現代のビジネス環境では、人事部門の役割が大きく変化しています。従来の給与計算や労務管理といった「守りの人事」から、経営戦略の実現を支える「攻めの人事」への転換が求められているのです。
この新しい人事のあり方が「戦略人事」です。企業の経営目標達成のために人材マネジメントを戦略的に行う取り組みで、人事部門が経営の重要なパートナーとして価値を発揮することを目指します。
本記事では、戦略人事の基本概念から実践方法、成功事例まで、人事担当者が知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
- 自社の人事機能を「守り」から「攻め」へと転換する具体的な方法
- 4つの役割分担による、効率的で効果的な人事組織の構築
- 経営戦略と連動した人材戦略で採用成功率を向上させる方法
1.戦略人事とは何か?基本的な意味を分かりやすく解説

まずは、戦略人事の定義や基本概念、企業に与える影響などを見ていきましょう。
戦略人事の定義と基本概念
戦略人事とは、「戦略的人的資源管理」の略語で、企業の経営目標や経営計画の実現と人材マネジメントを直結させる人事活動を指します。
従来の人事が給与計算や勤怠管理といった管理業務中心だったのに対し、戦略人事は経営戦略の実現という明確なゴールから逆算して人材戦略を設計し、実行する点が大きな特徴です。

「どのような人材を、いつまでに、どうやって確保・育成するのか」という設計図を描き、経営陣のビジネスパートナーとして組織変革を主導します。
戦略人事が注目される時代背景
戦略人事が注目されるようになった背景には、ビジネス環境の急激な変化があります。デジタル変革(DX)の進展、働き方改革、人材の流動化、グローバル競争の激化など、企業を取り巻く環境は日々変化しています。
このような環境下では、従来の「管理型人事」では企業の競争力を維持することが困難になり、新しい人事のあり方として戦略人事が注目を集めたのです。
これらに加え、近年では「人的資本経営」への注目が急速に高まっています。これは、人材を「コスト」ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値向上につなげる経営のあり方です。
投資家からも企業の人的資本情報開示が求められるようになり、経営戦略と連動した人材戦略を描く「戦略人事」の重要性は、かつてないほど高まっているのです。
経営戦略と人事戦略の連動
戦略人事の核心は、経営戦略と人事戦略を密接に連動させることにあります。
■具体的には…
人材スキルは何か
必要か
スキルアップはどう進めるか
専門人材を獲得するか
このように経営戦略という「地図」を読み解き、目的地に到達するための「人の動かし方」を設計することが戦略人事の本質です。
戦略人事がもたらす企業への効果
戦略人事を導入することで、企業には多くのメリットがあります。
経営目標の達成確度が高まる
人材戦略が経営戦略と連動することで、必要な人材を計画的に確保・育成でき、事業目標の実現可能性が向上します。
人事部門の価値向上
従来の管理業務中心から脱却し、経営に直接貢献する部門として認識されるようになります。
データに基づく科学的な人事運営
勘や経験に頼らない客観的な意思決定が可能になり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
■戦略人事を成功させる人材採用支援
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2.従来の人事と戦略人事の5つの違い

従来の人事と戦略人事には、根本的な考え方から具体的な業務内容まで、大きく5つの違いがあります。
守りの人事から攻めの人事へ
従来の人事 | 既存の制度や仕組みを維持することが主な役割 |
戦略人事 | 積極的に組織変革を推進し、新たな価値を創造する役割 |
従来の人事は「守りの人事」として、給与計算の正確性、労務管理の徹底、コンプライアンスの遵守など、リスクを回避し組織を安定させることに重点を置いていました。
一方、戦略人事は「攻めの人事」として、新規事業立ち上げに必要な人材の戦略的採用や、イノベーション創出のための組織文化変革など、企業の成長を人材面から牽引する攻めの姿勢が特徴です。
単発業務から経営戦略連動へ
従来の人事は、採用、評価、研修などの各業務が個別に実施されることが多く、それぞれの業務が経営戦略とどう関連しているかが不明確でした。戦略人事では、すべての人事業務が経営戦略の実現という共通の目標に向けて統合されます。
新卒の採用活動を例に見ていきましょう。
■新卒を3人採用する場合
従来の人事⇒「とにかく良い人材を採る」
戦略的人事⇒「3年後の海外展開を視野にグローバル人材を採用する」
このように、戦略人事は経営戦略から逆算した明確な目的を持って実施されます。
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感覚的判断からデータ活用へ
従来の人事では、経験や勘に基づく感覚的な判断が主流でした。「あの人は優秀そうだから昇進させよう」「なんとなく離職が多い気がする」といった主観的な判断が意思決定の基準となっていたのです。
戦略人事では、人事データを体系的に収集・分析し、客観的な事実に基づいて意思決定します。
短期対応から中長期視点へ
従来の人事は、目の前の課題に対応する短期的な視点が中心でした。その時々の状況に応じて対症療法的に対応していたのです。
- 急に退職者が出た ⇒ 補充採用をしよう
- 来月研修がある ⇒ 準備をしようなど
戦略人事では、3年後、5年後の組織のあるべき姿から逆算して、中長期的な人材戦略を策定します。
「将来必要となるスキルを予測し、今から計画的に人材育成を進める」「次世代リーダーを長期的な視点で発掘・育成する」など、未来の組織づくりを見据えた戦略的な取り組みが特徴です。
部門最適から全社最適へ
従来の人事では、各部門の個別要望に応える「部門最適」の考え方が一般的です。営業部から「営業経験者を採用してほしい」、開発部から「エンジニアを増員してほしい」といった各部門のリクエストに個別に対応していました。
戦略人事では、全社的な視点から「全社最適」を追求します。限られた人材リソースを全社的な優先順位に基づいて配分し、部門間の人材移動や育成計画も全社戦略の観点から決定します。

時には個別部門の要望と異なる判断をすることもありますが、会社全体の成長を最優先に考えた戦略的な人材配置を行います。
3.戦略人事に必要な4つの役割

戦略人事の機能を考える上で、世界的に知られているのが経営思想家デイブ・ウルリッチが提唱したフレームワークです。現代の戦略人事では、この理論をベースに、主に以下の4つの役割が重要とされています。
HRBP(HRビジネスパートナー)の戦略的役割
HRBP(HR Business Partner)は、経営者や事業責任者の戦略的パートナーとして、担当する事業部門の目標達成にコミットする役割です。単なる人事の窓口ではなく、事業責任者の「右腕」として、人と組織の側面から事業成長をサポートします。
HRBPの具体的な役割は、各事業の人材や組織に関するリクエストに応えるだけでなく、まだ言語化されていない潜在的な問題やニーズを引き出し、先回りして解決策を提案することです。

例えば、売上目標を達成するために必要な営業人材のスキル定義や採用計画の策定、組織のモチベーション向上施策の企画などを担当します。
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組織開発(OD)と人材開発(TD)による人材強化
OD(Organization Development:組織開発)とTD(Talent Development:人材開発)は、戦略人事における「人と組織を育てる」エンジンです。
組織開発
組織全体の健全性とパフォーマンスを高めるための働きかけ
- ビジョン・ミッション・バリューの浸透活動
- 従業員エンゲージメント向上施策
- 部門間連携の促進
- 心理的安全性の高いチーム作りなど
人材開発
経営戦略の実現に必要な「タレント(才能)」を計画的に育成
- 次世代リーダー候補の選抜と育成
- 新規事業に必要なスキルのリスキリング推進
- 社員の自律的キャリア形成支援など
これらの活動を通じて将来の組織力強化を図ります。
センターオブエクセレンスの専門性発揮
CoE(Center of Excellence)は、採用、評価、育成といった人事の各専門領域に特化した高度な専門家集団です。
■採用活動を例にみていきましょう。
- どのような人材を採用するか
- 採用方法は何が適切か
- いつ頃までに採用するのか
全社共通の人事制度や研修プログラムの企画・設計、最新トレンドの導入などを主導し、人事施策全体の質を向上させる役割を担います。各事業部のHRBPに対して専門的な知見を提供し、その活動を支える重要な機能でもあります。
CoEは高度な専門知識を持つスペシャリストとして、各領域のベストプラクティスを社内に展開し、人事施策の質的向上を目指します。
オペレーションズによる効率的業務運営
OPs(Operations)は、人的資源に関する実務のエキスパートとして、CoEが設計し構築した各種ソリューションを実際に運用管理する役割を担います。
各事業部門を横断するだけでなく地域的な壁も取り払い、コストを最適化し効率化を実現するためにシェアードサービス化、アウトソーシング化を推進します。
■採用活動における活動を例にみていきましょう。
- 採用に関する細かいプロセス管理
- 採用された人材の入社までのフォロー
- 面接日程の調整など
その他、給与計算・支給・福利厚生、勤怠管理・労務、人事システムの運用、新卒採用実務運営、駐在員管理なども含まれます。
■戦略人事を支える効果的な人材マネジメント
4つの役割を効果的に機能させるためには、適切な人材の配置と育成が重要です。カラフルエージェントでは、各役割に適した専門性を持つ人材をご紹介し、戦略人事体制の構築をサポートいたします。
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4.戦略人事を実践するための5つのステップ

戦略人事を実際に導入し成功させるためには、段階的なアプローチが必要です。以下の5つのステップに沿って進めることで、着実な成果の実現を目指しましょう。
【STEP1】経営戦略の理解と人事課題の現状分析
戦略人事の第一歩は、自社の経営戦略を深く理解することから始まります。中期経営計画や事業戦略を詳細に分析し、「売上目標」「新規事業計画」「市場でのポジショニング」などを正確に把握しましょう。
同時に、現在の人事課題を客観的に分析することも重要です。以下のようなデータを収集し、目標の実現に向けてどのような人事課題があるのかを明確にしてください。
- 組織図
- 人員構成
- スキル分布
- 離職率
- エンゲージメント調査結果など
この段階では、経営層との対話を重視し、経営戦略の背景にある考えや優先順位を深く理解することが成功の鍵となります。
【STEP2】人事データの整備と可視化システム構築
戦略人事を効果的に推進するためには、質の高い人事データの整備が不可欠です。次のような従業員の情報を一元的に管理できるシステムを構築しましょう。
- 指名や年齢などの基本情報
- スキル
- 経歴
- 評価
- 研修履歴
- キャリア志向など
バラバラに管理されていたExcelファイルやペーパーベースの情報をデジタル化し、検索や分析が容易にできる環境を整えます。
また、離職率、エンゲージメントスコア、スキルマップなどの人事指標をダッシュボード化し、リアルタイムで組織の状況を把握できる仕組み作りも進めましょう。
さらに、近年では収集した人事データをもとに、AIを活用して離職リスクの予測や最適な人材配置のシミュレーションを行う企業も増えています。単にデータを可視化するだけでなく、未来の予測や戦略立案に活かすことが、次世代の戦略人事では求められます。
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【STEP3】経営層との連携体制とコミュニケーション強化
人事部門が経営会議に参加し、経営判断の場に人事の視点を提供できる体制を構築しましょう。戦略人事の成功には、経営層との密接な連携が欠かせません。
また、定期的に経営層と人事戦略について議論する場を設け、経営戦略の変更や市場環境の変化に応じて人事戦略を柔軟に調整できる関係性を築いてください。
経営層に対しては、人事課題を単なる「問題」として報告するのではなく、「事業リスク」や「投資機会」といった経営の言葉で説明し、適切な経営判断を促すコミュニケーションスキルが重要です。

このような連携により、人事が経営の重要なパートナーとして認識されるようになります。
【STEP4】具体的人事施策の立案と優先順位決定
経営戦略と現状分析に基づいて、具体的な人事施策を立案します。採用戦略、人材育成計画、組織開発施策、評価制度改革、働き方改革など、多岐にわたる施策の中から優先順位を決定し、実行計画を策定しましょう。
重要なのは、限られたリソースの中で最大の効果を上げるために、経営インパクトの大きさと実現可能性を考慮して施策を選択することです。
また、各施策の目標を定量的に設定し、成果を測定できる指標(KPI)を明確にします。例えば、「グローバル人材を3年で50名育成する」「エンゲージメントスコアを現在の65%から80%に向上させる」といった具体的な目標設定が理想です。
【STEP5】効果測定と継続的改善サイクルの確立
戦略人事の効果を継続的に向上させるためには、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回し続けることが重要です。
PLAN (計画)
課題を特定し、目標設定と達成のための行動計画を具体的に立てます。
DO (実行)
策定した計画に基づいて、具体的な施策やタスクを実行に移します。
CHECK (評価)
実施した施策の効果を定期的に測定し、目標達成度を評価します。
ACT (改善)
期待した効果が得られない場合は原因を分析し改善策を検討。外部環境の変化にも応じ、戦略を柔軟に見直します。
このような継続的な改善により、戦略人事の精度と効果を高め続けられるでしょう。さらに、成功事例や失敗事例を社内で共有し、組織全体の学習能力を向上させることも重要です。
5.戦略人事の成功事例3選

実際に戦略人事を導入し、大きな成果を上げている企業の事例を紹介します。
日清食品のグローバル人材育成アカデミー
日清食品グループは2014年に最高人事責任者(CHRO)を設置し、本格的な戦略人事への転換を図りました。同社が特に注力したのは、グローバル展開を支える人材育成です。
2015年には次世代グローバル経営人材を育成する企業内大学「グローバルSAMURAIアカデミー」を創設しました。このアカデミーは年代別に5段階のコースを設定し、次のとおり若手から役員まで体系的な育成プログラムを提供しています。
若武者編
(若手・中堅向け)
侍編
(係長・課長向け)
骨太経営者編
(次長・部長向け)
エグゼクティブ編
(役員向け)
この取り組みにより、グローバル経営人材の候補が大幅に増加し、海外事業展開の基礎となる人材基盤を構築することに成功しました。
参照:日本経済新聞「グローバルSAMURAI、どう育てる 日清食品の試み」
日立製作所のデータ活用による組織変革
日立製作所は、グローバル企業として統一された人事戦略の構築に取り組みました。従来は各国・各社でバラバラに運営されていた人事制度を、データの力を活用して標準化・統一化を実現したのです。
特に注目すべきは、リーダー人材データベースの構築とリーダーシップ開発のグローバル展開です。世界中の拠点にいるリーダー候補者の情報を一元管理し、グローバルな視点でタレントマネジメントを実施しています。

一方で、年金制度や採用活動など、各国の法律や文化に深く関わる分野については、国別・会社別に最適化された制度を維持しています。
参照:日立製作所「【特集:ニューノーマル時代の働き方改革】株式会社日立社会情報サービス(日立人財データ分析ソリューション)」
味の素の多様性重視人材戦略
味の素は「一人ひとりの自立的成長」「働き甲斐の実感」「多様な人材の共創」という3つのエレメントを核とした戦略人事を展開しています。
特に注目すべきは、管理職以上の全従業員を対象としたキャリア開発支援プログラムの導入です。従業員本人が作成したキャリアプランをもとに上司との面談を行い、個人の成長意欲と会社の期待を擦り合わせる仕組みを構築しました。
このプログラムをグローバルの部長職以上全員に導入し、働き方改革の推進とタレントマネジメントの仕組み充実を並行して実施したのです。
その結果、わずか1年半の間で日本人以外の100名以上を含む合計300名を超える次期グローバルリーダー候補者の育成に成功し、多様性を活かした組織運営の基盤を築きました。
参照:味の素株式会社「味の素グループの人財戦略」
6.戦略人事を成功させるために必要なスキルと要件

戦略人事を成功に導くためには、従来の人事担当者とは異なるスキルと要件が必要です。ここでは特に重要な4つの要素について詳しく解説します。
人事専門知識とビジネス理解力
戦略人事を担う人材には、まず人事領域における深い専門知識が不可欠です。労働法規、社会保険、採用、評価、報酬、育成、組織開発といった人事の各機能に関する確かな知識が土台となります。
加えて、これらの専門知識を「経営課題を解決するための武器」として使いこなす能力も必要です。以下のように、知識を実務に活かすための応用力が求められます。
- 労働法を知っている
⇒法改正の動きを予測し、事業への影響を分析して先手を打つ - 採用ができる
⇒事業計画から逆算して必要な人材要件を定義し、最適な採用チャネルを選定する
データ分析力と論理的思考能力
現代の戦略人事では、データドリブンな意思決定が基本です。そのため、従業員のスキル、パフォーマンス、エンゲージメント、離職率などの人事データを収集・分析し、客観的な事実に基づいて施策を立案する能力が求められます。
■具体的には…
- Excelの基本的な操作
- 統計的な分析手法
- BIツールの活用
- データの可視化技術など
また、データから得られた情報を基に論理的な思考プロセスを経て、「なぜその結果になったのか」「どう改善すれば良いのか」を科学的に検証し、説得力のある提案にまとめ上げる能力も必要です。
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戦略人事には優秀なリーダーの育成も欠かせません。こちらの記事では、管理職の育成方法について、プログラム設計から実施まで詳しく解説しています。
コミュニケーション力とリーダーシップ
戦略人事では、異なる立場や利害を持つ様々なステークホルダーとの関わりが発生します。それぞれの立場に応じて求められる能力が異なり、幅広いスキルが求められます。
経営層へ
人事課題を事業リスクや投資機会として説明し、意思決定を促すスキル
事業責任者へ
信頼できるパートナーとして組織課題を提言する勇気
現場の従業員へ
制度変更の背景を丁寧に説明し、協力を引き出すコミュニケーション力
また、組織変革を主導するリーダーシップも重要な要素です。変化に対する抵抗を乗り越え、関係者を巻き込みながら前向きな変革を推進する力が、戦略人事の成功を左右します。
やり抜く力と継続的学習姿勢
戦略人事の成果は短期間で現れるものではありません。中長期的な視点で施策を継続し、困難な状況でも諦めずにやり抜く力が必要です。
また、ビジネス環境や人事領域のトレンドは日々変化しているため、常に新しい知識やスキルを学び続ける姿勢も重要です。新たな人事課題について積極的に情報収集し、自社への適用可能性を検討する探究心が求められるでしょう。
7.戦略人事の実践でよくある課題と解決方法

戦略人事を導入する過程には、様々な課題があります。ここでは、よく見られる4つの課題と解決方法について解説します。
経営層との連携不足を解消する方法
多くの企業で見られる課題が、経営層と人事部門の連携不足です。経営層が人事を「管理部門」としてしか認識していない場合、戦略人事への理解や協力を得ることが困難になります。
【解決方法】
人事側から積極的に経営戦略を学び、ビジネス用語で人事課題を説明できるようしましょう。
人事課題を単なる「問題」として報告するのではなく、「事業成長のボトルネック」や「競争優位の源泉」といった経営視点で説明し、具体的な数値やROI(投資対効果)を示すことで説得力を高めます。
人事データ不足による分析限界の克服
戦略人事にはデータ分析が不可欠ですが、多くの企業では人事データの整備が足らず、十分な分析ができないという課題があります。
【解決方法】
この課題に対しては、段階的なアプローチが有効です。
まず、現在利用可能なデータを最大限活用し、小さな分析から始めて成果を示しましょう。同時に、将来必要となるデータの収集計画を立て、データの質と量を段階的に向上させていきます。
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組織の健康状態を把握するエンゲージメントサーベイも、戦略人事に活用できる人事データです。こちらの記事では、基本知識から具体的な活用事例まで詳しく解説しています。
現場の理解不足と効果的な巻き込み方
戦略人事の施策を現場で実行する際、管理職や一般社員の理解・協力が得られないケースがよくあります。
【解決方法】
現場のメリットを明確に示すことが重要です。
「なぜ戦略人事の導入が必要なのか」「現場にとってどのようなメリットがあるのか」を丁寧に説明します。また、現場の声を積極的に聞き反映させることで、当事者意識を高めることも効果的です。
システム導入時のコストと効果のバランス
戦略人事を支援するHRシステムの導入において、高額な投資に見合う効果が得られるかという懸念を持つ企業は少なくありません。
【解決方法】
段階的な導入アプローチと明確なROI設計が重要です。
緊急度の高い課題から小規模なシステム導入を始め、効果を検証します。投資対効果の計算においては、時間削減、エラー減少、意思決定スピード向上など、定量化しにくい効果も含めて総合的に評価することが重要です。
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8.戦略人事の成功を測るKPIとROI
戦略人事は投資です。その効果を経営層に説明し、取り組みを継続していくためには、成果を可視化することが不可欠です。ここでは、戦略人事の成功を測定するための主要な指標(KPI)と投資対効果(ROI)の考え方を解説します。
戦略人事の主要KPI
人材獲得に関するKPI
重要ポジションの充足率・充足スピード
採用ソース別定着率
人材育成・定着に関するKPI
従業員エンゲージメントスコア
ハイパフォーマー維持率
スキル向上率
組織パフォーマンスに関するKPI
労働生産性
イノベーション創出件数
人事施策が経営目標にどれだけ貢献したかを測るため、以下のような定量的なKPIを設定します。
- 人材獲得に関するKPI
- 重要ポジションの充足率・充足スピード
経営戦略上、重要な役職がどれだけ計画通りに埋まっているか。 - 採用ソース別定着率
どの採用チャネルからの人材が、長期的に活躍しているか。
- 重要ポジションの充足率・充足スピード
- 人材育成・定着に関するKPI
- 従業員エンゲージメントスコア
従業員の仕事への熱意や貢献意欲。 - ハイパフォーマー維持率(離職率)
特に優秀な人材が、どれだけ会社に留まっているか。 - スキル向上率
研修やリスキリングによる従業員のスキル習熟度。
- 従業員エンゲージメントスコア
- 組織パフォーマンスに関するKPI
- 労働生産性
従業員一人あたりの売上高や利益。 - イノベーション創出件数
新規事業の提案数や特許取得数など。
- 労働生産性
ROI(投資対効果)の考え方
戦略人事のROIを正確に算出するのは容易ではありませんが、「人事施策によって得られた金銭的価値 ÷ 施策にかかったコスト」という基本的な考え方で、その効果を概算することができます。
例えば、「新しい育成プログラム(コスト)によってハイパフォーマーの離職が5%減少し、採用・再教育コストが年間2,000万円削減された(金銭的価値)」といったように、施策と財務的成果を結びつけることが重要です。
こうしたデータに基づいた報告は、人事部門が単なるコストセンターではなく、企業の成長に貢献する「プロフィットセンター」であることを証明する強力な材料となります。
9.戦略人事で人事部門の価値を最大化しよう
戦略人事は、人事が単なる管理部門から進化するための重要な取り組みです。データを武器に組織課題を解決し、未来を見越した人材戦略を描くことで、人事は「経営を支える戦略パートナー」へと成長できるでしょう。
経営戦略を学び、現場の声に耳を傾け、データ分析スキルを磨く…そうした日々の努力が、やがて組織全体を動かす力となるはずです。人事の改善・改革は、日々の取り組みの積み重ねが大切です。一歩ずつ着実に進めていきましょう。
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