通勤手当は毎月の給与計算で必ず確認する項目です。しかし近年、法改正や働き方の多様化により、従来の制度設計では対応しきれない場面も増えています。
「所得税は非課税なのに、なぜ社会保険料はかかるの?」「テレワーク導入で定期代支給が不合理になっていない?」といった疑問を抱える人事担当者も多いでしょう。
本記事では、通勤手当の基本的な仕組みから税務・社会保険上の取り扱い、テレワーク時代に対応した制度設計のポイントまで、人事担当者が押さえておくべき知識を網羅的に解説します。
- 通勤手当が税法と社会保険で扱いが異なる理由
- 公共交通機関・マイカー・複数手段併用など、ケース別の正確な計算方法
- テレワーク時代に適した実費精算方式や就業規則の整備ポイント
1.通勤手当とは?交通費との違いと法律上の支給義務

通勤手当は「交通費と何が違うのか」「支給しないと違法になるのか」といった疑問が生じやすい手当です。まずは、人事担当者として押さえておきたい基礎知識を解説します。
通勤手当の基本的な定義と目的
通勤手当とは、従業員が自宅から勤務先へ通勤する際に発生する交通費を補助する目的で支給される手当です。通勤に伴う経済的負担を軽減し、安心して就労を継続できる環境を整える役割があります。

支給方法には、定期券代の実費支給や、通勤距離に応じた定額支給などがあり、運用は企業ごとに異なります。
「通勤手当」と「交通費」の明確な違い
通勤手当とよく似た言葉に「交通費」があります。名称は似ていますが、支給目的や会計上の区分が異なるため、取り扱いを混同しないよう注意しましょう。
| 通勤手当 | 自宅と勤務先間の「通勤のための費用」として支給され、給与の一部として扱われる |
| 交通費 | 「業務上の移動に伴い発生した費用」を精算するもので、経費として処理 |
労働基準法上の位置づけと支給義務の有無
労働基準法上、通勤手当の支給は企業の義務ではありません。そのため、支給の有無や対象範囲、上限額などは、企業ごとに就業規則や給与規程で定める必要があります。
ただし、支給しているにもかかわらず定義が曖昧であったり、支給基準が統一されていなかったりする場合には、不公平感が生まれやすく、労務トラブルの原因となることがあります。
▼あわせて読みたい
就業規則は、通勤手当をはじめとする各種手当や労働条件を明文化する重要な規程です。こちらの記事では、2024年の法改正にも対応した就業規則の作成方法について、必須記載事項から届出手続きまで、実務に即した内容を詳しく解説しています。
2.通勤手当の所得税非課税限度額

通勤手当には、一定額までは所得税の課税対象としなくてよい「非課税枠」が設けられています。ここでは、交通手段ごとの非課税限度額と、実務で迷いやすいポイントを整理します。
【電車・バスなど】公共交通機関を利用する場合の上限額
電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合は、「最も経済的かつ合理的な経路・方法で通勤した場合の運賃相当額」が非課税対象となります。非課税限度額は月15万円であり、これを超えて支給した場合、超過分は課税対象です。
【マイカー・自転車など】距離に応じた限度額
自動車や自転車といったマイカー通勤の場合は、公共交通機関とは異なり、通勤距離に応じて非課税となる金額が段階的に定められています。距離が長くなるほど非課税限度額も高く設定される仕組みです。具体的な基準は以下のとおりです。
- 片道2km以上~10km未満:4,200円まで非課税
- 片道10km以上~15km未満:7,100円まで非課税
- 片道15km以上:上限額はさらに増加
マイカー通勤はガソリン代や駐車場代の扱いが関係するため、経路や距離の確認方法、申請書の提出ルールなどを明確にしておく必要があります。
参照元:国税庁|No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
【新幹線や有料道路】遠距離通勤の注意点
遠距離通勤や特殊な勤務形態では、新幹線や高速道路を利用するケースがあります。これらは、通常必要な通勤手段として合理的と認められる場合に限り、非課税の通勤手当として扱われます。
■待遇を整えてドライバー採用を成功させたい企業様へ
通勤手当などの福利厚生を整備することは、優秀なドライバーを採用する上で重要な要素です。カラフルエージェントは、運送業・タクシー業界に特化したドライバー専門の人材紹介サービスです。登録者の91%以上が有資格者で即戦力となる人材を多数登録しており、貴社のニーズに合ったドライバーを即日ご紹介可能です。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
3.最大の疑問!通勤手当が社会保険料の対象になる理由

通勤手当は税法上、一定額までは非課税である一方、社会保険では報酬として扱われます。一見矛盾する取り扱いは、税制と社会保険制度の「考え方」の違いによるものです。
所得税で「非課税」となる根拠とは
税法上、通勤手当は「通勤という業務上必要な移動に伴う費用の補填」と位置づけられています。そのため、一般的な通勤に通常必要と認められる範囲については、給与として支給されていても非課税扱いとされます。

税制では「通勤に必要な費用であり、生活のための自由に使えるお金ではない」という考え方に基づき、非課税が認められているということです。
社会保険で「報酬」と見なされる根拠とは
社会保険制度では、労働の対価として受け取るものを「報酬」と捉え、その金額が将来の年金や各種手当といった給付水準にも反映されます。通勤手当は多くの企業で継続的に支給され、従業員の生活費にも充てられる性質があるため、賃金と同様に報酬へ算入するのが原則です。
| 税法 | 実費性に着目して非課税枠が認められる |
| 社会保険制度 | 将来給付との連動性を重視して算入対象とする |
標準報酬月額に含まれることによる影響
通勤手当を含めた月額報酬によって「標準報酬月額」の等級が決まり、健康保険・厚生年金・介護保険(該当者)の保険料額が算定されます。等級が上がると、当面の手取りは減る一方で、将来の年金額や傷病手当金・出産手当金などの給付水準が高くなる仕組みです。
■例えば:基本給30万円の従業員に通勤手当2万円を支給する場合
⇒標準報酬月額は「30万円帯→32万円帯」と1等級上がる可能性がある
▼あわせて読みたい
社会保険料の管理は、通勤手当を含む報酬の正確な把握が基本となります。こちらの記事では、標準報酬月額の決定から保険料の計算方法、算定基礎届や月額変更届などの実務手続きまで、人事担当者が押さえておくべきポイントを網羅的に解説しています。
4.【ケース別】通勤手当の具体的な計算方法

通勤手当は、利用する交通手段によってルールが異なるため、計算が紛らわしくなりがちです。ここでは、人事・総務担当者が押さえておきたい3つの判断軸に沿って、代表的なケースを整理します。
公共交通機関の場合:「最も経済的かつ合理的」な経路の考え方
電車やバスで通勤する従業員に通勤手当を支給する場合、単に最も安い経路を選べばよいわけではありません。
実際の業務に支障が出ないことや、安心して通勤できることが前提となるため、乗り換え回数や移動距離、混雑状況なども踏まえて「最も経済的かつ合理的な経路」を判断します。例として、次のようなルートを見てみましょう。
- 最安ルート(徒歩長め、乗り換え2回):1万1,000円
- 少し高いが時短ルート(乗り換え1回):1万2,500円
前者が最安ではあるものの、安全性や勤務への影響を考慮し、後者を選択することも合法かつ妥当です。

通勤経路は転居や配属変更で変わることも多いため、申請時は経路検索結果などの資料を添付してもらい、必要に応じて見直す運用がおすすめです。
マイカー・自家用車の場合:距離または燃費に基づく計算例
自家用車で通勤する場合、ガソリン代や車両の維持費をどのように捉えるかによって、必要額が大きく変わります。そこで、多くの企業では「走行距離を基準にした計算方式」が採用されています。計算式の一例は以下のとおりです。
通勤手当=(ガソリン価格÷車の燃費)×往復通勤距離×月平均の出勤日数
この式により、「1kmあたりにかかる燃料費」をベースに、毎月の必要通勤費を算出できます。
【計算例】
- 片道の通勤距離:12km
- ガソリン価格:1リットル=170円
- 車の燃費:1リットル=14km
- 月平均の出勤日数:20日
①1kmあたりのガソリン費:170円÷14km≒12.1円
②往復距離:12km×2=24km
③24km×20日=480km/月
④手当額:12.1円×480km=5,808円/月
複数の通勤手段を併用している従業員の計算方法
近年では、最寄り駅まで自家用車で移動し、そこから電車を利用するなど、複数の手段を組み合わせた通勤も増えています。
このような場合は、どちらか一方のみを採用するのではなく、区間ごとに合理的な経路・方法を確認し、総額をもとに支給額を判断します。
■ドライバーの労働条件整備でお悩みの企業様へ
通勤手当を含む労働条件の適切な設計は、ドライバー採用の成功と定着率向上に直結します。カラフルエージェントは、運送業界に精通したコンサルタントが、貴社の採用課題を徹底的にヒアリングし、最適なドライバー人材をご紹介します。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
5.多様化する働き方への対応!現代的な通勤手当の制度設計

通勤手当は、単なる交通費の補助ではなく「柔軟な働き方を支える制度」として見直す段階に入りました。出社と在宅勤務が組み合わさる働き方が浸透し、従来の「定期代を毎月支給する方式」では、費用負担と利用実態が合わないケースが増えています。
テレワーク・在宅勤務における通勤手当のあり方(実費精算への移行)
フル出社が当たり前だった頃は「定期代支給」が合理的でした。しかし、在宅勤務が週の大半となる働き方では、定期券を購入せず必要な日にだけ乗車する方が合理的なケースも増えています。
そのため、出社した日だけ通勤費を精算する「実費精算方式」を採用する企業が増加しています。実費精算方式には、以下のようなメリットがあります。
- 出社頻度に応じた適正な支給額になる
- 固定費(定期代)のムダを削減できる
- テレワーク推進との整合性が取れる
一方で、交通系ICカードの利用履歴確認など、申請・承認フローの整備が不可欠です。
パート・アルバイト従業員への公平な支給方法(日割り計算など)
出勤日数に差が出やすいパート・アルバイト従業員の場合、以下のような方法がとられています。
- 出勤日ごとに一定額を支給する方法
- 見込み額を支給し、翌月に差額を調整する方法など
上記に加え、通勤距離や交通手段に応じて段階的に支給額を設定することで、より公平性を保ちやすくなります。従業員ごとの通勤手段や勤務頻度を丁寧に把握し、雇用形態によって不合理な待遇差が生じないよう制度設計を行うことがポイントです。
▼あわせて読みたい
経費精算の効率化は、通勤手当の実費精算を導入する際にも重要なテーマです。こちらの記事では経費精算のフローから申請・承認のポイント、システム活用まで、実務に即した内容を網羅的に解説しています。
就業規則に記載すべき必須項目と規定例
通勤手当制度を安定的に運用するには、就業規則に明文化しておくことが大切です。あらかじめ社内ルールを定めておくことで、判断のばらつきや解釈の違いによるトラブルを防ぎやすくなります。以下の項目を盛り込んでおくと安心です。
- 支給対象者(雇用区分/条件)
- 支給基準(距離、経路、手段、勤務日数など)
- 支給方法(定額、実費、併用など)
- 上限額と税務・社会保険上の取り扱い
- 申請手順、変更時の届出義務
- マイカー通勤の場合の安全配慮・保険加入条件
- 不正受給が発覚した場合の対応
テレワークを導入している企業では、出社日数による支給条件なども明確にしておくことがおすすめです。
▼あわせて読みたい
労働条件通知書は、通勤手当の支給条件や金額も記載事項に含まれるため、正確な作成が求められます。こちらの記事では、運送会社における労働条件通知書の作成ポイントから実務的な手順まで、最新の法改正に対応した内容を詳しく解説しています。
6.通勤手当の運用で注意すべき実務上のポイント

通勤手当は支給して終わりではなく、運用の過程で労務トラブルが生じやすい領域です。そのため、従業員の生活環境や通勤方法の変更に応じて、タイムリーに支給額を見直せる体制を整えることが欠かせません。
従業員の引っ越しや通勤経路変更時の対応
従業員が自宅を移転したり勤務場所が変わったりした場合は、通勤経路や費用も変動します。しかし、変更の申告がされないまま旧経路の金額を支給し続けるケースは少なくありません。
通勤手当は「現状の通勤実態」に基づき支給するため、従業員に速やかな申告を促し、変更内容を確認・反映する仕組みを整えておくことが大切です。
■ドライバー採用を効率化したい企業様へ
通勤手当を含む給与管理業務の効率化と並行して、優秀なドライバーの確保も企業の重要課題です。カラフルエージェントは、ドライバー専門の人材紹介サービスとして、トラックドライバー、タクシードライバー、軽貨物ドライバーなど、幅広い職種に対応しています。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
通勤手当の不正受給を防ぐための対策とは
悪意がなくても、「引っ越し後も手当がそのままになっていた」といった状況が続けば、不正受給とみなされる可能性があります。そのため企業としては、従業員を責めるのではなく、そもそも不正が起きない仕組みを整えることが大切です。
具体的には、以下のような対策が効果的です。
- 通勤手当を給与明細で可視化し、従業員自身が確認できるようにする
- 不正が判明した場合の対応(返金・懲戒)を就業規則で明確にしておく
- 年1回の「交通費の更新申請(見直し)」を義務化する、など
▼あわせて読みたい
給与計算は、通勤手当をはじめとする各種手当を正確に反映させる重要な業務です。こちらの記事では、給与計算システムの選び方から機能比較、導入ステップまで、人事担当者が知っておくべきポイントを徹底的に解説しています。
通勤災害(労災)との関連性と企業の責任範囲
通勤災害は、会社の管理下で起きた事故ではないため、基本的に企業に直接の補償義務はありません。しかし、通勤途中の事故でも一定の条件を満たせば労災補償の対象となります。
■労災補償の対象となる条件
- 自宅と勤務先の間の合理的な経路で発生した事故であること
- 通勤の途中で逸脱や私的な用事がないこと
- 事故が偶然であり、従業員側の重大な過失や違法行為がないこと
また、出勤時だけでなく、帰宅時や別の勤務先へ移動している際の事故も対象となる場合があるため、制度の範囲を正しく理解しておくことが大切です。
■ドライバーの定着率向上をサポートします
通勤手当の適切な運用は、ドライバーの満足度向上と定着率改善につながる重要な要素です。カラフルエージェントでは、単に人材をご紹介するだけでなく、入社後も求職者と適宜アフターサポートを実施し、離職防止に努めます。
▼カラフルエージェント ドライバーへのお問い合わせはこちら
7.通勤手当制度の最適化で働きやすさと人材定着を高める
通勤手当は単なる交通費補助ではなく、働きやすさを支え、企業の採用力や定着率にも影響する重要な制度です。正しく理解し、通勤実態に合わせた公平な支給を行うことで、労務トラブルを未然に防ぎ、従業員との信頼関係を深めることができます。
テレワークの普及により、従来の定期代支給から実費精算への移行を検討する企業も増えていますが、制度変更には就業規則の見直しや申請フローの整備が不可欠です。本記事で紹介した知識を活かし、自社の働き方に最適な通勤手当制度を構築してください。
適切な制度運用は、従業員の満足度向上と優秀な人材の確保につながります。人事担当者として、より良い職場環境づくりに取り組んでいきましょう。