社員の知人・友人を紹介してもらう「リファラル採用」は、導入企業が約50%に上るほど一般的な手法です。しかし「紹介報酬はいくらが適正なのか」「社員の手取り額や税務処理はどう扱うべきか」といった悩みに直面する人事担当者も少なくありません。
これらの疑問を曖昧にしたまま運用を始めると、法的トラブルにつながったり、税務上の不利益を社員に与える可能性があるため、注意が必要です。
本記事では、300社以上のデータによる適正相場をはじめ、職業安定法に抵触しない規定づくりのポイントや、実務で欠かせない「手取り額シミュレーション」まで、制度設計に必要な要点を網羅的に解説します。
出典:マイナビ中途採用実態調査
- 一般職3万〜10万円、専門職10万〜30万円が相場。エージェント費用の6分の1で採用可能
- 報酬は賃金扱いで就業規則に記載必須。SNS勧誘は違法リスクあり
- 給額の約20%が税金等で控除。社外払いは源泉徴収とマイナンバー収集が必要
1.【職種別】リファラル採用報酬(紹介料)の相場データ

報酬(インセンティブ)は、金額が低すぎれば社員のモチベーションにつながらず、高すぎればコスト増だけでなく、モラルリスクを招く可能性があります。ここでは職種別の適正相場を解説します。
全体的な相場トレンドは「3万円~10万円」
一般的な中途採用におけるリファラル報酬の相場は、一人あたり3万円から10万円がボリュームゾーンです。新卒採用やアルバイト採用の場合は、1万円から3万円程度で設定されるケースが多く見られます。
この金額帯は、紹介という行動そのものへの対価というよりも、紹介してくれたことへの「感謝のしるし」を示す水準といえます。

社員が紹介した友人と食事に行き、ご馳走できる程度の金額設定が、心理的にも負担が少なく、バランスの良い設定とされています。
エンジニアや専門職は高騰傾向(10万円~30万円)
全体平均に対し、採用難易度が高い職種では報酬額も高騰する傾向にあります。特にITエンジニア、医療従事者、薬剤師といった専門職の場合、10万円から30万円、場合によってはそれ以上の報酬が設定されることもあります。
エージェント費用と比較した場合|圧倒的なコストメリット
リファラル報酬を「高い」と感じる場合は、外部エージェントを利用した場合のコストと比較検証することが重要です。
≪年収500万円の人材を採用する場合≫
※一般的な人材紹介エージェントの手数料相場「理論年収の約35%」
500万×0.35=175万円
▼エージェントに支払う紹介手数料 175万円
一方、リファラル報酬を相場より高い30万円に設定したとしても、コストは約6分の1以下に抑えられます。この圧倒的なコストパフォーマンスこそが、リファラル採用が経営戦略として重視される理由です。
▼あわせて読みたい
こちらの記事では、リファラル採用について、運用方法から導入ステップ、定着率向上の施策、さらにはドライバー採用における活用事例まで、詳しく解説しています。
2.リファラル採用を成功させる制度設計|報酬額と支給ルール

相場はあくまで参考値にすぎません。リファラル採用導入を成功させるには、自社の採用課題に応じた報酬額を戦略的に設計し、適切な支給ルールを整えることが大切です。
「難易度」と「緊急度」で金額にメリハリを
まずは、報酬額の設定方法について見ていきましょう。すべての求人に同じ金額を設定する必要はありません。「採用難易度」と「緊急度」に応じて金額に差をつける設計が有効です。
■ 報酬額の設定例
| 一般事務職 (常時募集・応募多数) | 30,000円 |
| エンジニア職 (採用難・希少人材) | 150,000円 |
また、「今月中にどうしても採用したい」という緊急時には、期間限定の「紹介キャンペーン」として報酬を一時的に増額する施策も効果的です。これにより、社員に対して「今、会社がどの人材を求めているか」というメッセージを明確に伝えることができます。
■採用難易度の高いドライバー人材も、専門エージェントなら効率的に確保
リファラル採用と並行して、ドライバー採用では専門の転職エージェントの活用も効果的です。カラフルエージェントは、ドライバー採用に特化した人材紹介サービスとして、有資格者を中心に質の高い人材をスピーディーにご紹介します。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
定着リスクを抑える「分割払い」の設計
報酬を支払うタイミングも重要です。採用決定時に全額を支払うと、早期退職が発生した場合にコストが無駄になるリスクがあります。
そのため、多くの企業では「入社時」と「定着時(試用期間終了後など)」の2回に分けて支払う方法や、入社半年後に一括支給する方法を採用しています。

「分割払い」や「定着後払い」は、紹介した社員が友人の入社後のフォローや定着を気にかける動機付けとしても機能します。
【注意】高額すぎる報酬が招くモラル低下
行動経済学の観点からは、金銭的な報酬が高額になりすぎると、本来あった「良い会社だから友人に勧めたい」という社会規範的な動機が、「お金のために紹介する」という市場規範的な動機にかわってしまう現象が起きるとされています。
結果として、社風に合わない人でも無理やり紹介しようとするケースや、紹介がお金稼ぎの手段と捉えられ職場のモラルが低下するリスクが生じます。
▼あわせて読みたい
リファラル採用においても、「自社に合う人材」を紹介してもらう仕組みづくりが不可欠です。こちらの記事では、採用ミスマッチの7つの原因と具体的な対策方法、さらには適性検査やリファレンスチェックなど実践的な防止策を網羅的に解説しています。
3.違法リスクを回避!職業安定法と就業規則のポイント

適切な法的知識を持たずにリファラル採用を運用すると、「職業安定法」に抵触するリスクがあります。ここでは適法と違法を分ける境界線について解説します。
【職業安定法第40条】「賃金」としての例外規定
職業安定法第40条では、原則として労働者の募集に関して報酬を与えることを禁止しています。
職業安定法第40条とは
国の許可なく、人材紹介業をしてはいけないという法律。報酬を得て人を斡旋する場合は、【有料職業紹介事業】として国の「許可」が必要となる。
しかし、同法施行規則において「賃金、給料その他これらに準ずるもの」として支払う場合は例外的に認められています。
つまり、リファラル採用の報酬は、「紹介手数料」としてではなく社員に対する「賞与」や「手当」といった賃金の一部として支払う必要があるのです。

報酬の名称も「リファラル賞与」「社員紹介手当」など、社内規定に沿った名称とすることが望ましいです。
参照:e-Gov法令検索「職業安定法」
【NG事例】SNSでの不特定多数への勧誘
賃金として処理すれば無条件に許されるわけではありません。特に注意が必要なのが、「業(なりわい)として行っている」とみなされるケースです。
社員がリファラル報酬を目当てに、面識のない不特定多数の人へSNS等で勧誘を繰り返す行為は、「反復継続性」があると判断され、無許可の有料職業紹介事業とみなされるリスクがあります。
コンプライアンス遵守のためにも、以下のような条項を明確に定めておきましょう。
- 被紹介者は、社員の個人的な知人・友人に限る
- SNS等で面識のない不特定多数への勧誘を禁止する
就業規則(賃金規程)への記載義務と届出
リファラル報酬を「賃金」として支払う以上、労働基準法第89条に基づき、就業規則への記載が義務付けられます。具体的には、以下の項目を明記してください。
- 支給要件:どのような場合に支給するか
- 金額の決定方法:いくら支払うか
- 支払時期:いつ支払うか
就業規則を変更・改定した際は、所轄の労働基準監督署への届出を行う必要があります。ここまで手続きを完了させて初めて、法的に安全な運用が可能となります。
▼あわせて読みたい
リファラル採用の報酬を賃金として適切に処理するには、就業規則の正確な理解が不可欠です。こちらの記事では、必須記載事項や作成手順、さらには労働基準監督署への届出手続きまで、わかりやすく解説しています。
【テンプレート】そのまま使える規定条文例
法的リスクを回避するため、就業規則に記載するべき標準的な条文例を紹介します。
第〇条(リファラル採用手当)
- 会社は、従業員の紹介により応募した者が入社し、所定の試用期間を満了した場合、紹介した従業員に対して「リファラル採用手当」を支給する。
- 手当の支給額は、採用された者の職種・等級に応じ、別途定める「紹介手当一覧表」に基づき決定する。
- 本手当は、支給要件を満たした日の属する月の給与(または賞与)と合わせて支給する。なお、本手当は賃金とみなされ、所得税および社会保険料の控除対象となる。
- 【禁止事項】従業員は、紹介を行うにあたり、以下の行為を行ってはならない。
① 営利を目的として、反復継続的に紹介を行うこと
② SNSやインターネット掲示板等を用い、面識のない不特定多数の者に対して勧誘を行うこと
③ 採用選考における不当な便宜を図ること - 紹介した従業員または被紹介者が、支給日時点で退職している(または解雇事由に該当している)場合は、本手当を支給しない。
特に第4項の「禁止事項」は、職業安定法違反(無許可での職業紹介事業)とみなされないための重要な防衛線となります。必ず規定に盛り込むようにしてください 。
4.人事と社員が気になる「手取り」と「税金」【早見表あり】

「リファラル採用の報酬額:10万円支給」と伝えていても、実際にはそこから税金が引かれます。社員の期待値を調整しトラブルを防ぐために、手取り額の仕組みを理解しておく必要があります。
社員への支払いは「給与所得」として課税される
リファラル報酬は「賃金」として処理されるため、税務上は「給与所得」に該当します。したがって、毎月の給与や賞与と同様に、所得税と社会保険料の控除対象となります。
■ドライバー採用の課題解決は、専門エージェントにお任せ
ドライバー採用では専門の転職エージェントの活用も効果的です。カラフルエージェントは、登録者の91%以上が有資格者という質の高い人材プールから、貴社のニーズに合ったドライバーをスピーディーにご紹介します。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
【図解】手取り額シミュレーション早見表
実際に社員の手元に残る金額はいくらになるのでしょうか。所得税率は年収や扶養家族によって異なりますが、一般的な目安として、総支給額から約20%(所得税+社会保険料)が控除されると仮定した概算シミュレーションは以下の通りです。
| 会社からの支給額(額面) | 社員の手取り額(目安) | 控除される額(税金・保険料) |
|---|---|---|
| 10,000円 | 約 8,000円 | 約 2,000円 |
| 30,000円 | 約 24,000円 | 約 6,000円 |
| 50,000円 | 約 40,000円 | 約 10,000円 |
| 100,000円 | 約 80,000円 | 約 20,000円 |
| 300,000円 | 約 240,000円 | 約 60,000円 |
※上記の金額はあくまで概算であり、扶養親族の数や前年の所得等により変動します。
このように、額面通りには受け取れないことを制度説明時に社員へ周知しておくことが重要です。
社外への支払いは「源泉徴収」と「マイナンバー」に注意
近年増加している「アルムナイ(退職者)」や「社外ファン」からの紹介の場合、雇用関係がないため「給与」としては支払えません。一般的には「雑所得」または「支払手数料」として処理します。
注意点として、会社に以下の業務が発生するため、社内紹介に比べて事務手続きが煩雑になります。
- 個人への支払いが一定額を超える場合や報酬の性質によっては、会社側に源泉徴収義務が発生する
- 相手のマイナンバーを収集して「支払調書」を作成する義務が生じる
社外への支払いを検討する場合は、事前に税理士へ相談し、運用フローを確立することが推奨されます。
▼あわせて読みたい
退職者からの紹介を受け入れるアルムナイ採用は、企業文化を理解した即戦力人材を確保できる注目の手法です。リファラル採用の対象を現役社員だけでなく退職者にまで広げることで、人材プールを大幅に拡大できます。
5.報酬だけに頼らない「紹介したくなる」仕掛け

金銭以外の「仕掛け」を組み合わせることで、紹介のハードルを下げ、リファラル採用を文化として定着させることが可能です。
会食費補助(交際費)を活用してハードルを下げる
いきなり「応募してほしい」と友人に頼むのは心理的ハードルが高いものです。そこで、「まずはカジュアルに食事でもどう?」と誘いやすくするために、会食費の一部を会社が負担する制度が有効です。
これは成功報酬とは異なり、プロセスの初期段階を支援するものです。社員にとっては、金銭をもらうよりも「会社の経費で友人と食事ができる」ほうが利用しやすいというメリットがあります。

税務上も、一定の範囲内であれば「交際費」や「福利厚生費」として処理できる可能性があります。
■質の高いドライバー候補者との出会いを、専門エージェントが支援
リファラル採用と並行して専門エージェントを活用することで、採用チャネルを多様化できます。カラフルエージェントは面接調整や条件交渉を代行し、貴社の採用活動をスムーズに進めるサポートを提供します。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
金銭以上の価値を生む「表彰」と「フィードバック」
紹介した友人が入社した後、「紹介してくれてありがとう」と会社から感謝を伝えられることは、社員にとって金銭以上に価値ある体験となります。
全社総会で表彰を行ったり、人事担当者から個別に感謝のメッセージを送ったりすることで、社員の承認欲求が満たされ、次の紹介へのモチベーションにつながります。金銭のやり取りだけでなく、感謝と承認のサイクルを回すことが、リファラル採用を活性化させる本質的な要素です。
▼あわせて読みたい
金銭的な報酬だけでなく、表彰や感謝の言葉といった非金銭的な承認が、社員のエンゲージメントを高め、リファラル採用を促します。こちらの記事では、具体的なモチベーション向上施策として、目標設定の方法、評価制度の見直し、職場環境の改善など詳しく紹介しています。
6.リファラル採用報酬に関するよくある質問(Q&A)

リファラル採用を制度設計する際、担当者からよく挙がる質問について解説します。
Q.不採用の場合でも報酬を払うべきですか?
A.採用が決定した場合のみ支払うのが一般的です。
一般的には、入社が決まった場合にのみ支払う「成果報酬型」が推奨されます。不採用の場合にも支払う規定にすると、コストが増大するだけでなく、質の低い紹介が乱立するリスクがあるためです。
Q.Amazonギフト券や旅行券なら非課税になりますか?
A.いいえ、非課税にはなりません。
現金ではなく商品券やギフト券で支給した場合でも、税務上は「現物給与」とみなされ、課税対象となります。源泉徴収の対象となるため、現金支給と同様の税務処理が必要であることを理解しておく必要があります。
Q.早期退職時に返金させることはできますか?
A.一度支払った報酬を返金させることは、非常に困難です。
一度賃金として支払った報酬を返金させることは、労働基準法の「賠償予定の禁止」や「全額払いの原則」に抵触するリスクが高く、非常に困難です。
■早期離職を防ぐには、採用後のフォロー体制が重要
入社後のフォロー体制を整えることで早期離職を根本的に防ぐことができます。カラフルエージェントは、入社後も求職者と定期的にコンタクトを取り、職場定着をサポートします。離職防止のアフターフォローにより、採用投資を無駄にしない仕組みを提供しています。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
7.リファラル採用を成功に導く「信頼の報酬設計」ガイド
リファラル採用の報酬設計は、単なる金額設定にとどまりません。社員の協力をどのように尊重し、適切かつ安全に報いるかという「信頼の設計」といえます。
コンプライアンスを守り、納得感のある仕組みを構築することは、人事担当者にとって負荷の大きい業務かもしれません。しかし、こうした誠実な設計こそが社員とのエンゲージメントを高め、企業の採用力を持続的に強化する基盤となります。
より良い組織づくりに向けて、着実に制度設計を進めていきましょう。