2025年以降の動向と今後の対策
2025年以降の雇用保険制度は、少子高齢化や働き方の多様化を背景に、さらなる変化が予想されます。運送業界としては以下の動向に注目し、適切な対策を講じることが重要です。
まず、保険料率については2025年度に1.45%への引き下げが予定されていますが、景気動向や雇用情勢によっては再び変動する可能性があります。
料率改定の情報を常に把握し、給与計算システムを迅速に更新できる体制を整えておきましょう。
また、高年齢雇用継続給付金の給付率が2025年4月から10%に縮小される点も重要です。高齢ドライバーの処遇改善や働き方の見直しを早めに検討することが求められます。
さらに、雇用保険手続きの電子申請義務化が段階的に進む見込みであるため、デジタル対応を強化することも必要です。
加えて、マルチジョブホルダー(複数の事業所で働く労働者)向けの雇用保険適用拡大も検討されており、副業・兼業のドライバーの増加を見据えた対応が必要になるでしょう。
人材確保が困難な運送業界では、教育訓練給付制度を活用したドライバーの育成や、育児・介護休業給付金を利用した多様な働き方の促進も重要な戦略となります。
これらの制度変更を先取りして対応することで、ドライバー不足が深刻化する中での競争優位性を確保できるでしょう。
9.運送業の雇用保険管理術
運送業界において雇用保険の適切な管理は、コンプライアンス確保だけでなく、人材確保・定着の重要な鍵となります。
2025年度の料率引き下げや各種制度改正を正確に把握し、ドライバーの雇用形態に合わせた適切な加入手続き、正確な保険料計算、そして各種給付金の積極的な活用が重要です。
特に高齢ドライバーの増加や働き方の多様化が進む中、雇用継続給付金や教育訓練給付金などの制度を活用することで、ドライバーのキャリア支援と企業の持続的成長を両立させることができます。
デジタル化の流れに対応した電子申請の活用も含め、本記事の知識を実務に活かし、運送業におけるドライバー雇用の安定と発展に役立てていただければ幸いです。