建設業にも適用された時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」ですが、施行から1年半以上が経過しました。その結果、対応できた企業と対応が遅れた企業の差が顕在化してきています。
長時間労働の是正は進みつつある一方、「隠れ残業の発生」や「若手人材の採用難・定着率の低下」といった、新たな課題に直面している人事・総務担当者も多いのではないでしょうか。実は、こうした課題を解決する鍵として、注目を集めているのが「工事管理システム」です。
本記事では、なぜ今、人事・総務部門が工事管理システムを導入すべきなのか、その理由やメリット、自社に合ったシステムの選び方などくわしく解説します。
- 工事管理システムの基本的な機能と役割
- 2024年問題後に顕在化した人事課題とシステム導入のメリット
- 人事・総務担当者が知っておくべきシステムの選定ポイント
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1．工事管理システムとは？今さら聞けない基本を解説
「工事管理システム」という言葉は知っていても、具体的な機能や人事部門との関わりは意外と知られていません。ここでは、システムの基本的な役割や施工管理システムとの違いについて解説します。
工事管理システムで何ができるのか
工事管理システムとは、案件の引き合いから実行予算の管理、原価計算、請求・入金管理など、一つの工事に関わる経営から現場までの情報を一元管理するためのITツールです。
これまで営業部門・経理部門・現場がそれぞれ別個に管理していた情報を一つに集約することで、会社全体の業務効率化と正確な利益管理を実現します。
具体的には、システムを導入することで、次のような効果が期待されます。
- 最新の図面を全関係者でリアルタイムに共有する
- 日々の作業報告をスマートフォンから簡単に行える
- 工事原価を自動で集計できる、など
施工管理システムとの違い
「施工管理システム」と「工事管理システム」は、しばしば同じ意味で使われますが、厳密には少し違いがあります。
| システムの種類 | 内容 |
|---|---|
| 施工管理システム | 現場の四大管理（工程、原価、品質、安全）に特化 |
| 工事管理システム | 四大管理に加え、顧客管理や会計連携など、経営に近い領域までをカバー |
ただし、最近のシステムは多機能化が進んでおり、両者の境界は曖昧になっています。本記事では、これらを同義のものとして説明します。
2．人事・総務が導入を主導すべき3つのメリット
システム導入は、単なる業務効率化に留まりません。ここでは、企業の未来を左右する3つの具体的なメリットを、人事の視点から深掘りします。
メリット1：「2024年問題」後の新たな課題に対応できる
2024年問題の施行から1年、残業規制に対応した一方で、「サービス残業が増えた」「結局、工期が間に合わない」といった声も聞こえてきます。実際に、厚生労働省の調査によると、建設業の年間総実労働時間は全産業平均より200～300時間も長い状況が続いているのです。
こうした状況に対し、国土交通省でも「生産性向上と働き方改革を目指す取り組み（i-Construction）」を推進しており、ICTの活用による生産性向上が業界全体の重要課題となっています。
工事管理システムの導入は、誰がいつ、どのような作業をしていたかがデータとして可視化されるため、不適切な労務管理を防ぎ、正確な労働時間管理を目指す上で必要不可欠といえるのです。
参照：厚生労働省「毎月勤労統計調査」、国土交通省「i-Construction」
メリット2：従業員の定着率向上が期待できる
若手人材の離職に悩む建設企業も多いでしょう。その背景には、長時間労働だけでなく、「評価の不透明さ」や「成長実感の欠如」があります。総務省のデータでは、建設業の29歳以下の就業者は全体の約12%に留まっており、若手の確保・育成は大きな課題となっているのです。
工事管理システムによって日々の頑張りが記録・可視化されれば、それを基にした公正な人事評価制度の構築が可能です。また、ベテランの技術やノウハウをデータとして蓄積・共有することで、若手社員の教育ツールとしても活用でき、スムーズなスキルアップにつながります。
参照：総務省「労働力調査」
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メリット3：若手人材に選ばれる会社になる
現代の若手求職者は、給与や待遇だけでなく、企業のDX（デジタルトランスフォーメーション）への取り組み姿勢や、働き方の柔軟性を重視する傾向にあります。
工事管理システムの導入は、単なる業務効率化ツールにとどまらず、「時代に合わせて進化する先進的な企業」であるという明確なメッセージとなり、採用競争における大きな優位性をもたらすでしょう。
SNSなどを活用して自社のDX推進状況を発信することで、より高い訴求効果が期待できます。
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採用活動の成功には、データに基づいた戦略的なアプローチが不可欠です。こちらの記事では、採用KPIの設定方法から効果測定、PDCAサイクルの回し方まで、人材獲得を科学的に管理する手法を詳しく解説しています。
3．【人事視点】工事管理システムの主な機能
一見すると現場の専門用語が並ぶ機能も、視点を変えれば人事・労務管理に直結する重要なツールとなります。ここでは、主要な4つの機能を人事担当者が見るべきポイントと共に解説します。
機能1：工程管理
工事全体のスケジュールや、各作業の進捗状況を管理する機能です。ガントチャートなどで視覚的に進捗を把握できるため、無理な工期の設定を防ぎ、計画的な人員配置に役立ちます。
遅延が発生した場合も迅速に原因を特定し、対策を講じることが可能です。
【人事としての活用】
特定の従業員に業務負荷が偏ることを防ぎ、全体の労働時間を平準化する助けとなります。また、労務負荷のモニタリングツールとしても活用できるでしょう。
機能2：原価管理
工事にかかる人件費や材料費などのコストをリアルタイムで集計・管理する機能です。実行予算と実績を比較することで、プロジェクトの収益性を正確に把握できます。
人事の視点では、このデータを分析することで、「どのような工事で残業が多く発生しているか」といった傾向を掴むことができます。
【人事としての活用】
利益率を確保しつつ、従業員に無理をさせないための適正な人員計画や、外注活用の判断材料として活用できるでしょう。
機能3：品質管理
設計図書通りの品質が確保されているか、仕様書や施工基準に基づいたチェックや、現場写真の管理を行う機能です。写真にコメントを付けて関係者間で共有したり、検査記録をデータとして保存したりできます。
【人事としての活用】
万が一トラブルが発生した際に、正確な記録が原因究明や責任の所在を明確にする上で役立ち、従業員を守ることにつながります。
機能4：安全管理
現場の危険箇所を事前に洗い出し、ヒヤリハット事例を共有するなど、労働災害を未然に防ぐための機能です。日々の安全点検の記録や、危険予知活動（KY活動）の報告などをシステム上で行うことができます。
【人事としての活用】
安全管理の徹底は、従業員が安心して働ける職場環境の基盤となり、結果として定着率の向上や企業の社会的評価にもつながる、人事部門にとっても重要な取り組みです。
4．失敗しない工事管理システムの選び方【5つのポイント】
多種多様な工事管理システムの中から、自社に最適な一つを選ぶのは簡単ではありません。ここでは、導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないための、5つの選定ポイントを解説します。
ポイント1：自社の課題を解決できる機能があるか
まずは、自社が抱える人事・労務課題を明確にし、それを解決できる機能が搭載されているかを確認しましょう。
■例えば…
原価管理機能
多機能であればあるほど良いというわけではありません。自社の目的を達成するために、本当に必要な機能を見極めることが、導入成功の第一歩です。
ポイント2：誰でも簡単に使えるか
建設現場では、ITツールに不慣れなベテラン社員から、デジタルネイティブな若手まで、様々な年代の従業員が働いています。そのため、誰にとっても直感的に操作できる、分かりやすいデザインのシステムを選びましょう。
無料トライアル期間などを活用し、実際に現場の従業員に触ってもらい、「これなら使えそう」という声が得られるかどうかを確認することをおすすめします。
現場での使いやすさは、導入後の定着を左右する、重要なポイントです。
ポイント3：十分なサポート体制があるか
新しいシステムを導入する際には、「操作方法がわからない」「エラーが出てしまった」といったトラブルはつきものです。そんな時に、電話やメール、チャットなどで気軽に相談できる手厚いサポート体制があるかどうか確認しましょう。
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ポイント4：セキュリティ対策は万全か
工事管理システムでは、顧客情報や工事原価、従業員の個人情報など、多くの機密情報を扱います。そのため、不正アクセスや情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策が万全であるかは、非常に重要な選定基準です。
以下のポイントを押さえて、セキュリティ状況を確認しましょう。
- データは暗号化されているか
- アクセス制限機能はあるか
- 第三者機関によるセキュリティ認証（ISMS認証など）の取得状況など
企業の信頼を守り、従業員が安心して利用できるシステムを選びましょう。
ポイント5：費用対効果は見合っているか
工事管理システムの料金体系は、月額制や買い切り型、利用するユーザー数に応じた課金など様々です。初期費用と月々のランニングコストを算出し、自社の予算に合っているかを確認しましょう。
ただし、単純な価格の安さだけで選ぶのは危険です。システムの導入によって「残業代がどれだけ削減できるか」「採用コストをどれだけ抑えられるか」といった、得られるメリット（＝効果）を試算し、長期的な視点で費用対効果を判断してください。
中小企業を対象とした「IT導入補助金」などの公的支援制度も整備されているため、積極的に活用するとよいでしょう。
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建設業の勤怠管理に特化したおすすめ12システムを徹底比較しています。自社に最適なツールを見つけるためのポイントについても詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
5．【2025年最新】おすすめの工事管理システムを紹介
ここでは、具体的にどのようなシステムが市場にあるのか、代表的な5つのサービスをご紹介します。
| システム名 | 主な特徴 | 料金目安 | こんな企業に |
| ANDPAD | 機能の網羅性が高く、導入支援が手厚い | 初期費用：10万円～ 月額費用：36,000円～ | 全社でDXを推進したい企業 |
| Photoruction | 写真・図面管理に特化、AIによる自動整理 | 要問い合わせ | 品質の記録・管理を重視する企業 |
| KANNA | シンプルで直感的な操作性、スマホアプリ中心 | 初期費用：0円 月額費用：要問い合わせ | ITが苦手な従業員が多い中小企業 |
| ダンドリワーク | 協力会社との情報共有（段取り）を円滑化 | 初期費用：20万円～ 月額費用：15,000円～ | 多くの協力会社と連携する住宅メーカーや工務店 |
| SPIDERPLUS | 図面と連携した検査・報告業務の効率化 | 初期費用：44,000円～ 月額費用：3,300円/ID～ | 現場のペーパーレス化を進めたい企業 |
以下で詳しくみていきましょう。
ANDPAD（アンドパッド）
画像：「ANDPAD（アンドパッド）」公式サイトより引用
国内で非常に高いシェアを誇る、建設・建築業界に特化したクラウド型プロジェクト管理サービスです。案件管理から現場の工程管理、受発注、図面管理、検査まで、多岐にわたる業務を一つのプラットフォームで完結させられる網羅性が特徴です。
- 豊富な機能の中から、自社の課題に合わせて必要なものだけを選んで導入可能
- 専任の担当者による手厚い導入・定着支援サポート
- 多くの外部システムと連携できるため、既存の業務フローを活かせる
【こんな企業におすすめ】
複数のITツールを一つにまとめ、全社的な情報共有と業務効率化を推進したいと考えている企業におすすめです。
Photoruction（フォトラクション）
画像：「Photoruction（フォトラクション）」公式サイトより引用
膨大な量の工事写真や図面を効率的に整理・活用することに強みを持つシステムです。AIによる写真整理の自動化や、図面と写真を連携させた検査記録の作成など、特に品質管理や検査業務の生産性を劇的に向上させる機能が充実しています。
- 配筋検査やコンクリート打設管理など専門的な帳票作成にも対応
- BIM/CIMといった最新の3Dモデルとも連携できる先進性
- 国土交通省のNETIS（新技術情報提供システム）にも登録
【こんな企業におすすめ】
厳格な品質管理や詳細な施工記録が求められる大規模なプロジェクトや公共工事を多く手掛ける企業に最適です。
KANNA（カンナ）
画像：「KANNA（カンナ）」公式サイトより引用
「誰でも、いますぐ、かんたんに使える」をコンセプトに、ITツールに不慣れな方でも直感的に操作できるシンプルな画面設計が魅力です。チャットのように手軽な報告・連絡・相談機能を中心に、現場のリアルタイムな情報共有をスムーズにします。
- スマートフォンアプリの操作性に優れており、現場での利用に最適化
- 導入までの期間が短く、契約後すぐに使い始められる
- 少人数のチームから利用できる、費用を抑えた料金プランを用意
【こんな企業におすすめ】
まずは特定のチームや部門でスモールスタートしたい企業や、ITツールの導入に苦手意識を持つ従業員が多い中小企業におすすめです。
ダンドリワーク
画像：「ダンドリワーク」公式サイトより引用
現場の「段取り」に特化し、元請け・協力会社・職人など、現場に関わる全ての関係者間のコミュニケーションを円滑にするシステムです。電話やFAX、メールといった連絡の手間を大幅に削減し、現場の生産性向上に直接的に貢献します。
- 現場ごとの工程表や資料を、関係者全員がいつでも最新の状態で確認可能
- 協力会社は無料でシステムを利用できるため、導入のハードルが低い
- 特に住宅建築やリフォーム業界での導入実績が豊富
【こんな企業におすすめ】
多くの協力会社と連携してプロジェクトを進める住宅メーカーや工務店、リフォーム会社に最適です。
SPIDERPLUS（スパイダープラス）
画像：「SPIDERPLUS（スパイダープラス）」公式サイトより引用
図面管理と検査業務の効率化を追求した、現場第一主義のシステムです。タブレット上で図面に直接メモや写真を紐づけて管理できるため、現場での情報整理や事務所に戻ってからの帳票作成の手間を劇的に削減できる点が、高く評価されています。
- オフライン環境でも利用できるため、電波の届きにくい現場でも利用可能
- 電気・空調・衛生設備といった専門業種の帳票テンプレートが充実
- 導入企業のデータに基づいた、詳細な費用対効果のシミュレーションを提供
【こんな企業におすすめ】
図面を多用する大規模な建設現場や、専門的な検査・報告業務が多い設備工事会社などにおすすめです。
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勤怠管理に特化した建設業向けシステムをお探しの企業様は、こちらの記事もおすすめです。それぞれの特徴や料金体系、導入事例を詳しく解説しています。
6．工事管理システムに関するよくある質問（Q&A）
ここでは、人事・総務担当者から多く寄せられる質問をピックアップし、Q&A形式で分かりやすく回答します。
Q．ITに不慣れな従業員が多く、導入しても使ってもらえるか不安です。
A．使いやすいシステムの選定と導入時のサポートを徹底することが重要です。
ITに不慣れな従業員が円滑にシステムを活用できるよう、次の3つの施策を実施すると効果的です。
- 直感的に操作できる、簡単なデザインのシステムを選ぶ
- 無料トライアルなどを活用し、事前に従業員に触ってもらう
- 説明会など、サポート体制が手厚いシステムを選ぶ
全社展開の前に、特定の部署やITリテラシーの高い若手中心のチームで試行導入（スモールスタート）してみるのも有効な手段です。
Q．導入までには、どのくらいの期間がかかりますか？
A．導入規模により異なりますが、最短1週間～1ヶ月程度で利用開始できるケースもあります。
導入期間は、企業の規模やシステムの複雑さによって大きく異なります。基本的な機能をクラウドで利用するだけであれば、契約後、最短1週間～1ヶ月程度で利用開始できる場合も少なくありません。
一方で、既存の会計システムや給与システムとの連携、独自のカスタマイズなどを行う場合は、要件定義からテスト、導入後の研修まで含めて3ヶ月～半年以上かかることもあります。
まずは自社が何をしたいのかを明確にし、ベンダーに相談してみましょう。
Q． 費用はどのくらいかかりますか？
A． システムによって、月数千円～数十万円まで様々です。
月々数千円から利用できる小規模事業者向けのクラウドサービスから、数百万円以上の初期費用がかかる大規模なオンプレミス型システムまで幅広く存在します。
導入時は、単純な価格の安さだけでなく、「導入によってどれだけの残業代を削減できるか」「採用コストをどれだけ抑えられるか」といった費用対効果（ROI）の視点で判断することが大切です。
Q．既存の会計ソフトや給与ソフトと連携できますか？
A．多くのシステムで連携機能が提供されています。
freeeやマネーフォワードといった主要なクラウド会計ソフトと連携できるシステムも増えています。連携により、請求データや勤怠データを自動で取り込めるため、バックオフィス業務全体の効率化につながるでしょう。
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7．人事戦略としての工事管理システム導入
本記事では、工事管理システムがもはや現場だけのツールではなく、人事・総務部門が主導すべき重要な経営戦略であることを解説しました。
2024年問題の施行から1年半が経過し、建設業界における人材獲得競争や労務管理の重要性は一層高まっています。システムを導入することで、法令遵守の徹底、労働環境の改善による人材定着、そしてDX化による採用力の強化が可能になるでしょう。
未来の成長に向けた戦略的投資として、ぜひ工事管理システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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