ドライバーの福利厚生には、法律で義務付けられている「法定福利厚生」と企業が独自に提供する「法定外福利厚生」があります。
充実した福利厚生は、ドライバーの働きやすさと満足度を高めるために重要です。
本記事では、ドライバーの福利厚生について詳しく解説します。
- ドライバーに適用される法定福利厚生の内容
- 企業が独自に提供する法定外福利厚生の具体例
- ドライバーの福利厚生が充実している理由
1.ドライバーの福利厚生
一般的に福利厚生は、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」に大別できます。
法定福利厚生とは、法律ですべての企業に義務付けられている福利厚生です。そのため、運送会社やタクシー会社に雇用されているドライバーにも適用されます。
法定外福利厚生は、企業が任意に提供するものです。福利厚生の充実度や独自性が問われる際は、基本的に法定外福利厚生が問題になります。
トラック・タクシードライバーに共通する法定福利厚生
法定福利厚生は、一般的な労働者と同様にトラックドライバーやタクシードライバーにも提供されます。法定福利厚生に含まれる具体的な内容は以下のとおりです。
雇用保険(失業保険)
雇用保険とは、労働者が失業したり、育児のために休業したりした際に生活を支援するための手当や給付金が支給される制度です。
1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる場合に加入が義務付けられています。
雇用保険料は、ドライバー自身と企業の双方が負担しますが、負担割合は企業が多くなっています。企業側の負担が福利厚生として位置付けられます。
健康保険
健康保険とは、病気やケガをした際に備えるための医療保険制度です。治療費の一部(通常3割)を自己負担することで、必要な医療を受けることができます。
現役世代の医療保険には大きく分けて国民健康保険と健康保険の2種類があります。運送会社やタクシー会社に雇用されているドライバーが加入するのは後者です。
保険料を全額自己負担する国民健康保険とは異なり、健康保険料はドライバーと企業が折半して負担します。企業側の保険料負担が福利厚生にあたります。
介護保険
介護保険は、40歳以上の人が加入する保険で、介護が必要になった際に介護サービスを低負担で受けられる制度です。介護保険料も健康保険と同様に、法定福利厚生として企業が半額を支払います。
労災保険
労災保険は、労働者が業務中にケガをしたり、通勤中に事故に遭ったりした際に、医療費や給付金が支給される保険です。
この保険料は全額企業が負担し、労働者側には一切の負担がありません。交通事故などのリスクが排除しきれないドライバーにとって、労災保険は万一の備えとして大いに役立ちます。
厚生年金保険
厚生年金保険は、老後に受け取る老齢年金や、障害が発生した際に給付される障害年金を提供する制度です。
厚生年金の加入者は、国民年金と厚生年金の両方を受け取れるので、老後の生活資金などを確保するために非常に役立ちます。
保険料は労働者と企業が折半して支払い、企業の負担分が福利厚生の一環となります。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、児童手当などの財源として企業が負担するお金です。
従業員の負担はありません。従業員に子どもがいるかどうかにかかわらず、企業は支払い義務を負います。この制度は、社会全体で子育てを支える仕組みの一部です。
2.ドライバーの法定外福利厚生の例
続いては、企業が独自に提供する法定外福利厚生の例を紹介します。
法定外福利厚生は、従業員の生活や働きやすさを向上させるための施策の一環です。法定外福利厚生の内容は、人材を訴求するための材料にもなります。
以下で紹介するのは、ドライバーはもちろん、その他の業界・職種においても一般的な福利厚生の例です。
住宅手当
住宅手当は、従業員の住居費を補助する制度で、家賃や住宅ローンの一部を企業が負担します。企業によっては、寮や社宅を提供したり、引っ越し代を援助したりするケースもあります。
住居費は毎月の生活費の中でも特に出費が大きい固定費です。とりわけ家族と一緒に暮らしていると、それなりの広さの家に住む必要があるので、その分住居費の負担も大きくなります。
住居費の高い都市部で生活している場合はなおさらです。そのため、住宅手当を出すことは、従業員の生活基盤を安定させるために大いに有効であり、従業員満足度を高める効果が期待できます。
通勤手当
通勤手当は、通勤のために要する交通費の全額または一部を補助する福利厚生です。
法定外福利厚生の中でも、非常に一般的なものとして挙げられます。特に都心部に勤めている場合は、家賃などの関係で職場の近くに住めず、遠くから通勤している方も少なくありません。
通勤手当を出すことは、そうした遠距離通勤をしている従業員にとって特に助けになることです。通勤手当の金額や支給条件は企業によって異なりますが、基本的には従業員が自宅-事業所間を最も合理的なルートで移動すると仮定して補助すべき交通費を算出します。
企業によっては、電車やバスなどの公共交通機関を利用した通勤だけでなく、マイカー通勤も手当の対象にしている場合もあります。
家族手当
家族手当は、扶養する家族がいる従業員に支給する手当です。
基本的に配偶者や子どもと暮らすための生活費や養育費をサポートするために設けられているので、家族の人数や構成に応じて金額が異なります。
当然ですが、家族が増えると必要な生活費も増えるので、収入がそのままだと従業員の生活が圧迫されやすくなります。
結婚や子育てなどのライフステージの変化にあわせて転職を考える人がいるのも、そうした経済面の事情が一因としてあるはずです。
そのため、家族手当を支給することは、扶養する家族のいる従業員の生活を安定させて従業員満足度を高め、自社につなぎとめるために役立ちます。
健康医療関連
健康医療関連の福利厚生の代表例は、健康診断の費用補助や人間ドックの受診費用支援などです。
また、企業によっては、メンタルヘルスケアのサポートやフィットネス施設の利用補助など、総合的な健康管理を支援する制度を設けている場合もあります。
ドライバーが安全運転をするためには、心身の健康をしっかり維持していることが欠かせません。
その意味では、こうした健康医療関連の福利厚生は、業務品質にも関わるものです。昨今では、経営戦略的な観点から従業員の健康増進を目指す「健康経営」という取り組みが注目を集めています。
慶弔関連
慶弔関連の福利厚生は、ドライバーやその家族に慶事や弔事が発生した際に、企業から祝い金や見舞金が支給される制度です。あるいは、通常の有給休暇とは別に、慶弔用の休暇枠を設けることも含まれます。
慶事・弔事の具体例は、結婚や出産、家族の不幸、傷病や災害に見舞われるなどです。
こうした重要なライフイベントに何らかのサポートを届けることで、企業として従業員の人生に寄り添う姿勢を強く押し出せます。これにより、従業員との信頼関係を深めることが可能です。
免許や資格取得の支援
免許や資格の取得支援を福利厚生として提供するケースも多数です。支援の内容としては、試験勉強や受験のために必要な費用の補助などが挙げられます。
タクシー運転手であれば第二種運転免許、トラックドライバーなら大型免許やフォークリフト免許というように、業務と関係する免許・資格の取得を支援するのが一般的です。
ドライバーがこうした免許・資格を取得してスキルアップすることは、企業側にとっても大きなメリットがあります。そのため、免許や資格の取得を支援することは、ドライバー個人と企業双方の成長にとって重要です。
3.タクシー会社の法定外福利厚生
上記で紹介したのは運輸・運送業以外でも多く見受けられる例ですが、タクシー会社ならではの福利厚生もあります。
以下の例にみられるように、従業員満足度を上げるためには、自社や業界特有の事情を考慮して福利厚生の内容を検討することが大切です。
第二種免許取得の支援
タクシードライバーとして働くためには、通常の運転免許に加え、第二種運転免許が必要です。
この免許取得のために教習所に通った場合には一般的に20万円超の費用がかかりますが、タクシー会社によってはこの費用を全額負担する支援制度を設けています。
また、免許取得のための教習費用や試験費用だけでなく、合格に向けたサポートを提供していることもあります。こうした支援制度は、業界初心者を自社に呼び寄せるために有効です。
入社祝い金・転職支援金制度
タクシー会社によっては、入社時に入社祝い金や転職支援金をドライバーに支給する場合もあります。就職・転職の直後は、何かと物入りで経済的に余裕がない場合も多いはずです。
また、タクシードライバーは歩合制のことが多いので、乗務に不慣れなうちは思うように稼げないことも少なくありません。
そのため、入社時にこうした臨時ボーナスを支給することは、入社直後のドライバーの経済的な不安を緩和するために役立ちます。
ただし、企業によっては、すぐに離職してしまうリスクも考え、入社から数か月~半年程度経過してから祝い金を支給する場合もあります。
4.運送会社のユニークな福利厚生を紹介!
運送会社によっては、目を引くような面白い福利厚生を提供しているところもあります。
以下では、特に注目すべきユニークな福利厚生をいくつか紹介します。
親孝行手当
ある運送会社では、従業員が親への感謝の気持ちを形にできるように親孝行手当を支給しています。これは介護支援とは別種のものなので、健康な親御さんも手当の対象です。
先述のように、法定外福利厚生として家族手当を支給している企業は一定数存在しますが、そこでは主に配偶者や子どもが想定されています。
その点、「親」という存在にフォーカスしたこの福利厚生は、非常に斬新なものです。
「従業員に親孝行をしてほしい」という経営者の温かな人柄がうかがえるのも企業に対して好ましい印象を与えます。
禁煙手当・禁煙成功報奨金
禁煙を目指す従業員に対して禁煙手当や禁煙成功報奨金を支給する企業も存在します。
喫煙がさまざまな健康被害をもたらすことは周知のとおりです。そのため、禁煙を促進することは、従業員の健康を守り、健康経営を推進するために役立ちます。
企業として「禁煙してほしい」というメッセージを明確に示し、禁煙のご褒美も提供することで、愛煙家も禁煙に取り組むことが期待できます。
惣菜の支給
ある運送会社は、福利厚生の一環として、手軽に食べられる惣菜を従業員に提供しています。ある事業所では、惣菜が冷蔵庫に常備されており、従業員はいつでもそれを取り出し、温めて食べることが可能です。
ドライバーは忙しく、食生活がおざなりになっている方も珍しくありません。しかし、ドライバーの業務は体力勝負でもあります。
栄養バランスの良い食事を手軽に摂取できる環境を整えることは、ドライバーの事情を的確に把握した戦略です。
田植え休暇
ある運送会社は田植え休暇を福利厚生として提供しています。というのも、その運送会社が所在する地方では、実家が田植えをする際に家族が手伝う風習があるためです。
その運用会社でも、田植えの時期になると多くの従業員が田植えを手伝うために休暇を取っていたので、気兼ねなく休めるように田植え休暇を特別に設けた形です。
この例にみられるように、従業員が働きやすい環境づくりに精力的に取り組むことで、高い定着率を確保することが期待できます。
研修期間中の給与保証
運送会社によっては、ドライバーとしての研修期間中に一定額の給与を保証する制度を設けていることがあります。
歩合制で働くドライバーの場合は、入社直後は思うように稼げないことも多いので、それが理由で入社に踏み切れなかったり早期離職してしまったりするリスクがあります。
その点、こうした給与保証を設けることで、研修期間中でも安定した収入を得ることができ、安心してスキルを磨くことが可能です。未経験者の採用および定着を図るうえで、こうした支援は非常に役立ちます。
社員寮や社宅の借り上げ
社員寮や社宅の借り上げを行い、格安で従業員に部屋を提供する運送会社も存在します。
先述のように、住居費は一般的に生活費を大きく圧迫する支出です。そのため、企業が借り上げたマンションやアパートを低額で提供してくれれば、従業員は安心して住む場所を確保できます。
地方から都市部に出てきて就職することを考えている求職者にリーチするうえでも、社員寮や社宅を提供できるという福利厚生は非常に魅力的なものです。
社員食堂
運送会社によっては、栄養バランスの取れた食事を安価に提供する社員食堂を設けている場合もあります。不規則な勤務が多いドライバーにとって、健康的な食事を手軽に摂取できる場は非常に貴重です。
また、社員食堂は、従業員同士のコミュニケーションの場として活用できるというメリットもあります。
食事は生活の基本であるため、そこに配慮することは、健康増進はもちろん、職場への満足度を高める効果が期待できます。
5.ドライバーの福利厚生が充実している理由
ここまで紹介してきたように、タクシー会社や運送会社の中には、ドライバーの福利厚生に積極的なところが多数あります。
その理由としては、企業として以下のような狙いがあるためです。
人材不足の解消を目指す
運輸・運送業界では、労働時間の長さや仕事の厳しさからくるドライバー不足が深刻な問題となっています。
長距離運転や夜間勤務が求められることも多く、肉体的・精神的な負担が大きいため、業界未経験者は及び腰になりがちです。
そこで、求職者を訴求するための戦略の一環として、福利厚生を充実してドライバーの働きやすさを向上させ、自社の魅力強化に取り組む企業が増えています。
ドライバーを長期雇用するため
人手不足を解消するには、新規の人材を集めるだけでなく、既存のドライバーを定着させることも大切です。
近年では働き方改革による労働時間の規制強化により、従来のように長時間働いて高収入を得ることが難しくなっています。
そのため、給与面だけでなく、生活支援や健康管理などの福利厚生を充実させることで、ドライバーが長期的に安定して働ける環境を提供しようとする企業が増えつつある状況です。
6.福利厚生を充実させてドライバー採用に繋げよう
ドライバーの福利厚生は、法定のものだけでなく、企業独自の工夫を凝らした法定外のものも充実しています。
人材不足の解消とドライバーの長期雇用を目指す企業が増える中、福利厚生はますます重要になっています。
ドライバー採用のためには、自社や業界の特性を踏まえた魅力的な福利厚生の提供が求められます。