医療・介護、製造業、警備業など、24時間体制で事業を運営する企業にとって夜勤は欠かせない勤務形態です。しかし、夜勤の勤怠管理は日勤に比べて格段に複雑で、多くの人事・総務担当者が頭を悩ませています。
夜勤管理を間違えると、労働基準法違反による罰則リスクや、従業員からの未払い賃金請求、労働災害の発生など、企業にとって深刻な問題につながる可能性があります。一方で、適切な夜勤管理体制を構築できれば、コンプライアンスの強化、業務効率の改善、従業員満足度の向上を同時に実現できるでしょう。
本記事では、労働基準法における夜勤の正確な定義から深夜割増賃金の計算方法、効率的な勤怠管理システムの選び方など、夜勤管理に必要な知識を網羅的に解説します。
- 労働基準法に基づく夜勤の正しいルールと、深夜割増賃金の計算方法がわかる
- 夜勤対応システムの導入により、計算ミスの削減と業務時間の大幅短縮を実現できる
- 休憩時間設定や健康管理、正確な給与計算により、従業員の信頼を獲得し離職率低下を目指せる
1.夜勤とは?労働基準法における定義と基本知識

夜勤管理を適切に行うためには、まず労働基準法における夜勤の正確な定義を理解することが重要です。ここでは基本知識を確認しましょう。
夜勤の法的定義(22時〜翌5時)
労働基準法では、午後10時から翌日午前5時までの時間帯を「深夜」と定義しており、この時間帯に労働させることを深夜労働としています。一般的に「夜勤」と呼ばれる勤務形態は、この深夜時間帯を含む勤務のことを指します。
深夜時間帯の労働には25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられており、人事・総務担当者は正確な時間管理と給与計算を行う必要があります。
参照:e-Gov法令検索「労働基準法」
深夜労働との違いと共通点
「夜勤」と「深夜労働」は混同されがちですが、厳密には違いがあります。
夜勤 | 主に夜間時間帯をメインとする勤務形態を指す一般的な用語 |
深夜労働 | 22時から5時の時間帯での労働を指す法的用語 |
共通点として、どちらも深夜割増賃金の対象となり、労働者の健康管理に特別な配慮が必要です。
夜勤が必要な業界・職種の特徴
夜勤が必要な業界には明確な特徴があります。以下でみていきましょう。
- 医療・介護施設
24時間体制での患者ケアが必要なため - 製造業
連続稼働による生産効率向上のため - 警備・清掃業
夜間の安全確保や作業効率を重視するため - 運輸・物流業
深夜の道路状況を活用した効率的な配送を行うため
これらの業界で働く従業員の労働条件は法的に厳格に管理される必要があり、人事・総務部門は業界特性を理解した上で適切な労働環境を整備することが求められます。
2.労働基準法|夜勤に関する重要ルール

夜勤管理において最も重要なのは、労働基準法で定められたルールの正確な理解と適用です。違反した場合の罰則もあるため、人事・総務担当者は必ず把握しておきましょう。
深夜割増賃金25%以上の計算方法
労働基準法では、22時から翌5時の深夜時間帯に労働させた場合、25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。
計算式:1時間あたりの賃金×1.25×深夜労働時間
▼例えば、時給1,000円の従業員が22時から翌2時まで4時間勤務した場合
→時給1,000円×1.25倍×4時間=5,000円
日をまたぐ勤務の労働時間カウント方法
夜勤では日をまたぐ勤務が発生するため、労働時間のカウント方法に注意が必要です。労働基準法では、勤務開始日を基準として1日の労働時間を計算します。
■具体例:水曜日の22時に勤務を開始して、翌朝木曜の7時に終了した場合
以下のように、勤務開始日の1日分の労働として扱われます。
× 水曜日2時間勤務、木曜日7時間勤務
〇 水曜日開始の9時間勤務
この場合、8時間を超える労働にあたるため、時間外労働となり追加で割増賃金が発生します。詳しい計算方法については、「深夜手当と時間外手当が重複するケースの計算」で解説していますので、参考にしてください。
夜勤が制限される対象者(18歳未満・妊産婦)
労働基準法第61条により、18歳未満の年少者は原則として深夜労働が禁止されています。また、妊婦や産後1年を経過しない女性従業員から申請があった場合も、深夜労働をさせることはできません。これらの規定に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
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3.夜勤の休日に関する特別ルール

夜勤における休日の管理は、日勤とは異なる特別な配慮が必要です。法的要件を満たしながら、従業員の健康管理も適切に行いましょう。
夜勤明けの休日設定:正しい考え方と注意点
夜勤明けの休日設定は、法令遵守と健康管理の両面から注意が必要です。労働基準法では毎週1回以上の休日が義務付けられていますが、夜勤終了当日を休日扱いにすると休息が24時間未満になり、実質的な休日と認められない場合があります。
■具体例:木曜の朝9時に夜勤明けした場合
× 木曜日の夜勤明け9時から休み、金曜日の朝5時から勤務を開始した
→21時間しか休めていないため、法定休日として認められない場合も
〇 木曜日の夜勤明け9時から休み、金曜日の朝9時から勤務を開始した
→24時間休めているので、法定休日として認められる
夜勤は体内リズムを崩し疲労が蓄積しやすいため、夜勤明けは翌日を休日とする運用が望ましいでしょう。また、連続で夜勤を続けた後は、夜勤明け+翌日を連休にすることで健康リスクを低減できます。
連続夜勤の上限と健康管理の重要性
労働基準法では連続夜勤の明確な上限は定められていません。しかし、連続夜勤は生活リズムの乱れや疲労蓄積により、労働災害のリスクが高まる傾向があります。
労働安全衛生法に基づく安全配慮義務により、従業員の健康管理は使用者の責任となります。人事担当者は、従業員の健康を守るためにも、充分な休日を設ける等の対策を講じましょう。詳しくは、「安全配慮義務と夜勤従業員の健康管理」で解説していますので、参考にしてください。
4.夜勤の給与計算でよくある間違いと正しい方法

夜勤の給与計算は複雑で、間違いが起こりやすい分野です。労働基準法違反を避け、適正な給与支払いを行うためにも、正しい計算方法を理解しましょう。
深夜手当と時間外手当が重複するケースの計算
労働基準法では、原則として1日8時間または週40時間を超える勤務は時間外労働とされ、割増賃金の支払いが必要です。夜勤の場合は、深夜手当25%と時間外手当25%が重複適用され、合計50%の割増賃金が発生します。計算式は「基礎賃金×(1.25+0.25)×労働時間」で給与を求めます。
■具体例:時給1,000円の従業員が午後2時から深夜24時まで労働した場合
14:00~22:00(8h):1,000円×8時間= 8,000円
22:00~24:00(2h):1,000円×時間外労働&深夜手当1.5倍×2時間= 3,000円
合計:11,000円
さらに、法定休日の深夜労働では休日手当35%と深夜手当25%で60%の割増となるため注意が必要です。
月給制従業員の夜勤手当計算の注意点
月給制従業員の深夜手当計算では、まず「月給÷月平均所定労働時間」で時給を算出します。月平均所定労働時間は「(365日-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12ヶ月」で求められます。
■具体例:月給25万円、年間休日125日、1日8時間勤務の場合
月平均所定労働時間:(365日ー年間休日125日)×8時間勤務÷12ヶ月=160時間
→時給:25万÷160時間=時給1,563円
この時給を元に、深夜手当を計算しましょう。
夜勤手当と深夜手当の違いを理解する
夜勤手当と深夜手当は全く異なる概念です。
種類 | 義務かどうか | 内容 |
---|---|---|
夜勤手当 | 企業の任意 ※就業規則で定めた場合は義務 | 企業による |
深夜手当 | 法的義務 | 深夜時間帯勤務の場合は25%UP |
夜勤手当を支払っていても、それが深夜手当の法定基準(25%以上)を満たさない場合は労働基準法違反となるため注意しましょう。
5.夜勤の勤怠管理が複雑になる理由と解決策

夜勤の勤怠管理は日勤に比べて格段に複雑です。その理由と効果的な解決策について解説します。適切な管理体制を構築するためにも、ぜひ参考にしてください。
複雑な理由1|手作業管理の限界
手書きのタイムカードや勤務表による夜勤管理の場合、日をまたぐ勤務時間の計算、深夜割増賃金の算出、時間外労働との重複計算など、複雑な計算が必要となり、人的ミスが発生しやすくなります。
特に、22時前後の時間帯や連続勤務の境界線での計算間違い、休憩時間の適切な記録漏れが頻発します。

手作業では法改正への対応も難しく、コンプライアンス違反のリスクが常に存在します。
複雑な理由2|エクセル管理の問題点
エクセルによる夜勤管理は手作業より効率的ですが、依然として多くの問題を抱えています。
- 数式エラーによる計算ミス
- 複数人での同時編集による競合問題
- データのバックアップ不備によるリスクなど
また、夜勤特有の複雑な勤務パターンに対応した数式の作成や保守には専門知識が必要で、法改正時の数式修正も大きな負担となるでしょう。さらに、リアルタイムでの勤務状況把握が難しく、労働時間の上限管理や健康管理への迅速な対応ができません。
解決策|夜勤対応勤怠管理システム導入
夜勤対応の勤怠管理システム導入により、これらの問題は大幅に改善されます。
■自動計算による人的ミスの大幅削減
- 日をまたぐ勤務の自動計算
- 深夜割増賃金の正確な算出
- 時間外労働との重複処理
■法的リスクの回避
- アラート機能による労働時間の上限管理や健康配慮
- 法改正への自動対応機能
さらに、給与計算システムとの連携により、給与処理の効率化も実現でき、人事・総務部門の業務負担が大幅に軽減されるでしょう。
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6.夜勤管理で法令違反を避けるためのポイント
夜勤管理で法令違反を避けるためのポイント
36協定の届出
安全配慮義務と
健康管理
労働時間の上限規制
夜勤管理における法令違反を防ぐためには、複数の法的要件を同時に満たすことが求められます。重要なチェックポイントを押さえ、適切な管理体制を整備しましょう。
36協定の届出
労働基準法において、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、36協定の締結と届出が必要とされています。36協定で定める時間外労働の上限は月45時間・年360時間が原則で、夜勤であってもこれを超える場合は違法です。
特に連続夜勤や長時間夜勤では、時間外労働の累積に注意が必要です。36協定の特別条項を設けた場合でも、月100時間未満(休日労働含む)、年720時間以下の上限は絶対に超えてはいけません。
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36協定の適切な運用は夜勤管理のポイントです。違反を避けるためにも、上限時間や届け出の方法など、基礎知識を確認しておきましょう。
安全配慮義務と夜勤従業員の健康管理
労働契約法第5条に定められた安全配慮義務により、企業は従業員の健康と安全に配慮する義務があります。連続夜勤や過度な長時間夜勤は、生活リズムの乱れや疲労蓄積により労働災害リスクが高まるため、過労死や労働災害が発生した場合、企業の責任が問われる可能性があります。
以下のような対策を講じて、夜勤従業員の健康管理に努めましょう。
- 連続夜勤回数の制限
- 十分なインターバル時間の確保
- 定期的な健康チェックの実施など

夜勤従事者には、健康診断の特別項目を設けることも推奨されます。
参照:e-Gov法令検索「労働契約法」
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夜勤従業員の健康管理は企業の重要な責務です。具体的な健康診断の運用方法や管理のポイントについては、以下の記事を参考にしてください。実践的な手法を紹介しています。
労働時間の上限規制
2019年の働き方改革関連法により、時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられました。夜勤は勤務時間が長時間化しやすい傾向があるため、上限規制の抵触に注意が必要です。
勤怠管理システムでのリアルタイム監視や自動アラート機能を活用し、上限に近づいた際は即座に把握して早期対応できる体制を整えましょう。
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運送業界では働き方改革への対応が急務となっています。業界特有の課題と具体的な対応策については、以下の記事を参考にしてください。実践的な取り組み方法を紹介しています。
7.適切な夜勤管理を実現する方法
適切な夜勤管理を実現する方法
勤怠管理システムの導入
シフト作成のコツ
従業員との
コミュニケーション
夜勤管理の効率化には、適切なシステム選択とコミュニケーション改善が不可欠です。ここからは、具体的な実践方法をご紹介します。
夜勤対応勤怠管理システムの導入
人的ミスを減らし作業効率を上げるためにも、勤怠管理システムの導入は必要不可欠です。夜勤対応の勤怠管理システムを選ぶ際は、以下の機能があるかを必ず確認しましょう。
- 日をまたぐ勤務の自動計算機能
- 深夜割増賃金の正確な計算機能
- 変形労働時間制への対応
シフト作成時のコツ
夜勤のシフト作成では、労働時間の上限管理が重要です。従業員の健康を守り法令遵守したシフトを作るためにも、以下の点に留意しましょう。
- 36協定の限度時間
- 連続勤務日数
- インターバル時間など
また、夜勤は生活リズムが乱れやすく、心身の健康や家庭生活に影響が出やすいため、従事者の年齢や健康状態、家庭事情を考慮した配慮も重要です。

従業員の健康に配慮することで、結果として作業効率の向上や定着率の向上にもつながります。
従業員とのコミュニケーション
夜勤管理では、従業員とのコミュニケーションが特に重要です。定期的な個別面談などを通じて、以下の対応を心がけましょう。
- 体調や家庭事情の把握
体調不良や家庭事情の変化を早期に把握し、必要に応じてシフトを調整する。 - 給与・手当の透明化
夜勤手当や深夜手当の計算方法を明確にし、給与明細の詳細説明を行うことで従業員の信頼を得る。 - 勤怠管理のサポート
勤怠管理システムの操作方法や労働時間の確認方法を丁寧に説明し、従業員が自身の労働状況を把握できるよう支援する。 - 健康や夜勤の特殊性の共有
夜勤の特徴や健康への影響について正しい情報を提供し、従業員の理解と協力を得る。
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夜勤従業員の心身のケアは継続的なサポートが必要です。メンタルヘルス対策の具体的な手法については、以下の記事で詳しく解説しています。
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